第53話「はじまりそうではじまらない」
文化祭全演目終了。後夜祭直前。新聞部部室。
「春野」
「.......」
「おい、春野」
「.......」
「.....春野!!!!」
「うわ!?.....は?は?何ですか先輩。そんなでかい声出して」
「何回呼んでもテメーが微動だにしねーからだろうが!」
「え?呼んだ?」
「鼓膜イカれてんのか」
ため息をつかれる。
新谷先輩と久瀬先輩はクラスの人達と連れ立ってどこか行ってしまった。王子は後夜祭のフォークダンスを誰と踊るかファンのお姉さん方に引っ張りだこらしい。
私と黒峰先輩は後夜祭までの時間を、のんべんだらりと過している。
窓枠に顎を置きながらキャンプファイヤーが準備されている校庭を眺めた。
「聞きました?バンド大会、私達優勝じゃないんですってよ。あんなに盛り上がったのに。開始時間を遵守しなかったからだって」
「ケッ、くだらねェ」
傍の机にお行儀悪く座った先輩が悪態をつく。
「でも.......楽しかったなぁ」
シンデレラもファンクラブもバンドも全部。
まさか、自分にこんな、普通の高校生がするような、普通の青春が送れる日が来るなんて思わなかった。
そりゃいっぱいいっぱいで死にそうになった時もあったけれど.....でも、楽しかった。
西日の差し込む校庭をじっと見つめる。
それからへらりと笑った私の顔は、疲れと安堵で、さぞかし微妙なことだったろう。
「先輩...ありがとね」
うるせーよ、と照れ隠しが続くかと思ったけど、黒峰先輩はしばらく何も言わずに私を見て、大きな手をこちらに伸ばした。
(え...)
心臓がド突かれたように飛び上がる。
反対に身体はロボットみたいに固まった。
(え、何だ。何?え?)
先輩の手が、頭に、乗っ
「お待たせー!悪かったねエブリワン!僕を求める淑女達の期待に応え、満を持して僕☆見☆参!」
「お前のテンションは頭に響く。黙るか死ぬかしてくれ」
「ただいま戻りました!模擬店で焼きそばとたこ焼きとクリームパンと唐揚げ買ってきましたよ.....って、あれ??黒峰君?春野さん??」
「あ?お前ら床にすっ転んでどうし、.............ほぅ...へぇ...は〜ん?そうか。邪魔したな(にやにや)」
「オイ。何を察したか知らねェが違うからな」
「ほんと違いますから。転んだだだけです」
「〝だ〟が多いぞ」
(びびびびびっくりしたぁ。な、何だったんだ今の。突如として心臓が18ビート刻み出して.....あ、これが噂の不整脈ってやつ?え?ヤバ。帰ったら救心飲も)
(俺は今一体何を...........いや、もういいな、どうでも。疲れた)
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