第4話
フォームに何を入力してもらえばよいか。情報はあるだけよいだろうけど、ネット上に個人情報なんてやたらと書きたいものでもない。必要最小限の情報のみの記入としよう。そう考えると、何が必要なのかという問題がある。実際、僕は何をこれから、運命と錯覚させるために使うだろうか。白身魚のフライの二つ目に手を付けたとき、スーパーが思い浮かび、試食のおばちゃん、パンケーキ、ファテ、マスターとつながって、パンケーキでの成功を思い出した。これが原点だったのだから、これを参考にすればよい。この時に使った情報は元から知っていることも多かったから、すぐ実行できたのだろう。まず、マスターの家と職場、通勤ルート、それに同僚の顔や特徴、SNSも分かっていた。
さらに、マスターと直接話す手段、同僚のSNSへの影響の与え方も分かっていた。やはり身近な人だからできたことなのだろうか。あとは、このような情報を相手にフォームに書き込んでもらえばよい。お代わりしたご飯がなくなり、空腹感もなくなった。20時前から作業を始めることにしよう。暇つぶしにテレビをつけるとブラック部活の話題であった。僕の頃も現在ではブラックと呼ばれるもので、もっと昔の世代では当たり前だったような気もするが、時代が違うのであろう。社会は敏感になったし、ブラックと言われればその通りな気がする。
ちなみにテレビはかなり小さいものだ。リサイクルショップで買って来た。その一方で、ノートパソコンは一級品だ。動作も重量も軽い。サイトの雛形はフリーのものを持ってきた。全体的にアングラな雰囲気を醸し出してみた。サイトのタイトル、つまり、この活動の名前は「運命を演出します」にした。的確な説明だし、目を引くはずだ。残すはフォームだけとなった。まず、依頼者の方はメールアドレスの入力を必要最低限の条件にした。どのように運命だ、と錯覚させるのかを自由に記述してもらう。
その際、マスターにパンケーキを新メニューにしてもらう話を例として載せておいた。だれに錯覚させるのかの欄はもう少し内容を増やした。相手の名前、住所、電話番号、性格、背格好や顔、年齢、所属している団体、利用しているSNSなどだ。すべては書かなくてもよいですが、実行できない場合がありますとしておいた。また、すべての依頼を実行することはできませんとしておいた。まあ、最初の方は依頼件数も少なくて、全て実行することになるだろうけど。また、料金は発生しないこと、入力された情報は依頼の遂行以外には使わないことも明記した。フォームも終わり、体裁を整え、全世界に公開したころには、11時を回っていた。意外と時間のかかるものだ。僕はそのまま寝た。
起きると7時30分過ぎだった。昨日買った6個入りのパンを一つ食べ、大学へ行く準備を始める。今日は一限からとっている。わざわざ、必修でないのを。自転車に乗って、キャンパスに向かう。行く途中に、練習着すがたで走っている中学生のかたまりとすれ違った。まだ8時過ぎだが。駐輪場に自転車を止めて、講義室へ向かう。月曜を一限から取ったのはやはり失敗かもしれない。そんな憂鬱も授業後には消えていた。たまたま、一限の内容は個人情報などの法律に関連があり、今知りたい分野の話だった。午前の授業を全部、無事終えた。今日はこれから授業はなく研究室に行くという友人と少し外で話す。今日は同じ授業終わりの前田と松井だ。
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