言葉を探す小旅行

緋衣蕃茄

言葉を探す小旅行

 私は『言葉』がよく聞こえる。耳が良いとか蝙蝠とかではない。超能力、第六感、その他の類似するものでもないと思う。私の理解できる『言葉』は未だによく分からない。何処から何処までがその『言葉』に分類されるかも知らない。オノマトペだって私からすればよく聞こえる。


 そこで『言葉』の定義が分からないと漸く理解して、私は自分探しの旅にでも出掛けようと計画している。知らない人が見ると変わっていると奇異の眼を向けられるかもしれない。それでもこの好奇心に似た探究心は抑えが効かない。好奇心猫をも殺す。残念なことに私は猫ではない。


 だから私は今から進むのだ。前へ前へと日進月歩あるのみ。旅に困難は付き物だし、それに付随して楽しみもある。旅先の困難も考えようによっては苦難では無く、愉快なお土産になり得るだろう。経験という自分へのお土産だ。いつか有用になるかも知れないし、無用の長物と化すかも知れない。それでも買ってでも失敗しろと言われる世の中だ。経験は無料で且つ優秀な皆の教師。


 可愛い子には旅をさせよ。ネットという解けない網に手足を雁字搦めにされるより何万倍も良い薬。しかし、Webとはよく言うものだ。引っ掛かる人達はさながら蝶々か。いや、そんな事はない。そんな綺麗なはずがない。私もそうだ。畢竟、私は私を俯瞰して旅へと駆り立てる。日帰り旅行もまた良しだ。


 しかし、急に遠出するのも如何なものかと。故に進んで行く。十分もあれば帰ってこれるような小旅行に。







 朝、長く続く塀の上で、猫が欠伸する風景は風情を感じさせる。空は雲があるせいか低く感じる。低い空に伸びない背を伸ばそうと高く空を突く電信柱が等間隔に並んでいる。並木道ならぬ並柱道か。近代的というよりはシャッターチャンスを邪魔立てするそれ。その間に見た目の上で怠惰を貪る電線が揺蕩っている。烏が何羽か羽を休めているのか、はたまたゴミ捨て場でも漁ろうと目を光らせているのかは私には読み取れない。烏の下を子供達が避け、目を合さんと努力する姿がある。五人の子供のうち三対二の比率でランドセルとリュックが揺れている。そんな住宅街に、今、私は居る。


 幾つかの家には自然が備え付けられており、巣箱を用意する住人もいるようだ。もしかしたら烏は巣箱の雛を狙っているのかも知れない。文字にすると相当な小児性愛者だ。そう考えるとつい生温かい目で見てしまう。悪い癖だ。自嘲はしても自重する気などさらさらないが。


 街を行く中、喧騒が聞こえてきた。声は男と女の一つずつ。声が壁を揺らし、外の空気までも揺らす所為で近所迷惑が起きている。一応もう一度綴っておくが、朝だ。正確を期するなら午前七時を少し回った五分。加えると土曜日。何ともまあ傍迷惑な隣人だこと。痴話喧嘩で収まればいいのだが。陶器の割れる音が響いた時点で手遅れと言える。


「いっつも言ってるじゃない!ケチャップはこっちに仕舞うんだって!」


「別に何処でも変わんないだろ…」


 物を仕舞う場所で言い合っている様だ。第三者から見れば些事でしかない。口調から考えるに夫婦若しくは恋仲に近しい間柄だろう。


「変わるの!貴方が居ない時に必死に探すの私よ?解る?貴方の所為でナポリタンが唯のパスタよ!水道代も光熱費も無駄になりかけたわ!」


「…分かったよ。じゃあ場所教えて…」


「じゃあ!?」


 語気を強くし相手を非難する女性。"じゃあ"は禁句だ。地雷だ。世間でもそう認識されていることだろう。カーテンが閉められているからこそ表情は窺い知れないが、言葉遣いが荒く、エスカレートしている。


