第52話「鬼×バンド」

 僕の名前は秀山秀斗ひでやましゅうと。名前に二つ「秀才の秀」がつく男。僕こそがこの学校の生徒会長だ。


「生徒会長、会場にいた生徒、一般客は少しずつ帰り始めています」

「.....ふ。ご苦労」

「これで我が校の面目は保たれますね」


 頷きながらほくそ笑んで止まらない。

 何を隠そう、あのヤンキーバンドチームをこの会場へ間に合わなくさせるため、演目の変更を行ったのはこの僕なのだ。

 それらしい理由を取ってつければ、誰も何も文句を言わない。生徒会長の権限をもってすればこんなの造作もないことである。


(現に今、バンドチームは間に合わず、何故か舞台では馬鹿共によるソーラン節が行われている。)


「ざまあみろ.....!」


 小さく呟いた。

 僕は昔からヤンキーが大嫌いだ。そんなヤツらの手でこの学園祭が台無しにされてはたまらない。


 まずは黒峰。あいつは他校と揉めごとを起こしすぎてる。報告にあるだけで週16回。いや16回ってアホか?クローズでももう少し間隔あけてタイマンしてる。なぜ退学にならないのか甚だ不思議だ。


 次に春野深月とかいう新入生。

 入学してしばらくは大人しかったものの徐々に頭角を現し始めた。今では数多くの舎弟を抱えている。何だあの横断幕のハルニョンって。ふざけてるのか??


 そして新谷。新聞部部長にしてヤンキートップ3を取り仕切る無害なヤンキーだ。よく校内清掃に従事している。


 佐藤ステファン?ステファニー?祐介。あいつはマジで意味がわからん。だが奴のファンクラブは有害だ。つまりヤンキー。


 そして最後に一番許せないのが久瀬だ。もうダントツであの男が最たる悪。最悪オブ最悪。もう全然許せん。何故この僕が1度も取れずにいる全科目満点を日常茶飯事的に、取っ、――はあッ、だめだ血圧が上がる。


「...ざまあみろ、ヤンキーバンドチーム。

お前たちの出番はもうおしまいだ!」


 うっかり高笑いしかけたその瞬間、バツンッッと勢いよく音がして体育館の電気が全て落ちた。

「なんだ!?」

「停電!!?」

 ざわめく体育館内。

 暗幕の隙間からかすかに漏れる陽光だけが所々に差し込んでいる。


「平伏せよ、人間共.....」


 (誰だ)

 ステージに目をこらす。しかしそこには誰もいないようだ。

 声が変わった。


「夜は俺達、鬼のためのもんだ」


 マイクを通した低い声が館内に一滴、水のように落ち、沈黙が波紋のごとく広がった。続いたのは女の声だ。


「はー、喉渇いた。...一歩でも動いたら、その喉笛を噛み裂き、血潮をすすります。お腹が減ったから、きっと我慢できませんよ」


 不思議と息を潜めてしまう威圧的な美しさを持って、女の声は続けた。


「それが嫌なら、ただ刮目せよ。夜を統べる鬼たちの〝紅蓮華〟」


 次の瞬間、眩い光が観客の目を貫き、始まった。

 そこにあったのは圧倒的な熱狂だった。


**


「ねえ!!!見た!?最後のバンドチームのパフォーマンス!」

「見た見た!ヤバかった!」

「久瀬先輩と黒峰先輩と、1年の春野さんだっけ?」



「なあマジでやばかったんだって!最初ステージに誰もいなくてよ!かと思ったら体育館後ろの扉がバッて開いて!!逆光のシルエットが超イカしててさ!!」

「おいお前落ち着けよ、そんなに良かったの?」

「よかったなんてもんじゃねーよ!!最初ギターもベースもボーカルも鬼の面被って出てくんだぜ!?」

「なんで鬼??」

「バカ!!お前鬼●の刃みてねーのかよ!?」

「観てたよ。でも鬼なら敵じゃん」

「そいつらが歌うのが、またいーんじゃねーか!!正直震えたわ」



「まってやばいかも。私黒峰先輩にガチ恋したかも」

「私も.....だってヤバすぎなかった?」

「私あのキーボードの優しそうな人推し!新聞部の部長らしいし、入部しちゃおっかなぁ」

「私もとから王子推しだったけど、今回のソロで惚れたわ。ファンクラブやめる。恋人にしてもらう」



「まさかあの不良共があんなパフォーマンスをするとは思いませんでしたな、暮先生」

「はぁ.....驚きました。圧巻でしたね」

「せっかくプロのギタリストまで呼んだのに、すっかり持っていかれましたね」

「まあ生徒達も一般客も喜んでたので良しとしましょう」



「ね、今体育館の外で最後のバンドチームファンにつかまってるってよ!」

「うそ!私らも行こ!」



「.........か、会長...この状況は」

「〜〜〜っ!!!」

 ガッシャン!

「ちょ、会長イスが壊れ」

「もういい!!仕切り直しだ!とっとと生徒会室へ戻るぞ!!」

「は、はい!」


( ――覚えていろよ、久瀬)

(絶対に、よかったなどとは、思ってない!)

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