第29話「やらない後悔より、やる後悔」

「それでは第1回〝柳田君の心臓(ハート)おいしくいただいちゃうゾ大作戦〟の作戦会議を始める」

「タイトル!!!!」


 ホワイトボードの前に立った久瀬先輩は、いつになく真剣な面持ちで「ヤツについて、俺はいくつかの仮説を立てた」と言った。


「おそらくだが柳田は生粋のナチュラルボーン・タラシだ」

「何それ」

「ナチュラルボーン(生まれついての)・タラシとは無自覚に人を魅了し、自分の虜にさせておいてなおサッパリ相手の恋心には気付かず、幾多の嫉妬と恋情に女を狂わせたあと告白されて初めて慌て始めるという罪人のことだ」

「あの数分でどこまで考察してんの…」

「思い当たる節、あるだろ」

「………正直、無いとは言えないです」

「だろ」


 柳田君に恋心を抱き、淡く砕け散った女の子達を何人か知ってる。(私は友達は少ないけど、人一倍恋に敏感なアンテナを持っているのだ。自分が恋したすぎるからね。)


「正直ああいうタイプの男は、初恋に選ぶには相手が悪すぎる。傷つくだけ傷ついて終わるってのがオチだ」

「テメェが言うのかよ」

「バカか黒峰。俺はそもそも本気の女は選ばない」


 久瀬先輩は最低だが言うことはきっと正しい。モテモテの柳田君に恋をするのはそれなりに覚悟が必要だ。――でも、と私は思う。


「やらなかった後悔より、私、やって後悔したい」


 二人はニッと口角を上げた。


「おう。それでこそテメェだ」

「――なら今から準備段階に入る。春野」


 久瀬先輩は言った。


「まずは黒峰をオトせ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る