「あ、いや…」


「またじゃあ、じゃあまた。何なのよ何なのよ!!もういいわよ!そんなに言うなら『離婚』して"じゃあ"とでも『結婚』すればいいわ!」


 この女性を琴線に触れたと書き記すのは些か表現が柔らかくなってしまう。なれば、琴線に気が触れたとでも語っておこう。


 ガチャンガチャン、バコンガコンと屋内は箱ライブさながら。しかし、ヘッドバンギングに慣れた者でも入りたがらないと断言出来る。ヘッドバンギングはかなりの疲労と筋肉痛を伴う。最悪脳梗塞なんて話も。それでも趣味で死ねるならば本望かも知れない。


 しかし、このライブハウスだけは違う。ヒステリック状態な女性が奏でる打楽器と音楽性の違いから関わりたくない男性しかいない。好きなアーティストを求め、お金を払い、盛り上がるライブではないのだ。前者は無料で聴けるという点に関しては良心的と言えるかも知れないが、いかんせん可変拍子が過ぎる。聴いていられない。


「あれはもう駄目かな」


「離婚だ離婚。殺す前に離婚しろ」


『結婚』と『離婚』が夫婦にコメントをしている。やはり彼等からしても離婚は時間の問題だそう。


「男は何も喋らない。冷めたのさ。それでいて夢から醒めたのさ」


「両者がお互いに助け合い支え合う。そんな家庭はできないんだね」


「いやいや、過程はあったさ。マリッジブルーになる前で、シンデレラシンドロームとピーターパンシンドロームの後に。熱くなってドロドロに溶け合ったようなお熱い時期がさ」


 成る程。一時期の熱さはどの組みにも存在する。存在しなければ結婚まで辿り着かなかったろう。そして、少し冷めて、相手が居て当然な存在になり、結婚かどうか決まるのだ。それにしてもそんなにお熱かったのか、と気になってしまう。「あの子とあの人付き合ってるんだってー」そう聞いてもそんな風には映らないのと同じだ。


「いーや、熱かったさ」


「うん、暑かったね。太陽が常に真上から照りつける程には」


 今は何時くらいになるの?


「そろそろ日没だろうさ」


「そうだろうね。今は午前だけどあの夫婦は黄昏さ」


「ははは、面白い事言うなあ」


 なら、その太陽はまた昇る?


「それは分からないな」


「夜でも上手くやれる者達は上手くやれる」


 夜?


「そもそも結婚なんてするから離婚するのさ」


「上に同じく。離婚したくなければ結婚しなければいい。簡単な話さ。でも、世間はそれを良しとしないし、種の存続も叶わない」


「ならどうするか?」


 どうするの?


「妥協」


「諦観」


 種を残し、結婚しない。それはこの国では難しかろう。二者択一の究極な選択肢で迷い、翻弄された挙句妥協せねばならぬのだ。


 事実婚はどの部類に入るのかと思い質問を投げ掛けようとすると、もう『結婚』も『離婚』も消えていた。


 まだ午前七時二十分。日は昇り始めたばかり。太陽に追われながら旅の続きをするも良し、迎え討つのもまた良し。どの方角だって私は行こう。あの家の様に日が沈み、月と星すらも顔を出さなくなればもう終わり。何にも照らされぬ。いや、世間からのスポットライトは照らされる。


 また私は進んで行く。太陽に追われながら。









 公園は公共の場。生垣がぐるっと公園を一周している。何故かランドルト環のような作りで出入り口が一箇所という欠陥品。近隣住民から苦情と改修を浴びせられる役所が眼に浮かぶ。


 それなりの住民税が課せられる地区故に、幸せの下半分は不足はしていないだろうに。


 しかし、現実はランドルト環だ。ほら、子供達が遊んでる。


「右…左……後…左…」


「うおお、えんちゃんスゲー!!」


 目隠しした子供が他の子供に回転させられ、止められた場所から出入り口の方向を当てるゲームだ。上級生は東西南北、下級生は前後左右で行う。少し背伸びしたい下級生は東西南北でやったりするようだけど。


