第12話 安宿のアイドルと怪人・中田

その夜、私の部屋に「おーい。冨井く~ん」と水口くんがやってきました。


「ああどうも。いらっしゃい」


「どう、部屋は気に入った?落ち着いたかい?」


安宿なので驚いたんじゃないかというニュアンスでしょうが、実をいうと当時私が日本で暮らしていたアパートの部屋はもっとひどかったので、ぜんぜん平気でした。


「ええ、いい部屋です。感謝しますよ」


「そう。それはよかった。ところでさっきの中田とかいう人のこと、高岡さんから聞いたんだけど、あれ、とんでもない人だぜ」


・・・水口くんの説明によると・・・


中田さんの連れていたレックちゃんという美少女は、もともとこのホテルのレセプションの受付をしていたそうで、水口くんが以前ここに泊まっていたときにもいたそうです。


「でね、あのこカワイイだろ。だからここに泊ってる野郎どもはみんな狙ってて、なんとか食事に誘ってみたりいろいろ口説いてみたりしたんだけど固いんだよね、彼女。誰の誘いもニコニコ笑ってはぐらかしちゃうんだ。そのうちにここの野郎どもの間ではアイドルみたいな存在になっていったんだな」


安宿のアイドルかあ。たしかに雰囲気あったものなあ。


「ところが10日ほど前のこと、あの中田というひとが突然あらわれて、チェックインすると同時にレックちゃんを口説きはじめてその日の晩飯をいっしょに食いにいってだ・・・なんとその夜レックちゃんは中田の部屋に泊ったんだそうだ。く~っ。・・あのみんなのアイドルがだぜ」


あれあれ?水口くんもほんとに悔しそうだ。


「しかも、中田って人はなんかタイで買い付けの仕事をしてるらしくて、レックちゃんはその助手みたいになっちゃったんだよな。ほら、ここってただでさえ何年も働かずにブラブラしている奴らの集まりじゃん?そこにあんなビジネスマンみたいな奴が現われてみんなのアイドルをかっさらっていったんだから反感もたれるわな」


私は水口くんの話を聞いて中田さんというひとに大変興味が湧いてきました。


・・・これはぜひお近付きになりたいものだ・・・

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