第9話 タイの地を踏む
「おーい、冨井くん。なにしてる!こっちだ!」
イミグレーションを出るなりスーツを着たタイ人達に英語で話し掛けられ、おたおたしている私に水口くんの激がとびます。
「そいつらについていったら高いホテルに高いタクシーがもれなく付いてくる。そんな旅がしたいのか?相手にするな!」
スーツ組を振り切り水口くんについて行きます。
早足でターミナルビルの扉を抜けると・・ムッとした熱気が・・これがタイの空気か。
タイの空気には日本とは違う独特のにおいがあります。このにおいを嗅いでようやく私は異国の地にいるのだと実感しはじめました。
「タクシー?タクシー?」
運転手達が次々に声かけてくるのを無視して水口くんはぐんぐん進みます。
「あっちだ。あそこにバス停がある・・・あ、来た!走れ!あれに乗るっ!」
突然、走り出す水口くんを追って私も走ります。
駆け込み乗車した市バスは混んでおり、熱気が充満しておりましたので一気に汗が噴き出します。運転はすこぶる乱暴。乗客を転ばすことを生きがいにしているかと思われる運転手は急発進・急停車を繰り返しますが、さすがに乗客もなれたもので転ぶものはいませんでした。
車窓から見えるバンコクの風景・・ビルや商店の看板・・ナメクジの這っているようなタイ語と漢字の入り混じった景色を見ているうちに訳の分からない感動がおしよせてきます。
・・・ああ、ほんとにここは日本じゃ無いんだ。が・い・こ・く・だあっ!
一時間半は走ったでしょうか。バスは巨大なカマボコのような建物のあるターミナルに入ります。
「着いたぞ。ホアランポーン(バンコク中央駅)だ」
終点です。・・これは分かりやすい。次回から間違える心配はないな・・・
「これから俺の定宿に行くから部屋を見て気に入ったら泊まればいい」
水口くんの話によるとこのあたりには日本人が多く泊る宿が数件あり安いのから高いのまでいろいろあるが、これから行くところは中の上くらいのレベル(?)だそうです。
私はチャイナタウンという言葉から横浜中華街や神戸南京街をイメージしておりましたが、ここは薄汚れたいまにも崩れ落ちそうなビルが立ち並んでおり何かスラムのような危険な雰囲気を漂わせていました。
そんな薄汚れたビルのひとつが目的のホテルでした。
食堂の横の開けっぴろげな入り口を入ると広いロビー(普通のホテルのロビーをイメージするとおおはずれです。ただ広い空間というだけ)奥にはレセプション(というより帳場というほうがぴったり)があります。
「どうする?泊る?」
もう日が暮れておりましたのでこれから宿さがしでうろつくのは気が進まない・・・はやく荷物をおろしたいということもあり
「はい。ここにします」
と答えました。
そのときエレベーターの扉が開き(ここは古いビルですが、ちゃんとエレベーターがありました)ちょっと小汚い30過ぎくらいの日本人男性がふたり降りてきました。
「おおっ。おい、水口じゃねえか」
「え、ああ、高岡さん?まだ居たんですか?」
「まだ居たのかってお前・・・ごあいさつだなあ・・・・ん、今回は連れがいるのか?」
「いや、たまたま機内で一緒になったんですがね・・海外はじめてらしいんですよ」
・・・相手が何者かまったく分からないのですがとりあえずご挨拶しておこうか・・・
「はじめまして。冨井といいます」
「冨井くんか。俺は高岡。よろしくな。あ、こっちは三好くんだ」
「あ、ども。三好です。冨井くんはバンコクはじめてなんですね。じゃ、なんでも分からないことは高岡さんに聞くといいですよ。この人もう1年近くここにいますからなんでも知ってますから」
・・・1年もこのホテルに・・?・・何をしてるひとなんだろう?
「いやいや、1年っていってもずっとここにいるわけじゃなくて、マレーシア行ったりもどったりしてるんで・・ま、結局ここが居心地がいいんで長居してるんだけどね。うん、なんでも俺で分かることは教えるから聞いてくれよ」
おおっ、高岡さん親切な人だ。
こういうベテランの人にぜひ聞きたいことがあるのです。
「あのう・・さっそくなんですが教えてほしいことが・・・・・・」
そのとき、ホテルの玄関の前に騒々しい音をたてて2台の三輪タクシー(トゥクトゥク)が止まりました。
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