 この公園は中央付近に遊具が集まっていて、その周りをベンチが囲んでいる。保護者が座って子供達を見守れるような配慮だろうか。


 だが、結局見ない親は見やしない。寧ろママ友という話し相手と寛げる場所があるが故に『事故』が多発する。


 事故防止の為、公園には至る所に『禁止』の看板が立たられている。例を挙げるならば、ゴミのポイ捨て『禁止』、ボールを使った遊びの『禁止』、花火『禁止』などなど。


 とても抑圧された公園ね


「そうともさ。禁止禁止禁止。気が滅入っちゃうね。そのせいで事故が増えたりするのに」


「ねえねえ、あまり禁止って連呼しないでよ。参っちゃうわ」


 貴方達はこの公園どう思う?私は使用しても気持ちいいとは思わないのだけど。


「そうね、禁止ばかりだもの。困ったものね」


「ああ、近視も困るよね。このご時世だし。看板読めないかも」


「貴方は黙ってて。でも、建前でさえ禁止しないと近隣住民とクレーマーから非難の嵐。職員が鬱になっちゃうわ。あそこにいるカップルなんて呑気なものね。傍から見ると映えやしないのに。まあ、幸せならいいけど」


 うん。あの人達にも分けて欲しいくらい。


「なんの話?」


 ううん、ごめんなさい。こっちの話。気にしないで。


「それにここらの地域は事故が多いのでしょう?」


「そうともさ」


 すると『事故』が増えた。


「子供の飛び出し」


 と『交通事故』が。


「ペットの噛みつき」


 と『咬傷事故』が。


「そして今まさに爆発事故だね」


「あれは事故の定義には入らないでしょう?馬鹿なの?」


「やや、手厳しいね」


 それで、何かいいかけていなかった?


「御免なさいね。こいつが煩くて。勝手に自己完結して自己満足するの。それでね、事故が多かったりするのはコミュニケーション不足もあると思うの。禁止で抑圧されてインターネットに逃げて疎遠になる。結果、未然に防げる事故が減らないのよ」


 成る程。増えてるんじゃ無くて減らないのね。


「そう。地域の輪って言うじゃない?大切だと思うわ」


 そう言い残して何処かへと消えていった。コミュニケーションは大事なんだなと受動的ではあるが気付かされた。


 しかし、もうこの地域は駄目だろうと私は思う。何故ならもう既に欠けているから。


 また私は進んでいく。公園で遊ぶ子供達を見送りながら。










 時刻は昼を大きく過ぎていた。太陽は傾いて、いつの間にやら追い抜かされていたようだ。空は黄昏ていて、淡くぼんやりと赤が滲んでいる。


 早い人だともう帰り支度をしている頃だろうか。この地域では小学生とパトロールのお爺さん達が和やかに帰路についている。雰囲気は良好で、これこそがコミュニケーションというものだと感じさせられる。


「最近めっきり出番が減っちまったなー」


「私は常に必要とされてるよ」


「はっ、違いねぇ」


「あたしもよく言われる!」


 井戸端会議。主婦の会話ではないので情報交換だろう。言葉たちが会話をしていた。場所は人の会話が多いのか、駅構内に集まっている。


 周辺にはコンビニエンスストアが無駄に多く建ち並び、銀行の支店も数店確認できる。ファミリーレストラン、喫茶店、服屋とウィンドウショッピングを楽しみながら休憩も挟める。


 駅自体は大きくないが、JRと地下鉄の沿線ということもあり、人は多い。人身事故も稀に見かける程だ。


 何を話しているの?


「最近好意をあまり示されないって話をしていたの!好きって言いにくいよね」


 そう。でも、あなたがいるってことは誰かが言ったんじゃないの?


「違う違う。好き、愛している、首ったけ。そういうものを誰かが言ったんじゃない。好意という言葉を使っただけさ。誰かに届けてなんていないよ」


「だから、いつか混沌とした世の中になりそうよねー」


 少数ならカップルだっているんじゃない?


