第36話「ゲリラ豪雨と廃神社①」

夏休みも来週に控えた今日。初めての失恋から早数週間。例のごとく、我々は走っていた。


「ああああ!!何が夏一番の快晴!!!」

「土砂降りじゃねーか!」

「春野。今日は水色のストライプか。いいな」

「何のはな......ブラかよ!!いい加減通報しますよアンタ!?」


 走るたびに足元の泥が跳ね上がる。バケツをひっくり返したような雨が私達の背中を打った。


「もう無理だ!一回どっか入るぞ!」

 がなる黒峰先輩。その声すら雨音に消されそうだ。

「どっかって言ってもここら辺なんもないですけど!」

「あそこの神社どうだ?」


 言われた先に古っぽい神社が見える。

 詰めればちょうど三人くらいいけそうだ。


「オッケー!雨宿りさせてもらいましょ」

「......おい久瀬、あそこって」

「言うな。......どうせ噂だろ」

「何ボソボソやってんですか!!早く!」


 滑り込んだ境内には特に何も無い。

 賽銭箱の後ろにある階段に鞄を下ろした私は、雨粒のしたたる前髪をかきあげて空を見上げた。


「とんでもないゲリラ豪雨でしたねー。今日のカラオケは止めときましょう」

「何舐めたこと言ってんだ。行くだろ」

「ノド枯らすまで帰さねぇ」

「こんな濡れ鼠じゃ風邪ひくし絶対いや......っていうか久瀬先輩マジこっち見んなって!!デリカシーは!?」

「2年前、あの街に置いてきたよ」

「どの街だよ!!ちょ、これ借りますよ!!」

「おいそれ俺の体操着だろ」

「黒峰先輩どうせ体育サボってるから着てないでしょ。借ります」

「チッ、勝手にし......おい!!!お前何してんだ!」


 拝殿の引き戸に手をかけた私を、なぜか血相を変えた黒峰先輩が止める。


「何って着替えるんですよ」

「正気かテメェは!?ここで着替えろ!」

「そっちが正気か!?着替えられるわけないでしょ!クロ先輩のムッツリ!!」

「違ェよ!!そこは入っちゃダメだろどう考えても!」

「ちょっとだけなら大丈夫ですって。先輩はそこで久瀬先輩が覗かないように見張っててくださいね」


 カラカラ、パン!と引き戸を閉める。

(まったく。何で私があそこで着替えられると思ってんだか。

そろそろ女子扱いを覚えてほしい......てか何で黒峰先輩あんなに慌てて、)



.........カタン



***




 春野のアホが拝殿の中に入ってすぐ、俺は腕組みをして前を向いたまま尋ねた。


「おい久瀬、この神社ってアレじゃねェだろうな?今学校で噂になってる例の...」

「何の話だ。言っておくが俺は心霊的なものの存在は信じない」

「いや何の話か分かってんじゃねェか」

「だいたい今のご時世にな、妖怪だ幽霊だそんな非科学的なものがいてたまるか」

「......それもそうだな。」

「.........」

「.........遅くねェか?あいつ」

「女子の着替えは大体遅い」

「つっても脱いで着るだけだろ。もう五分経つぞ」

「モテねぇ男かお前は!黙って待ってろ」

「お前春野の身が心配じゃねェのか!」

「じゃあ覗いて見りゃいいだろ俺は絶対にやらんがな」

「お前さてはビビってんな?」

「何度も言わすな。俺は霊的なものの存在は」


ガラガラ


「着替え終わりましたよー!はー、助かった。あのままだったら絶対カゼひいて、............何してんですか二人とも」

「「別に」」

「別にも何も賽銭箱ひっくり返ってますけど。え?入ろうとした?何で??」

「ご縁が......ご縁が欲しくてな。黒峰?」

「お......お......お、」

「えー?じゃあ普通に五円玉入れて下さいよ。高校生にもなって恥ずかしーなー」

「お、おまおまおま、おま、」

「黒峰先輩?」

「せ、せっせせ、せなせなか」

「せなか?」

「違う。〝おませなカ〟メムシだ」

「おませなカメムシって何?てか二人とも顔真っ青なんですけど何事ですか?」


(久瀬!あ、あ、あああいつの背中、何かいるぞあれ!!)

(春野には見えてねぇ。つまり俺達にも見えてねぇ。よし帰るぞ黒峰)

(いやダメだろ!!?戻れ!)

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