第25話「夏の足音」

「は゛ぁ~……」

「………あっぢい」

「……つーか久瀬てめー昨日貸した200円返せや」

「お前こそ一昨日俺が貸したポカリ返せ」

「ポカリなんて借りてねェよ」

「丸々一本飲んだろうが」

「あれは貰ったんだ。借りてねェ」

「もうお前うるせェしゃべんな」

「お前がしゃべんな」

「「………」」


 ガッ、ガッ!


「あーはい、やめやめー!暑いからってすぐ胸ぐら掴み合うのやめてくださいよ」

「遅ェぞ春野」

「日差しで俺の国宝級の脳みそが腐り落ちたらどうする」

「パシられてあげたんだから文句言わないでほしい。てか喧嘩するほど暑いならたまり場変えればいいでしょ」


 グチグチうるさい二人に頼まれていた飲み物を渡す。

 黒峰先輩はファンタグレープ。久瀬先輩は黒ウーロン茶だ。


(それにしても、今年の夏やっぱ暑いなぁ…)


 屋上の床なんてじりじり音を立てている気がする。

 なのにどうして私達は毎度お馴染みのようにこんな所へ来て、ちっさい日陰に並んで座ってるんだろう。


「……あ。」


 あることを思い出して鞄を漁った。

 チリン。可愛らしい音と共に、無機質な目がこちらを覗く。


「なんだそれ」


 黒峰先輩が横目で言った。


「招き猫の風鈴。おばあちゃんに貰ったやつです」


 腰を上げた私はフェンスに近付き、赤い紐を金具に結び付けた。日陰に戻って腰を下ろす。


チリン、


チリン。


 うん。風の通る音。

 遠くで運動部の掛け声や、キンッ、とバットで球を飛ばすいい音が聞こえる。

 目を閉じるだけでこんなにも夏を感じる。


「――…もうしばらくは、ここでいいだろ」


 誰にともなく頷いた。


(青春が、青い春だなんて、一体誰が言ったんだろう。)


 きっとそれも間違いではないけれど、私達は今こんなにも、青い季節に疼かせてる。

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