第13話 嵐の前
さて、翌日の夕方、幽霊バスツアーからチャイナタウンまで戻ってきた私がホテル近くの安食堂を通りかかるとなんと!日本人らしき若い女性(しかもけっこう身ぎれい)がひとりで食事しているではありませんか。
この食堂に日本人は珍しくありませんが女の子がひとりでいるというのは・・・?
私には旅先でひとりでいる女性をみかけると礼儀として(?)声をかける習慣がありますが、はじめてやったのはこのときです。
店に入るなり彼女のテーブルに向かい「こんにちは!!」元気にごあいさつ。
「・・は?はい。こんにちは・・」意表をつかれて戸惑う彼女。
「いやあ、今日も暑いですね(あたりまえだ!)ここ、いいですか?」
「は?はあ。どうぞ」
日本ではこうはいかないでしょうが、私の経験では海外でひとりでいる女性と同席するのは実にカンタン。旅のマジックというやつです。
汁ソバを注文して・・ここから私のウイットに富んだジョークが炸裂しました(この頃はつぎつぎ出たものです。最近では若い女性との世代のギャップを感じるのみなのが泣けます)。
「あは・・・はあ、おかしい!面白いひとですねー。ええとお名前は?」
「冨井といいます」
「私は智子」・・智ちゃんかあ。
「智ちゃんはどこに泊ってるのかなあ?」急にタメグチ。
「**ホテル。冨井さんは?」
「僕も**!なんだおんなじじゃん!」
・・・ラッキー!バンコク二日目にして実に快調だあ。
「それでね、今日彼氏が来るのでここでまってるの」
・・・え。
「智ちゃん、彼氏ときているんだ?」
一気に盛り下がる私・・・。
「ううん、じゃなくて、彼氏がタイ人なの。あ、やっと来た。ハーイ、ポール!」
・・・なんでタイ人なのにポールなんだよ。
さて、やってきましたポールくん。
ベースボールキャップをかぶってスポーツウエアに身を包み、長身ではないがスリムで無駄のない体型をしております。日本人受けしそうな童顔ですが、なんかにやけているのが気に触る。
「ポール!******ペラペ~ラペラペ~ラ!」
智ちゃんは流暢というよりは、FMのDJのようにおおげさな英語でポールくんに私を紹介します。
「はろー。ないすとぅみーちゅー」
私の英語はこんなもんです。(いまでも)
この時点で私はこんな連中に興味はまったくなかったので、あたりを見回すと・・おお、あれは中田さん!ひとりで食堂に入ってきました。
「あ、中田さん・・ですよね!きのうエレベーターの前でお見掛けしました。あ、僕冨井です」
「はい、こんにちは。冨井さん。ここかけていいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
中田さんも変わったひとのようで、初対面同然なのに以前からの知人のような態度です。
それからなりゆき上、中田さんも含めた自己紹介をして(智ちゃんの英語通訳)4人の奇妙な会食が始まりました。
ポールくんと智ちゃんはアメリカ人のカップルのようにおおげさな身振りで英会話。
中田さんはあまりしゃべらずビールを連続で開けます・・かなりいけるクチだ。
ポールくんはときおり食堂の従業員と親しげにタイ語でなにか話しております。
お互い笑っているので何か冗談でも言っているようです。
しばらくして智ちゃんがトイレに立ったあと・・・いままで黙っていた中田さんが突然話し掛けてきました。
「さっきポールがここの店員に話してました・・・俺はもうこの女、飽きちまってるんだけど、いい金ヅルだからしばらく我慢するか・・・てね」
・・・そうだった!中田さんはタイ語ができるんだ!
今ならこの手の話をきいても私はあまり何も感じないでしょう。
が、しかし。このときは擦れてなかったし若かった。
ポールのにやけた顔を見ているとムカムカしてまいりました。
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