第56話「こんにちは、生徒会長」

 私はコタツに下半身を突っ込んだまま天井を仰ぎ、言った。


「は―あ。冬ですね」

「冬だな」

「ああ冬だ」

「ねえねえ、冬がどうして恋人たちの季節と呼ばれているか知ってますか?」

「いやまずそこ初耳なんだが」

「寒いから自然と寄り添い合うんだろ?恋人たちが」

「そして久瀬は当然のように知ってるの何なの」

「そう。でも、夏は露出が増えるから恋人の季節だし、春は頭が浮かれぽんちだから恋人の季節だし、秋はモミジが綺麗だから恋人の季節なんですよ。つまり恋人持ちはエブリデイ・エブリウェア・ハッピーライフ(いつでもどこでもパッパラピーポー)なわけ」

「和訳の悪意がすげぇ」

「黒峰先輩うるさい。はい、じゃあ恋人を持たない我々は一体なんですか。久瀬先輩」

「サナダムシ」

「その通り!」

「その通り!?」

「いいんですかこれで!もうすぐ1年終わっちゃいますよ!?」

言った瞬間絶望した。

「ハーーー!!やだやだやだーー!彼氏と一緒にイルミネーション行きたいー!彼氏のポケットに手入れてあったかいね?ってやりたいよー!!」

「欲望が具体的すぎる」


 ガン!ガン!ガララララッ!!!


粛清しゅくせい!!!!」


「..........」


 説明しよう。

 例の如くコタツでダラダラやっていた我々の前に、何やらすごく頭が良さそうな七三分けのメガネが現れた。ていうか今「シュクセイ」って言った?「しつれい」の聞き間違い?


「粛清!!!!」

「あっ、もっかい言った。聞き間違いじゃなかった!」


 その人は高らかに笑った。


「今日こそ年貢の納め時だぞ、久瀬!」

「まず年貢を納めてねぇ」

「え?久瀬先輩の知り合いですか?」


 久瀬先輩はミカンを向く手を止めて、じっとその七三分けの人を見つめた。そして首を振る。


「いや、見たことない」

「見たことあるだろ同じクラスだ!!!」

「久瀬、うるせェから部室の外でやれ」


 携帯ゲームに熱中している黒峰先輩が手をシッシッとやると、七三の人はますます憤慨した。


「何を無関係ぶってるんだ、黒峰!貴様も粛清対象だぞ!!」

「お前なんかに粛清されっかよ。ハナクソ飛ばすぞ」

「飛ばすな!!!!」


 黒峰先輩の反応的にも初対面というわけではなさそうだ。

 私がキョトキョトしていると、「あ〜〜〜思い出した」と久瀬先輩は久しぶりに見るわるーい顔で目を細めた。


「生徒会長でありながら、この俺にただの一度も成績で勝てないおかげで卒業式の送辞も入学式の在校生代表挨拶も何もかも俺に奪われちまったかわいそうな秀山君じゃないか」

「〜〜〜〜〜!!!!!!!」


 初めて人の血管がブチギレる音を聞いたかもしれない。いやもちろん錯覚だが。錯覚だが4~5本一気にいった気がする。

 しかしそうか、このひと.....


「ってかうち、生徒会長いたんだ...」


 ブッチィ!!

(あ、もう一本いった。)


**


 ただいま我々は突如部室に現れた七三分けの生徒会長によって右から左まで全部怒られていた。


「君たちの何が粛清の対象となるのか、わからないなら教えてやろう!まずは校内で禁止されている携帯、色付きパーカー、ピアス、くるぶしソックス!」

「くるぶしソックス?」

「学生は七分丈に決まってるだろうが!」


 秀山さんはズボンのすそを持ち上げて規定の長さ(ロークルー)の靴下を見せた。ワンポイントはポップなゾウだった。

「ダセエ!」お茶を入れるために席を立っていた黒峰先輩が膝から崩れ落ちた。


「それから何だこのコタツは!」


 とうとうコタツに目を付けたらしい生徒会長。応じるのは久瀬先輩だ。


「それはコタツじゃない」

「コタツじゃな、!!は!?コタツだろそれは絶対に!」

 しかし久瀬先輩は認めない。

「これはな、オブジェだ。『怠惰たいだ』をモチーフにした」

「オブ………………?いや騙されない!それはコタツだ!」

「(いや今ちょっと騙されそうだったけど…)」

「ちっ。大体お前に四の五の言われる筋合いはない。教頭の許可はとってあるんだ」

「だとしても学校の電気代の浪費だ!今すぐ電源を切れ!」

「断る。これは絶対オブジェだし、なんなら実験対象だ。このコタツによって学生生活の充実度がどの程度向上するのか、コタツとミカンの相性についての論文も書ける」

「お...おぐぅ………やめろ!それらしいことをつらつら並べるな!揺らぐ!」


 私と黒峰先輩は二人の舌戦を遠巻きに眺めながらお互い三つ目になるミカンの皮をむいた。


「秀山先輩?って、仲の良し悪しはともかく、結構久瀬先輩と張り合ってますよね」

「そうだな。確かに久瀬といつまでも口論できんのアイツくらいじゃねェか?まあ久瀬は九割おちょくってるが」

「クロ先輩だったら数分と持たず拳に発展しちゃいますもんね」

「テメーもだと思いますけど」


 ぶつぶつ言葉を交わしていると、「ソコォ!!」ととうとう白羽の矢がこちらに向いた。


「不純異性交遊だ!!!!!!」

「なんで!?」

 会長は言う。

「君、男子生徒と距離が近すぎると思わんのか!?」

「で、でもコタツってそういうものでは…」

「おい春野。コタツじゃねえオブジェだっつってんだろ。怠惰をモチーフとした」

「久瀬先輩うるさい」

「だ、っだだだたいたい、コタツに入ったらススススカートがめくれるだろう!ハレンチだ!!!」

「あ、大丈夫です、スカートの下にジャージ履いてるから」

「校則違反だぞ!!!!!脱げ!!」

「この人めんどくさい」

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