第35話「恋する乙女、屋上にて」
「春野、背中押してくれて本当にありがとう。
俺、お前の応援なかったら絶対言えてなかった。後悔してたと思う。
――ほんとにありがとな」
「………」
柳田君から貰った言葉を、何度も何度も心で繰り返す。
折りたたんだ横断幕を小脇に抱えて階段を上る。
屋上のドアをぎいっと開けると、フェンスに背を預けた久瀬先輩と、ヤンキー座りする黒峰先輩がいた。
何も言わない二人の間に立って、さっきまでいた校庭を見下ろす。
サッカー部の面々に祝福される柳田君がいる。
隣のあの人は、一年の頃だけ彼らのマネージャーだったらしい。
「この横断幕、私が中学の時に後輩たちから貰ったやつなんです。卒業祝いにね」
まさか使う日が来ようとは思わなかったけど、と繋いでも、先輩達は何も言わない。それをいいことに私はまだまだ話し続けた。
「大体柳田君も弱腰なんですよねー!女の子なんてゴリ押しでいけば多少なり心揺らぐに決まってるのに、諦めようとかいらんこと考えちゃってさー。好きなら好きって言えばいいんですよ。それ言われて嬉しくない子なんて、世界にほんのひとにぎりくらい.........あ、はいもう無理。泣きます私」
宣言するや否やブワッと溢れ出てくる涙。
私だって好きだったのだ。正直落ち込む柳田くんを見てチャンス!と思った。一瞬だけ。なぜならその数秒後、真面目で真摯で、卑怯なことが大嫌いなバカな私が声を上げてしまったから。
「柳田君、私が力を貸してあげる。」
なんつってね。
「は――――あ――――!!バカなことしたな、もう!!」
そう言えば、
「そうだな。お前はバカだった」と久瀬先輩。
「私がもう少し可愛くってふわふわして、守りたくなるようなゆるふわモテかわ女子だったらな!!」
と嘆けば、
「夢のまた夢だな」とクロ先輩。
慰める気なんて毛頭ない彼らは、そのくせ両サイドから頭にポンと手を乗せて、
「けど、今日のお前は最高に格好よかったよ」
と一言私を褒めるのだ。
それだけでほんの少し救われた。ゆるふわでもモテかわでもない私は、悲しいかな、自分の好きな自分でいるほうがまだ大事らしい。
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