第43話「勉強の秋」
秋だ。秋っていうのはいい。秋は最高。何をするにもちょうどいい季節だし、眠くならないし、日本人の情緒を安定させてくれる。そういう落ち着きがある。
それが秋。
「春野さん」
「はい」
「私が今何を言いたいのか分かりますね」
「はい、先生」
学年生活指導の暮先生は言った。
机の上には私のとても残念なテスト結果が乗っている。
「先生は君の素行についてうんぬん言うつもりはないのですよ。どれだけ友達がいなかろうが二年生の同じく素行が悪い生徒達とつるんでいようが高校デビューしそこねた出戻りヤンキーだろうが!なんにも気にしない!」
「そっとしておいてほしいこと全部言ってくる」
「問題はあなたが学業をおろそかにしていることです」
「う、け、けどせんせい!」
「言い訳は聞きません。我が校の校訓は〝勉学あるのみ〟。そうでしょう?」
うなだれる私に先生は言った。
「幸いあなたは久瀬君と仲がいい。教えてもらいなさい」
「その久瀬先輩は、先生がさっき例に挙げた素行の悪いうちの一人なんですが」
「言ったでしょう?この学校は校訓のもとに統べられている。社会の縮図です。学あるものが政権を担う。悔しければ勉強なさい」
「うう……怖すぎる」
教室を出た後の私は内心とても葛藤していた。
意外だろうが、久瀬先輩に本腰入れて勉強を教えて貰ったことは今までに一度もない。理由?そんなの言わなくてもわかるでしょうよ。
「ん?俺に勉強を習いたい?お前今そう言ったのか、春野」
久瀬先輩は綺麗に笑った。
「それはつまりその一定期間お前は俺のどんな仕打ちにも耐え、泣きごとは言わず、きわめて従順に、どんな仕打ちにも耐えてくれるってことだよな?」
「こうなることが分かっていたから教え乞いたくなかった〜〜〜〜」
「二度念押しするほどのどんな仕打ちを強いるつもりなんだテメーは」
放課後の屋上で私は再度うなだれた。
久瀬先輩は至極楽しそうにしている。
「最近何か面白いことはねぇものかと考えあぐねてたんだ」
「マック三回おごるなどで手を打ってください!!ね!どうか!」
「何言ってんだ、無償で見てやるよ。可愛い後輩の頼みじゃねぇか」
「こんなに信用ならん言葉って存在するの???」
「そうと決まりゃあ明日の昼休みから始めようか。準備は俺がしておく」
うきうきしながら去って行った久瀬先輩。
虚無の表情で黒峰先輩を見ると目を逸らされた。こうして、私の地獄の勉強会は幕を開けたわけである。
**
翌日。昼休みの図書室。
「よし。さっそくだが春野。どちらか好きな方を選んでくれ」
「うわぁあああ!!!」
「突然咽び泣くなよ」
「むせび泣きもするわ!!」
私の前には猫耳カチューシャとうさ耳カチューシャがある。
再三言おう。図書室である。
「地獄って実在するんだなぁ…」
「メソメソするな。早くしろ」
私は仕方なく猫耳カチューシャをつけた。
せめて面積が少ない方が人様の目に付きにくかろうというささやかな反抗である。あんまり意味ない気はするけど。
「それじゃあさっそく始めるか。まずは日本史だったな」
「ちょっと待って!!?!?!?」
「何だ急にでかい声出して」
「いやすみません進行止めちゃって、あの、いやでも、………ちょっと待って!!?!」
「俺のうさ耳に何か不備でも?」
「不備でも?じゃなくて何で着けた?」
「かわいいだろうが」
「私が着けてるだけなら罰ゲームかな?で終わるけど、久瀬先輩がつけたことによって完全に不思議の国のバカ達になるんですよ?ご存知?」
「そういえばお前
「ジャンプ読んだ?みたいに聞かないで??あ!だめだこりゃ黒峰先輩呼んでいいですかツッコミが追いつかない」
後日。テストで私は学年一位を取った。
心底解せんと思った。
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