第57話「校庭の真ん中、冬」

徒会長の急襲を受けたあの日以降、部活でコタツを使うのは一日2時間までと制約を設けられてしまったが、ココ最近、特にそれ以外で変わったことはない。

朝起きたら、外が真っ白だったことをのぞいては。


「ゆ、ゆゆ、雪――!!!」


学園祭演劇で監督をしてくれた小松田さんからの「今日は大雪により電車通学者の遅延がはちゃめちゃに多いので、授業は午後からだそうです」というラインにより、クラスのグループラインがおおいに沸いている。

私もこっそりと踊るカエルのスタンプを送っておいた。

そういえば去年もおととしも暖冬で、雪なんか数年ぶりだ。


「………」

うずうずした私は、結局いつもよりやや遅い程度の時間に家を出た。


「雪が降ったってのに雪だるまのひとつも作らないとあっちゃあ、江戸っ子の名が泣くもんね」


相手のいない言い訳である。


学校につくと、誰もいないかと思いきや、既に巨大な雪玉を転がしている人物に遭遇した。モッコモコのベンチコートに赤いマフラー、ニット帽を被っている。

久瀬先輩だった。


「ええ〜」

「.....」

「いや嘘でしょ。何で?」


低血圧で例のごとく顔色も人相も悪い久瀬先輩はボソボソ言う。


「.......朝。睡眠と雪とを天秤にかけた」

「そんで雪が勝ったの本当にミラクルなんですけど」

「寒さと眠さで既に五万回悪態ついてる」

「うち帰ればいいじゃん」

「江戸っ子の名折れだろうが!!」

「その言い訳ヤンキー共通になりそうだから止めません?」


(なんだかんだ言ってイベントごと嫌いじゃないんだよなー、この人)


「春野。お前は頭作れ。俺は胴体」

「へい」


半ば使命感のようなもので雪玉を転がし始めると、校門の向こうからコソコソ現れる人影を見つけた。人の目を気にしているようだ。ホームセンターで売ってるようなカラフルなソリを抱えている。


黒峰先輩だった。


(あ、こっち見た)

私と久瀬先輩の視線をバッチリ受けた彼は、何を思ったのか慌ててソリを隠そうとして滑って転んでソリを図体の下敷きにし、見事身体で叩き割った。そこそこ距離が離れているのに絶望感が伝わってくるのすごい。

「.....」

やがて無言でこっちへやってくると、真っ二つに割れたソリの残骸が差し出される。


「雪だるまの腕を作るためにやった」


さすがの久瀬先輩もひやかさずに受け取っていた。

朝早くドンキに駆け込んで一生懸命ソリを選んでる黒峰先輩のことを考えると胸がちぎれそうだ。

「泣くな。泣くんじゃねえ、春野」

「すんません、ぐす」

久瀬先輩も泣いてた。

あと腕はコレ太すぎて使えるか。ガンダムになるわ。


***


「大体な、示し合わせてもないのに三人集まるなんて異常なんだよ、異常」

「一番乗りが偉そうに言うな」

「いやいや、問題はそれぞれが一人で雪遊びするつもりで来てるってことですよ。マジで。骨の髄にボッチが染み込んでんのきつすぎ」

「骨髄ボッチ」

「やめて」

「てかまだ昼前じゃねェかよ、1回家帰るか」

「何言ってんですか、あと2時間は遊ぶに決まってるでしょ」

「カラオケだな。俺純恋歌うたう」

「いや季節」

「じゃあ私サマーヌード」

「だから季節」


校庭の真ん中に突如現れた巨大雪だるまは、きっと今日のうちのスクープだ。

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