「極一部よ。子供が減ってるみたいだからどんどん減るでしょうね」


「そしたら恋話もへっちゃうかな?」


「大丈夫減らないわ。私とあなたは減らない」


「はー俺だけかー」


 彼等は一体言葉の増減について語って何がしたいのか私にはよくわからなかった。


「減るだけならまだ良いじゃねえか!俺なんて常に走らされてんだぞ!」


 闖入者が会話に割って入って直ぐに去って行ってしまった。


 今のは誰?


「虫酸だ」


「あいつは悲惨な運命を背負ってんのさ」


 彼等によると『虫酸』が走り去っていったようだ。彼に武運を。


「ねえねえ見て見て。初々しいカップルー!」


『恋話』が目を光らせていたのか、帰宅途中であろう高校生カップルを目敏く見つけ、報告した。


「新しい番か」


「まあ、最初だけよ」


「そんな事ないよー」


 高校生カップルは恋人繋ぎで改札から出てきた。出にくいだろうに。会話がぎこちないことから付き合い始めだと推測できる。


 彼氏はチラチラと彼女見ては照れている。一方の彼女はじっと見つめて離れようとしない。その二人の目が少し怖く映る。


「彼女の方が彼氏より好意が強そうだな。だが、彼氏も相手を気にかけていて、お似合いと言わざるを得ないな。頑張れよ」


「良縁だね」


『好意』がそういうのだからそうなのだろう。たしかに見れば見るほど幸せそうだ。お熱いカップルと学校では囃し立てられていそうな程。


「想いが強ければ強いほど反動は大きくなる。あら、御免なさいね。性分なの。許して頂戴」


 ええ、大丈夫よ。それにしてもパッと見ただけでカップルは多いように見えるけど。


「そうだよねー。でも未婚率って案外高いし。結婚まで行かないのかなー?」


「よく見て。真面目そうで仕事も中途半端に出来そうな輩は一人身でしょう?」


「うん」


「逆の人間を見て見なさい。案外カップル率が高いの」


「確かに…!」


「成る程な。草食系男子と呼ばれる人間は相手ができないんだな?」


「いや、そこまで極論ではないわ。ただ、告白は男から、とか、告白させる女性が多かったりするから草食系じゃ最後まで行きにくいと思うの」


 少しはいるってことね?


「勿論。『例外』なんてこの世の中幾らでもあるわよ」


 すると『例外』と『特殊』がやってきた。


「やあ、面白そうな話をしてるね」


「特殊例を持ってきたぞ」


「聞きたーい!」


 カップルの特殊例とは何だろうと興味が湧いた。


「うぉっほん。さて、一日で分かれるカップルもいる世の中だが、重過ぎるカップルもいるのは周知の事実だ」


「依存かー」


「ヤンデレかしらね」


「いや、ここで扱う特殊例はーー」


「メンヘラです」


 時刻はいつのまにか夜七時。スーツ姿の男性、女性。今から近隣の塾へ行く学生で駅はごった返している。そんな駅でメンヘラの話が始まろうとしている。


「さっきそこにいたカップルだったんだがね、両者ともに深い共依存状態だったよ」


「不快ね」


「片方ではなく両者か」


「それ、恋話?」


『恋話』がそれは恋話ではないのではないかと怪訝にしている。話の方向性にもよるが、一悶着起こりそうな題材である。


「もう凄かったね。何回一緒いて楽しいか聞いてたか分かんないもん」


「まあ、過去のトラウマからなってしまうものだから。うまく付き合える人は付き合えるさ」


「あ、うん、そうだね。この話はもうやめにしよう」


 話を無理やり終わらせると他の会話が無くなってしまったのか、皆居なくなった。周りを見回しても、言葉達は居ない。会社の帰りや、部活帰りで疲れているのだろう。そして一番の理由はスマートフォンだ。前を見ず、ぶつかって怒号が空気を揺らす。だが、そのくらいしか言葉が見つからない。


 この地域は末期なのではないかと思ってしまった。引っ越しを頭の片隅に置いておこう。


 また私は進んでいく。会社員、学生と共に帰路へ向かって。










 家路についても家にはつかない。少し遠くに行き過ぎたかと反省している。普通ならば駅へ行くのにバスに乗るだろう。車でもいい。自動車が必要な距離だ。近いわけがない。まあ、門限などは無いし問題ないだろう。


