第27話「恋愛について語ろうか」

「それで、まんまと恋に落ちたってわけか」

「ハイ!」

「初めて会話した相手に」

「ハイ。多分これ一目惚れとかいうやつです」

「一緒に勉強しただけで?」

「青春でした」


 ぱあっと笑うと、無防備な頭にダブルでチョップが入った。

 しかも結構な力の入りようだ。


「ぐっ...!!な、何すんですか!!」

「はー...。春野お前はダメだ。ダメな奴だ」

 やれやれと首を振る久瀬先輩。

「どんだけチョロいんだよテメーはよ」

 黒峰先輩まで呆れ返ってる。


「男ってのがどんだけ危ねー生き物か、この半年久瀬の傍にいたってのにまるで分かってねェ」

「柳田君を久瀬先輩と一緒にしないでください!」

「違うと分かる程話してねェだろ」

「話さなくたって女癖悪かったら耳に入ってきますよ!」

「ノリが軽ィ奴ってのは大概ヤリ目なんだよ!!」

「久瀬先輩と一緒にしないでってば!!」

「おいお前ら、俺だって傷つくことはあるぞ」


 どうして後輩がめでたく恋をしたってのにこの人たちは素直に祝福できないんだろう。立腹のまま顔をしかめる。

「いいか、春野」

 ぼろくそに言われた久瀬先輩だが、特に何の弁解もせず真顔で言った。


「お前はかねてから脊髄反射で動くクセがある。チーターやゴリラと一緒だ」

「ちょっと」

「サバンナじゃ生き残れても人間社会じゃそうはいかねぇ。大切なのは考えることだ。頭を使え。今時ペッパー君だってもうちょっと頭使って生きてる」

「(激しく馬鹿にされてる...)け、けど、恋は頭を使うものじゃない!ハートでするものです!」

「このすっとぼけ恋愛脳!!」

「えっ、なんで...」

「いいか!!お前は恋ってもんを何も分かってねェ!!そこへ直って、俺の話を聞け」


 突然激昴した久瀬先輩は、私を前に座らせて仁王立ちになった。


「恋が心ときめき胸おどり、ハートがピヨピヨ震える!そんな甘酸っぱいもんだと思ってるうちはお前には一生恋はできねぇ」

「ハー!?久瀬先輩に恋の何が分かるんですか!!」

「俺は百戦錬磨の男だぞ。今この学校で俺以上に恋を語れる奴はいない」

「私だって恋は勝手知ったる相手ですよ。少女漫画とかドラマでかなり勉強したし!」

「月曜九時に放映できるレベルじゃまだまだなんだよ」

「月9でいいんですって!そういうのがしたいんだから!」

「だとしてもお前のそれは、恋したい時にイケメンがタイミングよく目の前に現れて「アレ、ちょっと恋したかもアタシ(><*)」って気になってるだけの、ただの思い込み。発作だ。むしろ当たり屋?うん。それに近い。恐ろしい女だな」

「何でちょっとトキメキ語っただけでこんなに言われなきゃいけないんですか。ぐすん、つらい」


 うっかり泣けてきた。

 鼻をすすると横で傍観に徹していた黒峰先輩が口を開いた。


「泣くな春野。こいつこの間手出した女がメンヘラ乙女チックモンスターでとんでもねェ目に遭ったから、今『恋』とかそういうワードに敏感なだけで、おそらくフツーに未経験者だ」

「ああ、まあぶっちゃけ恋とかしたくもねぇし、これまで一回たりてときめいた覚えがねェ」

「いや、ねェ、じゃないでしょ!じゃあ今の時間何だったんですか!!マジはったおすぞ!!!」


 (この人達に相談した私が馬鹿だった!)

 さっさと立ち去ろうとしたところ、それより早く彼らが前に立ちふさがった。

 いつも通り嫌な笑みを浮かべる久瀬先輩。


「恋や愛に興味はねぇが、可愛い妹分に悪い虫がついてもつまらねぇ」

「妹分になった覚えないんですけど」

「仕方ねェ。お前の言う初恋の相手、俺達でしっかり見極めてきてやるよ」

「クロ先輩まで……。――は!?いやいやいやいや待って待って、いい!いいです見極めなくて!!マジで!ねえ!!話聞いて!」


 次回:ヤンキー×2柳田君に会いに行く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る