PVを上げる簡単な方法ありますよ

「ちなちなちな、んふ。なんなんですがなん。その。ぶふ。コンクールの」


 三吉はまだ笑いが収まらない。そのため、半分くらい何を言っているのかわからない。


「ペンネームは」

「4月1日に『つちばしれい@さよなら平成』に変えた」

「恥ずかしげもなく大便乗した結果が7PV!」


 涙を流しながらおれを指さし笑っている。こいつ、もう3年分くらい笑っているのではないだろうか。


「なにせ7PVだからな。サイトに寄生したケジラミみたいなもんだから、多分運営もいちいち目を通してない」


 なななな、ななななと歌いながら三吉は身体を左右に揺らす。そういえばそんな芸人がいたな。


「それは被害妄想に過ぎますよ。単純に、ひたすらつまらなかったんじゃないですか」

「いや、むしろ『おまえみたいなもんが書いたの、タダで置いとく必要がない。読むのも苦痛だったし、慈善事業じゃねえからカネよこせ』とか言われてもおかしくない」


 自分でもおかしなことを言ってるのは自覚している。自覚しているうちは大丈夫なはずだ。


「なので、今おれはこう見えて忙しい。新作を書かないとならないのだ。今までのものでダメなら、こう、その、ガッとくるようなもので」

「書きかけのとか、途中のとかないんですか?」

「あるんだけどPVが……」

「PV欲しさに書いてるんですか?」

「いや、見てほしいけど、PV目的というわけでは……」

「そうですか。もし目的がそれだったら、ツイッターとかを炎上させて宣伝してみてはと勧めるとこでした。簡単ですよ、サルになりましょう。コンビニ行って会計前のおでんとかその場で食べればいいんですよ。人間からヒトではなく、サルにまで戻ればいいんですよ。サル、サル」


 その手もあるな、と少しだけ気持ちが揺らいだおれは、無言で三吉の土産のティラミスに手を伸ばした。パクリやらなんやらで盛り上がった「ティラミスピーポー」の逸品だ。ここの経営者とは悪い意味で気が合いそうな気がする。


「自己満足の趣味で書いてるのにPV欲しいって、それは百歩譲った言い方をすれば、人前で脱糞をしておいて『見るな!』ってのと同じじゃないですか。そもそも土屋さんが小説というだけで笑えるのに」

「ああ、脱糞系も書いた。12PVだった。夢の二桁越えたので大ヒットといってもいい」

「なにが脱糞系ですか。そんな系統ないでしょう。どんだけ退屈なもの垂れ流してるんです?」


 ダイレクトな物言いが突き刺さる。言い返せない。言い返す根拠が見当たらないのだ。

 かといって悔しいかといえばそんなことはない。言われてみれば全てその通りなのである。


「退屈というのは当たっているかもしれない。地味にもほどがあるなあ、言われてみれば」

「ヒット作の系列に乗っかれば」

「異世界とかハーレムとかニートとかチートとか最強とか、殺虫剤ぶっかけたくなる」

「小説書かずに大人しくコード組んでいた方が良いですよ」


 こいつは全て正論だけで人の考えを処理しやがる。端的にいうと「変なことにかまけていないで、きちんと仕事をしなさい」と言っているのだ。

 言っていることは正しい。言い方はどうかと思うが。

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