第39話 人間ウォッチング

私は空手バックパッカーなどと名乗っておりますが、「空手家」などという立派な者ではありませんでした。

どちらかというと私は「空手大道芸人」だったと思います。

私がアジア諸国でやっていたことは武者修行などではなく、芸を見せて客を集めていたのです。

本気で命を懸けて空手修行しておられる方からすれば大変顰蹙ものなんですけど、私はある時期には空手芸を見せて食事や小銭を恵んでもらったりもしておりました。

石を割って見せた後、スプーンを念力で曲げる(もちろん手品です)などもよくやりました。


こういった格闘技や武道ではない「大道芸としての空手」のネタを一番真剣に考えたのがコロンボのデワの書斎(つまり当時の私の寝床)でした。

・・・とにかく一般人にウケる技、派手で見た目の良い技・・・これをやらなければ。

膨大な空手・拳法関係の書籍をひろげて、気になる技をピックアップしてメモします。


そうこうしているうちにお腹が空いてきました。

さて、さきほどテーブルを蹴飛ばしてしまった右足も、さほどひどい痛みはありませんので立ち上がります。

町に出てみようかとも思いましたが、夕方までにデモンストレーション用の技を煮詰めておかなければならないので、ホテルのレストランで済ますことにします。


レストランはわりと小ぎれいで、テーブルすべてに白いテーブルクロスがかけられております。

そして客は誰も居ません。

このホテルも今朝までいたゲストハウス同様、宿泊客が少なくなっているのでしょう。

席に着くとすぐにウェイターがやってきました。


「いらっしゃいませ。スリランカ料理になさいますか?それとも西洋料理?」


「スリランカ料理がいい」


私はスリランカ滞在中、ほとんどスリランカ料理を食べていました。つまり毎日毎食カレーです。


「スリランカ料理でしたら、ビュフェになっています。あちらで自由にお取りください」

見ると、大きなビュッフェ用の保温器がいくつも並んでいます。


・・・しかし・・・こんなにお客がいないのに、ビュフェって大丈夫なのか?


がとりあえず行って、大皿に飯をもりつけます。

カレーは4種類もある。全部のカレーをすこしづつ、それとサンボル(和え物)を取ります。

テーブルに帰って食べてみます。悪くない。外国人向けなのでしょうか、辛さがおさえてありますがまずまずの味です。


腹が一杯になったところで少し、外の風に当たってみたくなりましたので、ホテルの前の道路に出ます。

玄関前に立っている武装したガードマンに手を挙げると、ニコッといい笑顔を見せてくれました。

外に出た瞬間、頭の上に炭火をかざされたような熱気とまばゆい光。

ホテル内が暗かっただけに、強烈に感じます。


ホテル前の道路は道幅10mほどで、車の交通量は少なく、人がたくさん歩いております。

このあたりは居住区ですので、女性や子供が多い。

かなり古い、おそらくはイギリス人が作った街並みですので、古いビルが並んでいます。

ホテルの真向かいのビルなどは上半分が瓦解している・・・建っているのが奇跡みたいなビルです。


私はしばらくこの道路に突っ立って、あたりの人間ウォッチングを楽しみました。

スリランカ人の最大の特徴・・・それは、ものすごい美形民族であることです!

とにかく日本なら、メンズクラブの表紙を飾れそうなハンサムや、モデル・アイドルデビュー確実な美女・美少女が、そこらへんにゴロゴロと転がっています。


向こうから白い制服を着た、女子高生か中学生かの10人くらいのグループが歩いてきました。

これがまた、全員がアイドル級美少女です。

彼女達は道端に突っ立っているこの日本人が珍しいのか、私の顔を一様に見つめます。


これはいい!私は彼女たちに微笑みかけます。

すると、全員が急に顔を伏せますが、黒い肌なので白い歯が目立つ。笑っています。

しつこいようですが、スリランカの女の子はメチャクチャにカワイイのです!


美少女軍団が通り過ぎた後、今度は子供の集団です。

3~5歳くらいまでの、男の子ばかり。

みんな薄汚れたTシャツにサロンという腰布を巻きつけて・・・いや、本当に小さな子供は下半身素っ裸です。


アジアではよく見かける光景ですが、小さな子供はトイレがひとりで出来ない。

日本ならオムツを当てるところですが、むこうではなにもはかせないわけです。合理的(?)だ。


わーーー。。声をあげて子供たちが私のほうに走ってきます。

かわいいなあ・・・私は正直あまり子供好きではありませんが、スリランカでは本当に子供がかわいいと思いました。

アジアの子供は貧しくても日本の子供に比べて心が豊かです・・・などと、エセヒューマニストのようなタワゴトを言う気はありませんが単純にかわいい奴が多い。


私もおもわずニコニコ顔になって彼らが来るのを待ちます。

近づいてきた子供たちが手を出して口々に言います。


「マネ、マネ(Money Money)!」


・・・さすがスリランカの子供たちだ。。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る