第47話「ポンコツ王子と新しい友達」
あの衝撃の出会いも、時が経つにつれてだんだん夢だったんじゃないかな?というような気分になっていたというのに、1分の1スケールで本物の王子が来てしまった。夢であればよかった。
「に、新谷先輩、まさかこの人が...」
「あ!君は!この間のキティじゃないか」
「ひえー!欧米の挨拶!」
手の甲にチュッとやられた瞬間、後ろから襟首をぐいっと引っ張って王子から離される。黒峰先輩だった。
この世のものならざる相手に向ける目をしていた。
「お、おい新谷、まさかこのアホがドラム担当だなんて言わねェだろうな」
新谷先輩は清々しく頷く。
「はい、ドラム担当のステファニー祐介君です!確かクラスは同じでしたよね?」
「同じでよく知ってるからこの反応なんだろ!!アホにドラムは無理だぞ!」
「黒峰君、待ちたまえよ」
「待たねェしお前と話す気もねェので近寄るな。一歩もそこを動くなよ」
「おはぎを食べるかい?」
「話聞けよ!!!.....なんでおはぎのタッパー出てくるんだ!テメーキャラが迷子だろうが!」
2人のやり取りを遠巻きに見つめていた私に、「佐藤は黒峰の天敵でな」と久瀬先輩が言った。
「え、仲悪いんですか?」
「仲が悪いというか、同じ種族とは思えないらしい。主に黒峰が」
「ああ...」
確かにオールド系ツッパリヤンキーでならしているクロ先輩には、王子だなんだと女子に騒がれファンクラブまで存在している佐藤先輩は未知の存在なのかもしれない。
「大体テメェ、ドラムなんかできねーだろうが!」
その瞬間、佐藤先輩の雰囲気が変わった。
「.......おや、言ってなかったかな」
私達の前を通り過ぎた彼は、音楽室に据え置きのドラムの前に座り、スティックを手にした。
ふっと空気が真剣味が帯びる。
黒峰先輩だけでなく、新谷先輩達まで息を飲むのがわかった。
スティックが振り下ろされる。
ぽん、
コチン
ぽこん
ピシャーンン
「.....」
黒峰先輩の無言のハイキックが王子に直撃した。
新谷さんの言う“ドラムをやってくれそうなアテ”というのは、知り合いの中に経験者がいる、ではなく、知り合いの中にやる気満々な奴がいる、だったようだ。
そういうわけでバンドメンバーの半分以上が初心者という大変な事態になってしまい、教え役である黒峰先輩は発狂寸前のご様子だった。
*
「春野!」
「わ!.....柳田君!」
「どしたんだ?ぼーっとして。もしかして緊張してる?」
さわやかに笑いかけられる。
これから私達は台本読み合わせだった。教室では演劇班と裏方班が別れて集まっている。監督に抜擢された子があれこれ忙しそうに指示を出しているのを、私は手持ち無沙汰に見つめていた。
「う、うん。まあ、こういうの幼稚園の時以来だし」
「けど王子役も女子だし、ちょっとは気楽じゃないか?」
「そうだね、たしかに」
王子役は背の高いボーイッシュな女の子で、水原さんという。まだ一度も話したことがないと言うと、柳田君は「挨拶でもしてみたら?」と軽い感じで言った。ということで
「み、水原さん!」
「はい?」
「あ!私、春野深月です.....」
「知ってるけど」
「あっ、知ってるか、そうだよね!そのー、このたびは消去法ではありますがお姫様役なんていただきまして、その、ふつつかものではありますが、宜しくお願いしますというか」
面と向かって自己紹介とか久しぶりすぎて何を言うのか忘れたよね!好きな色とかだっけ!?遠くで柳田君が「腰低すぎ!」とかなんとかツッコんでる気がするけどもうそれどころじゃない。
「好きな色は萌黄です」
ここらへんで水原さんが吹き出した。
何がよかったんだか分からないけど何かがツボだったらしい。
「あははっ、あー!おっかしー!」
「え、お、おかしかった?」
「うん!だって春野さん、なんか全然イメージ違うんだもん」
「そうなの?私のイメージってどんな感じ...?」
「んー、毎日喧嘩に明け暮れて、返り血で返り血洗ってるイメージ?」
「嘘ヤダ!アマゾネスじゃん!!」
「そうそう!でもそれが好きな色は萌黄です、って!地味だし!あはは!てか私なんで好きな色紹介された?まあいいや!あ、水原さんじゃなくてサトコでいーよ!私も深月って呼ぶし!」
「.......ッッ!!!」
ありがとう、文化祭!!!×10000
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