 すっかり日は暮れて、代わりに月に追われる始末。月光と少ない街灯がアスファルトを照らし、てらてらと光を鈍く反射する。


 野良猫が子連れで道を横切ったり、節足動物が巣を作っていたり、パチっパチっと二世帯住宅の一階と二階から硬いものを切る音が聞こえる。


 ここまで不吉な事が連続すると恐ろしいものだ。帰りは気をつけなければと自分に言い聞かせる。


 住宅街はとても静かで、『静寂』が其処には居た。ずっと居座っている。座る場所はこの地域の雰囲気。何もかもが静かにひっそりと『静寂』に逆らわぬよう動いているようだ。


 近づくと直ぐに『静寂』は気づいた。私も気づいた。隣に『奇怪』が居ることに。これは予想外も予想外。奇奇怪怪だ。『静けさ』、『清閑』や『安寧』がいれば少しは心休まるのだが。これから何が起こるというのか。


「やあ、こんばんわ」


「こんばんわ」


 こんばんは。御二方はどうしたの?何かあるの?


 疑問を最初に話してから先に起きたベタな不吉の前兆を伝えた。


「それはまたベタなものに遭遇したね。心底不安だったろう」


「でも、それは合ってはいる。直ぐに会うことになるから。ほら」


『静寂』が消えた。足音が聞こえる。かなり慎重に歩いているのか音は小さい。全身黒ずくめでサングラスとマスクも黒。肌はほぼ見えない。黒手袋をはめた左手には赤いポリタンク。チャポチャポと液体の音がする。


 あの人間違いなく黒だよね?


「ああ、間違いない。外見から中身まで黒一色だ。でもあっちも見てみろ」


 え?


 あっちと言われ見ると、ストーカーと思しき人物が小柄な男性を一心に見つめている。手元にはスマートフォン。開いているアプリはカメラ。位置情報も許可されている。


 しかし、今はストーカーどころではない。放火魔らしき人物だ。


「あいつは放火した後百十九番通報するんだ。公衆電話で」


 連続放火魔ならなんで捕まらないの?


「ここいらの人間は情が希薄なんだ。一体全体どれほど希釈したのか知りたいくらいさ。汚物に対してもこんな希釈しないんじゃないかってね。人間に自浄作用なんて期待しちゃ駄目さ」


 一旦話を区切ってからまた『危険』が語る。


「昔はここまで危険な地域じゃなかったんだけどな。地域の交流が減ってからだろうな。地域主催のイベントなんてありゃしない」


 瞬く間に火が上がった。こういう仕事は手際がいいらしい。消防署にも既に連絡済みのようだ。ストーカーも扉の前までは行かずに駅へ向かって歩いている。


「この地域は和を重んじるんだろう?そんなものこの地域の何処にあるんだい?俺もあんたもそうさ」


 私は放火魔を目の前にして逡巡した。ストーカーは普通だと思ってしまった。おかしいのは私なのか地域なのか分からなくなってきた。私がおかしくてこの地域に流れ着いたのか、この地域がおかしくて私もおかしくなったのか。もう分からない。


 分からないと知れたのだからどうにかしなければ。『危険』にアドバイスを求めるのはどうかと思うが聞くことにしよう。


 ふと見やるともう彼は居なかった。


 居なくなってしまった。私もここから居なくなればほんの少しでも変われるのではないか?と甘ったるくて先が薄暗い考えが脳裏を過ぎった。暗くないのはきっと月のおかげだろう。


 ほんの十分で帰る小旅行のつもりが棚ぼただったろう。自分がどんな性格かわかったのだから。


 さて、地域は動けない。なら私が動くしかない。そうと決まれば進んでいくのみ。


 途中、円満公園という看板が見えた。中央から少し離れた場所で頭に火薬でも詰まっているのだろうもの達が狂ったように花火を夜空に上げていた。


 それが引越し祝いという祝砲に見え、聞こえる頭のおかしい私は前に進みながら自嘲した。


 可笑しくてたまらない。笑ってくれ。

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