第22話「あなたにはもったいない」

「あっははは!やだ!アイドルの子達がこんな田舎町来るはずないじゃないの、もー!あっ、もしかしてサインとか欲しかった?君たちJewelry`sのファン?」


 ヒーコラ笑い転げる花畑さん。

 隣でガタッと黒峰先輩が立ち上がった。顔が怖い。

「春野。帰っぞ」

 続いて無言で腰を上げる久瀬先輩。こっちも怖いくらいの真顔だ。


「えっ!ちょっと君たちどこ行くの!」

「帰るに決まってんだろ」

 久瀬先輩はとうとう優等生キャラを放棄して冷たく告げた。

「帰るって何で!?どういうこと!?」

 途端に慌てふためく花畑さんを無視して黒峰先輩が私の肩を小突く。

「春野。立て、出れねェ」

「え、けど……」

「いいから来い」


 腕を引っ張られてよろめきながら席を立った。


「ちょ、ちょっと待って君達!ごめんね?お姉さんが笑い過ぎちゃったから怒ったのかな?謝るから帰るなんて言わないで!ね?」


 食い下がる花畑さんに、久瀬先輩がにっこり言った。


「アンタの書く記事、ここへ来る途中でいくつか読んだが、いつも誰かの誹謗中傷だ。もう何度か訴えられてんだろうし、この企画が最後の頼みの綱ってとこだろ」

「そ、それは」


花畑さんが途端に青ざめる。図星だったらしい。


「だがあいにく俺達はアンタの喜ぶような記事にはならねぇし、してやる気もねぇ。俺は人をおちょくんのは好きだが、おちょくられんのは死ぬほど嫌いでな。

――今日は久々に不愉快だった。どうもありがとう」


 最後までトーンを変えずにそう結んだ久瀬先輩。黒峰先輩はもうとっくにお店を出て行ってしまったようだ。

 絶望的な表情で「春野さん!」と声を上げた花畑さんを、私は最後に振り返った。

 新谷先輩、せっかく私達のために企画を組んでくれたのにごめんなさい。


「私達の青春、あなたに見せるのはもったいないや」

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