第28話「柳田君最強説」

「いいですか、二人とも!柳田君は何も知らないし、何もしてないんですから!クロ先輩!睨まないすごまない胸倉掴まないって約束してください!」

「わかったわかった」

「久瀬先輩も。嫌味を言わない毒を吐かないいじわるをしない!」

「分かった分かった」

「絶対やぶるよこの人達!!」


 ガラガラッ

 突然クラスに現れた先輩ヤンキー二人に、昼休み終了間近の教室はぎょっと静まり返った。もう最悪だ。


「で、どいつが柳田だ」

「ああ………あれ?」


 黒峰先輩に言われて教室を見回すも、柳田君の姿はない。


「どちゃんこラッキー!!!」

「何て?」

「今席を外してるみたいです!」

(よかった!これで迷惑かけずに済む...!)


 満面の笑みで言うと、後ろからトントン、と肩を叩かれた。


「わりー春野、そこ通ってもいいか?」

「ひえー!!もう帰ってきちゃった!!早っ」

「ほう、お前が柳田か」


 私の隣にいる二人に目を向けた柳田君は、きょとんとして首を傾げた。

「あ、はい。柳田は俺っすけど……」

「お前うちの春野の初恋「わああああ柳田君ごめんね!この先輩らとさっき柳田君の話ししてて、そんでなんか会ってみたいとかなんとかいってたから連れてきちゃった!けどもう会ったから大丈夫だね!?目標達成!さあ退散」

「まあそう焦るな」


 黒峰先輩は柳田君の前に立ち、彼をしげしげと眺めた。


「なるほど。女好きしそうな顔だな。タッパもある」

「もしかして久瀬先輩ッスか」

「ああ、そうだが……。何だ?お前の彼女奪ったとかなら悪いが覚えてない」

「(この人ファーストインパクトが誰に対しても最悪すぎる…)」

「いやいや!そうじゃなくて、去年の全国学力コンテストに出てましたよね?」

「……どうして知ってる」

「俺姉貴が一つ上で、学校は違うんすけど応援行ったんですよ。そしたら久瀬先輩がとんでもねー速さで全問正解してる姿見て、いやぁ世の中スッゲー人がいるもんだなーって」

「.....ふ、まあ。それほどでもあるがな」


(あれ?)


「あと、隣の先輩は黒峰先輩」

「あ?」

「校内新聞に載ってた〝放課後の海〟の写真。きれーでした」

「.....あんな端に載せてたの見たのか」

「俺もキレイな写真好きなんで。撮ったりはセンスねーからできないけど、でも、先輩の写真はきれいでした」

「.....そうかよ」


 あ、じゃあ俺日直の用意あるんで!と笑って中に入っていく柳田君。

 一瞬の沈黙。両サイドから私の肩を組んだ二人の先輩は、口を揃えて言った。


「春野。お前の恋、俺達が協力してやるよ」


 柳田君。最強説。

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