第8話 人生初フライト

バックパッカーのベテランであるTさんのアドバイスにより、スリランカに行く前にバンコクで数日を過ごすことにした私はいまや機上の人となりました。


私は今日まで飛行機に乗った回数は3桁を下りませんが、このときはまさに人生初フライトでした。

生まれてはじめて、というのは何でもそうですが妙に不安でいてなにかワクワクして、どっちかというと楽しいものです。


・・・機内食って旨いのかな?・・おおっ!タイ人のスチュワーデスさんだ!・・・


・・・離陸だ・・・・速いなああああっ・・・おお!飛んだあああ!・・・


こんなことで感動できた頃がなつかしい。人というのは経験を積むごとに感動しなくなるものですね。


機内ではドリンクが配られ一息ついたところで私はとなりの人に話かけてみることにしました。

おそらく私と同年代の男性でやはり独り旅の様子です。


「こんにちは。おひとりですか」


「え、ああ。そうだけど」


あまり愛想のよい人では無いみたいです。


「タイを旅行されるんですか?」


「いや。ひとまずタイにいってから世界旅行しようと思って・・あんたは?」


「タイからスリランカに行くんですが、僕は海外はじめてなんですよ」


「えっ、はじめてなの?」


「はい。あなたはよく旅行されるんですか?」


「俺はまあ、ちょくちょくね。ふ~ん。はじめてでバンコクについてからどうするつもりなの?どこに泊まるわけ?」


私が海外初心者とわかるとなぜか急に饒舌になりますこの男。

が、この男どうやら旅慣れた奴らしい。私も一日もはやく初心者から抜け出さねばなりません。


・・・この男から旅のノウハウをぬすんでやろう・・・


「それがなにしろ右も左もわからないものですから・・よかったらアドバイスしていただけませんか?」


「ふ~ん。まあはじめてじゃ仕方ないな。よし、俺はチャイナタウンに宿をとるから一緒に連れてってやるよ」


・・・以外に親切じゃん。この男。


「ありがとうございます。僕は冨井といいます」


「俺は水口。よろしく!」


「水口さん。しかし世界旅行ってどれくらい行かれるんですか?」


「時間は無制限。行けるところまで行くのが本当の旅ってもんだよ」


・・・すごいなあ・・このときは素直に感心したものです。


「よかったら今までの旅のお話聞かせてもらえませんか?世界旅行は今回初挑戦なんですか?」


「いや・・・・2回目なんだけど・・・・・・・」


なぜか言いよどむ水口君。


「前回はどこまで行ったんですか?」


「・・・・・バンコクで・・・・挫折した・・。」


「はあ?バンコクって、いきなりじゃないですか。またどうして?」


「・・・身ぐるみ・・剥がされた・・・」


水口君の口がどんどん重くなります。


「身ぐるみって・・どうして?」


「・・睡眠薬・」


「飲まされたんですか!どういうふうにして?」


「言いたくない」


こう言ったっきり黙り込む水口君。


大丈夫なのか・・・・・・・? こんな奴についていって?

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