第38話 戦略を練る
「デワ、ボウイ。今日の夕方から稽古しよう」
部屋に戻ってひといきつくまえに、私はふたりに言いました。
「え、センパイもうやるの?生徒もいないのに?」
デワがすっとぼけた顔で言います。
「馬鹿かお前は。生徒を集めるためにデモンストレーションをやらなきゃいけないだろ。その練習をやるんだよ」
「はー。。デモンストレーションですか。どこでやるんです?」
この馬鹿野朗はまるで他人事です。。。
「どこって・・・それはどこでも人が集まるところだよ。公園なんかがいいんじゃないか?」
「オス。それで何をやるの?」
「だーかーらー!!それをみんなで考えながら稽古するんじゃない。お前もちっとは考えろよ」
「あのー。。。それって、デワ先生とトミーセンパイがやるんだよね?」
ボウイが恐る恐るたずねます。
「お前もやるんだよ。お前だってここの道場生なんだから」
「・・・なあ・・センパイ。オレ、今ここに初めて来たんだから、何も出来ないよ」
「わかってるよ。でも例えば板を持つくらいできるだろ。そういうのを今日練習するの。デワも分かった?」
「オス。で、デモンストレーションていつからやるんです?」
「明日からだよ!のんびりやってたら道場が出来るまでに何年もかかっちゃうよ。僕は急いでるんだ。今月中にはここが満杯になるくらい生徒を集めて、格好つけるから。それでデワに引き継げば任務終了だ。だからデワだってちゃんと指導できるように勉強しなきゃ。忙しいんだぞ・・・わかってるのかね。。」
本当にデワは頼りない。こんなのを仮にも先生に仕立てようというんですから、中川先生の命令とはいえ。。
「とにかくひとまず解散!デワとボウイはひとまず仕事に戻れ。おい、ボウイ。ちゃんと稼げよ。ヒルトンあたりに泊まって居るフランス人の老夫婦とか、そういうのを狙えよ」
私は部屋に戻ってデワの蔵書を漁ります。
デワは頼りない奴でしたが、この部屋にある空手や拳法・・・はてはムエタイ、忍術まで・・・に関する書籍のコレクションはかなりのものでした。
大半が英語の本でしたので、読むのは骨が折れますが、この手の本は写真が多いのが良い。
雑誌もアメリカの”Black Belt”や"Inside Kung Fu”なのどバックナンバーがぞろっと並んでいます。
・・・デワもそうとうカネかけてやがるな・・・・
これらの書籍を漁りながら、私はなにかデモンストレーションに役立つヒントを探しておりました。
私が日本で練習してきた演目は「石割り」「ビン割り」くらいでした。
石割りだけでもボウイはかなり驚いていましたし、ビン割りはここに来る前にタイで揉めたとき、大変役に立ちました。
しかし・・・私は考えます。
いずれもこれは技が小さい。手刀や正拳をふるうだけではちょっと地味すぎます。
手品に例えるなら、私のやっているのはテーブルマジックです。
観客が少なく、ごく近くで見せる分にはいいのですが、大人数に空手の破壊力をアピールするにはもっと大きな・・・つまりイリュージョンとまではいかなくてもステージマジック級のネタが必要です。
それにはやはり蹴り技、跳び技をやらないと。。。
私は空手の技の中では比較的派手な技を得意としていましたが、ここで色んな本を見ていると、見せる技華やかな技では、空手より中国拳法やテコンドーに分があります。
”Inside Kung Fu”にアメリカのどこかで行われた演武会の記事が載っていました。
「・・・おお、これだ!」
私は思わず声を出しました。中国拳法の大技、「旋風脚」の分解写真が目にとまったのです。
演者は女性でしたが、すごく派手でかっこいい。
「旋風脚」とは騎馬立ちのような腰を低くした姿勢から、後を振り返ると同時に左膝を挙げて反動をつけて跳び上がり、右足を振り回すように回転させ後の敵を蹴り、360度回転してもとの姿勢に戻る。
これをもっと空手的にアレンジして、試し割りと組み合わせれば・・・かなり迫力があるでしょう。
・・・しかし、これで何を割ればいい?
さらにそこら中の本を出しては広げます
・・・あった!これだ!
その写真は以前にも見たことがあります。
「小さな巨人」と言われた、有名空手家が抜き手でスイカを真っ二つに割っている。
これは派手です。
おそらくスイカが割れるのを見た人は、人間の頭部が破壊されて脳漿が飛び散るような残酷な印象を受ける事でしょう。しかしそれだけ空手の破壊力に畏敬の念を持つに違いない。。
早速、部屋の広い場所で練習してみます。
構えて・・・後回し蹴りを出す要領でクルリと回って膝を上げて・・・その足は蹴らずに反動をつけて跳ぶ!
・・・・ガタン!
「あう~っつ。。。」
跳んだ瞬間に、私の足は側のテーブルを蹴飛ばしていました。
・・・いてて・・・やはりここは狭い・・・道場に行ってから練習しよう。。
そのままベッドに寝転び、足の痛みが引くのを待ちました。
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