第105話 チェンマイ
チェンマイ行きの夜行寝台列車は、2等車両といってもスリランカの2等車と違い、冷房も効いているとても綺麗な車両です。
席についてしばらくすると、ホテルのボーイのような衣装の男性がやってきて、綺麗に料理の写真が印刷されたメニューを持ってきます。
ここで夕食がオーダーできるわけです。
夜寝るときに冷房が効きすぎてやや寒かったことを除けば、たいへん快適な列車の旅でした。
一夜明けて朝になればチェンマイに到着です。
チェンマイ駅を出ると、たくさんのホテルの客引きです。
チャンマイはバンコクに比べると宿の相場がたいへん安く、バンコクの高めのゲストハウスとそう変わらない値段でも、安いホテルなら泊まれます。
私は価格と立地のよい、適当なホテルの客引きの車に乗りました。
到着したホテルは新市街と旧市街を結ぶターペー通りにあるホテルで、値段の割に立派な建物でした。
広いロビーはバンコクの中級ホテル並みに立派なものです。
立派なレストランや、マッサージルームなども完備されています。
案内された部屋もたいへん広く清潔な部屋で、TVと冷蔵庫もありました。
もちろん温水の出るバスタブ付。
コストパフォーマンスは最高で、満足のいく宿です。
宿に荷物を下した私は、新しい街に着いたときにはいつもそうしていたように、街歩きに出かけます。
ホテルを出るとすぐに、若いトゥクトゥクの運転手が声をかけてきました。
「お兄さんどこに行く?セクシーマッサージに行かないか?かわいい女の子がいっぱい居るよ。値段はとてもチープさ」
それを無視してターペー通りに出て、旧市街の方向に歩きます。
数百メートルも歩くと旧市街の入り口、ターペー門です。
・・・要塞だな、これは。
中田さんはキャンディに似ていると言ってましたが、むしろゴールに似ていると思いました。
そのため、なんだかこの城壁沿いの道をサトミが歩いているような気がチラリとしましたが、もちろんあり得ないことです。
頭を振って妄想を追い払います。
ターペー門の周辺には、PIZZAの看板をかかげたレストランがいくつも見えます。
その一軒に入ってみました。
ピザのSサイズを注文すると出てきたのは、これがSならMやLはどうなってしまうのだろうと思うほど大きなものでした。
しかし、味は本格的で、びっくりするほど美味しいピザです。
後に知ったことですが、チェンマイはイタリアン、フレンチはもちろん、ドイツ料理などヨーロッパ料理の美味い店が多いのです。
それから旧市街にはあまり踏み込まず、新市街をぐるっと一周してナイトバザール周辺で流しのトゥクトゥクを拾いました。
中田さんに貰った、静子さんの住所を運転手に渡します。
トゥクトゥクは新市街から郊外に出て、とても景色の良い田舎風景の中を走ります。
どこまで行ってもゴミゴミした都会のバンコクとは、かなり趣が違います。
私は静子さんの所在は、町工場のようなところを想像していたのですが、トゥクトゥクが滑り込んだのは、大きな高床式の民家の庭でした。
庭掃除や洗濯をしている16~17歳くらいの少女たちが数名見えます。
トゥクトゥクを降りた私は、そのうちのひとりの少女に、最近少し話せるようになっていた片言のタイ語で尋ねました。
「静子さんはおられますか?」
すると少女はとてもきれいで聞き取りやすい英語で答えました。
「静子は今、工場に行ってます。間もなく戻ると思いますのでお待ちになられますか?」
「はい、そうさせてください」私も英語で返しました。
少女は庭の木陰に椅子を置いて
「こちらでお待ちください」と私を案内しました。
しばらくすると、冷たいお茶が運ばれてきます。
この子達は静子さんのところで働いているのだろうけど、すばらしく教育が行き届いていることに感心しました。
20分ほど待った頃でしょうか。
一台の、まるで軍隊から払い下げられたようなカーキ色のジープが庭に滑りこんできました。
その車からひとりの女性が降りてきます。
ソバージュの長めの髪、日に焼けた肌。
軍用のカーゴパンツを履き、やはりカーキ色のタックトップを着ています。
わりと長身でスラリとした体は、しかし鍛えられた筋肉の持ち主です。
顔はもしかしたら西洋人の血が混じっているのかもしれない・・と思うほど彫が深い。
エイリアン2のころのシガニー・ウィーバーのように逞しくカッコイイ女性です。
ツカツカと私に向かって歩いてきて言います。
「あなたがトミーちゃん?早かったわね。遠いところをご苦労様」
・・・この人が静子さんか。。
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