第54話「冬の始まり、あばら一本」

「あ゛―――――っ寒!」


 冬が来た。

 冬服になったセーラー服の下に学校指定のジャージを履いて登校したら校門の所に立っていた久瀬先輩にしこたま怒られた。


「お前JKなめてんのか?歩くブランドだなんだともてはやされんの今だけだぞ。卒業と同時に価値は暴落!一瞬の黄金期を惜しめ!足を出せ!スカートを膝下丈にするんじゃねぇ!!!」

「あ、先生こっちです」


 生活指導の先生に連れていかれた久瀬先輩を横目にクラスの子達と挨拶を交わす。

 あの文化祭以降、私には友達と呼べる存在がごっそり増えた。


「春野さん」

「あ、新谷先輩」

「今日の放課後、病院に行ってあげてくれませんか?僕は昨日様子を見に行ったので」

「病院?」

「黒峰くんのお見舞いです」


 そうなのだ。

 黒峰先輩はバンド活動によって女子から多大なる支持を得、ファンクラブができそうになったところで他校のヤンキー達と乱闘騒ぎを起こし、見事一人勝ちを納めた。その結果やっぱり怖すぎということでファンクラブは霧散した。愚か者である。



「黒峰先輩ー!お見舞いに来ましたよー。大丈夫ですか?」

「全然大丈夫じゃねェよ」


 先輩は仰向けになったままこちらに顔を向けて言った。


「アバラが1本折れた」

「聞きましたよ。他校のヤンキーに呼び出されて20人に囲まれ乱闘騒ぎですってね。ねえ本当に私と同じ世界線に生きてます?私その時間おっとっと食べてたんですけど」

「知らねェしどうでもいい」

「『ろくでなしBLUES』の世界線に戻った方が生きやすいですよ...」

「行かねェよ!!う゛ッ」

「ほら力むからアバラに響く」

「ぐ.....じゃあまずツッコませんな...アホが」


 ベッドから飛び出した足に蹴られた。思っていたより元気そうだ。


「そういえば久瀬先輩もお見舞いに誘ったんですけどね。真顔で、何のために?って聞かれました。さすがにびっくりした」

「あいつ.....血も涙もねェのか」

「でも手紙預かってきてますよ。読みますね。えー、なになに.....『暇だろうからなぞなぞでも解いて遊んでください。なぞなぞ①夏は滑走路。冬は関東平野。じゃあ春野の胸はどーこだ』はい、大丈夫。ころしてきます」

「.......答えは?」

「エブリデイここにくっついてんでしょうが!!!!もう!!!鼻血出してナースコール押すぞ!」

「止めろ!」

「どうして先輩達にはデリカシーってもんがないんでしょうね!!新谷先輩だったら『たわわですね、春野さん』くらい絶対言ってくれるのに!!」

「言わねェと思う」

「もういい帰ります!!クロ先輩なんかファビュラスなナース長に遊ばれて痛い目見ろ!」

「クセの強い悪口止めろ......あ!おい待て春野!」

「何ですか!!」


 ばさっと上着が投げ渡される。

 寒ィから着て帰れだって。


「ほんっと、ほん、も、.......っそういうとこー!!!!!!!」


 義理人情と咄嗟の優しさに弱い、私、春野深月の冬はこんな感じで幕を開けたわけである。

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