第31話「恋に困難はつきもの」
突然だが、俺と久瀬は喫茶店にいた。
「最近アホかってほどつるんでんのに何で休日にまでテメーのアホヅラ見なきゃいけねんだよ」
「ぐだぐだ言うな。今日は春野の晴れ舞台だぞ」
いつも以上に悪そうなニヤニヤ笑いを浮かべた久瀬は右手に双眼鏡、左手にカメラを構えたパパラッチ姿で、向かいの喫茶店で話している二人を覗き見ている。
「あのアホめ。俺達に邪魔されると思って柳田とのデートを秘密にしてやがったらしい。フフ、俺の情報網をなめるなよ」
「現に今邪魔してんじゃねェか」
「まだしてねぇ」
「これからすんのかよ!」
「季節のフルーツパフェとアイスコーヒーでございます」
久瀬が顔をしかめた。
「ゲ、何だそりゃ」
「見りゃ分かんだろ」
「正気じゃねぇな…」
「ほっとけ」
甘党は昔からだし、誰かに口出しされる筋合いはない。
「それよりお前、春野に彼氏が出来たらどうすんだ」
久瀬の問いかけに、俺は「はぁ?」と間抜けな声を上げる。
「どうするもこうするもねェだろ」
「寂しいぞー。今まで俺達とグダついてた放課後は柳田とのいちゃつきタイムに変わり」
「.....」
「時々食ってた飯の時間も柳田のものになり」
「.....」
「さらにはもう春野が柳田のものになる。なんてこった」
「.....別になんて事ねェよ」
春野はそもそも、高校へは青春をしに来てるようなもんだ。俺達が多少なり邪魔してる自覚はある。
つまりあいつに恋人が出来るんなら、俺達は応援してやるべきだ。
「あいつが入学してくる前に戻るだけだ。そもそも、人の恋愛沙汰なんか興味ねェしな」
「ふーん」
つまらなそうな久瀬がまた双眼鏡を覗き、「あ?」と声を落とした。
「柳田の野郎、あんな気安く触りやがって」
「あ゛?.....ちっと貸せ」
久瀬から奪った双眼鏡を覗く。春野と柳田は普通に向かい合って会話に花を咲かせていた。
「.....」
眉間やらこめかみやらに青筋を浮かべて久瀬を見れば、想像通りのしたり顔。
「何だ。やっぱり気になるんじゃねぇか」
**
店内で胸ぐらを掴み合い、二度、三度頭突きあってるうちに店から追い出された俺達。タイミングよく喫茶店から出てきた春野と柳田を尾行中である。
植木の影からアイスクリーム屋に並ぶ二人を見つめる。
――寂しくなるぞ。
先程の久瀬の言葉が脳裏をよぎったが、鼻で笑って誤魔化す。
春野が柳田からチョコチップアイスを受け取り、はにかんで俯いた。見てみろ、あの嬉しそうな顔。
「……」
「……」
「……素朴な疑問だが、何でこのクソ暑い中俺達はリア充の尾行なんかしてるんだ」
久瀬が唐突に呟いた。
ようやく正気に戻ったらしい。
「どうやって柳田を痛い目にあわせてやろうかと画策してたが、あいつの顔見たら全部馬鹿らしくなってきた」
「もう帰るぞ。これで熱中症にでもなったらそれこそ間抜けだ」
二人そろって腰を上げると、「あーっ」ときゃらきゃらした笑い声が後ろから聞こえてきた。
「久瀬君じゃぁん!」
「マジだ―!黒峰君もいる!こんなとこで何してんのー?」
俺は思わず顔をしかめた。久瀬のクラスのギャルだ。
「俺アイツ等苦手だわ。じゃあな久瀬」
「待て待て。お前俺一人にあれ押し付ける気か。そうはさせん」
「離せオイ」
早々に去ろうとしたが久瀬に拒まれて失敗。目の前にギャル二人がやって来る。濃すぎるメイクも露出が多すぎる服装も露骨すぎてどうにも好きじゃない。
「ねーねー!暇なら今からオケ行かなーい?」
「行かない。つーかもう帰るとこだ。お前らも早く森へ帰れ」
「えー、ひっどぉい」
「酷いのはその顔色だ。どうした、土気色だが」
余談だが久瀬(こいつ)はどうでもいい女にはほとんどこの態度だ。いつ刺されてもおかしくない。
「ん?てかあれ柳田君じゃない?」
「……知ってんのか」
「知ってる知ってるー!二年なかでも結構モテてるし、てか知らない人いないんじゃね?」
「あ?どういう意味だよ」
「だってあの子、うちのクラスの堀北エミにぞっこんじゃん」
「………は?」
「昨日も放課後話しに来てたしねー」
「そうそう、真っ赤んなってて超かわいかったよねぇ」
「「…………」」
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