第21話「不穏の兆し」
「あ、やだ!咄嗟に悪事とか言われても、みんなにはその気ないんだから分かんないわよね!困っちゃうわよね!ごめんごめん」
(この人悪意なさそう……怖。企画書渡された時から薄々気付いてたけど、このヤンキー=害悪って決めつけてるカンジ、やっぱやだなぁ)
その時、ピロリン。右隣に座る黒峰先輩からラインが来た。膝の上でホーム画面が光っている。「つけまつ毛はぐ」とか書いてあった気がするが気のせいだろう。
「まずはみんなが昨日の放課後何してたか話してくれる?もちろん嘘偽りなくお願いね」
私達は顔を見合わせた。
昨日の放課後は、たしか.....。
「まず新聞部の部室に寄って、各々その日の活動をしました...たしか私は女子トイレの和洋式アンケートについて」
「俺四コマ漫画」
「僕は『聖闘士☆はるにょんZ』の続編を」
「その後は三人でコロッケ屋さん寄って解散しました。終わりです」
沈黙の後「えっ!?」と花畑さんが声を上げた。
「終わり!?」
「終わりです」
何それ全然フツーじゃないの!という顔をする花畑さん。ご期待に添えず申し上げないが、所詮これが高校生の放課後である。
「じゃあ一昨日は!?」
「一昨日?えっと、あれ、何しましたっけ?」
「アレだろ、アレ。」
「期間限定プリンアラモード」
「そうだ!その列に並びました!三時間強!」
「三日前!!」
「雨降ったからふつーに帰ったな。たしか」
「四日前!!」
「あ?覚えてねェよ」
「ちょ、クロ先輩口悪、え――と、たしかゲーセンに行ったような...」
突然花畑さんの目が輝いた。
「そーそーそー!!そーいうの待ってたのよ!!で!?ゲーセンで何したの!?カツアゲ!?恐喝!?万引き!?」
「.....あのなぁ」
黒峰先輩が口を開いた時、偶然横を通り掛かったおじさんが「おっ!」と声を上げた。
「お前らこの前の!」
「ん?.....あ!!ゲーセンで出会ったおじさん!」
「あん時はどーもなぁ!お前らのおかげで孫にいいプレゼントしてやれたよ」
「マジ!?孫よろこんで良かったねぇ」
「フン、俺達にかかりゃぁクレーンゲームなんて朝飯前だぜ」
「あのままやってたら天に召し上げられてたのはオッサンだったかもしれねぇしな」
「いや久瀬先輩その冗談笑えない」
「言いよるのーボウズ!だがわしはまだまだ現役!今から人気ゆーちゅーばー目指すんじゃ!」
「炎上するからやめろって」「孫泣くぞ」
「ちょっとアンタ達!!」
向かいの席で花畑さんが勢いよく立ち上がった。
「君達、今日の企画の趣旨分かってる?近頃話題のヤンキー達の実態を探るって目的!」
「いや、だからこれが私達の実態なんですって。ね?頭脳明晰で心優しい久瀬先輩」
「その通り。最近のヤンキーは別に学校のトップに興味もねぇし喧嘩で天下をとる気もねぇし、牙をもがれたツチノコか何かだと思ってください」
「ツチノコならそれでも十分価値あるからいいわよ!けどあなた達はツチノコじゃない!」
花畑さんはパンと手をたたいた。
「ヤンキーなの。世に珍しき旧石器時代の忘れもの!ヤンキー!!」
「ヤンキーの認識酷いなこの人……」
「世の中はそんなアンタ達のちょっと斜に構えた倫理観とかひねくれた思考回路を怖いもの見たさで覗いてみたいのよ。そこの君なんてモロヤンキーじゃない!」
花畑さんはキラキラしたペンの先で黒峰先輩を差した。
「唯我独尊・愛羅武勇とか!ほら、言ってごらんなさい!」
「他人に愛は語らねェ」
「やだもうしっぶい!だめよそんな可愛げないセリフ!……あーんもう、これじゃあジェリーちゃんに顔向けできないわ」
「ジェリーちゃん?」
聞き覚えのある名前にはっとして尋ねる。
花畑さんは「この企画の発案者よ」とあっさり教えてくれた。
「最近人気のアイドルなの。うちの新聞のイメージガールよ」
(やっぱり!)
私は机の下でガッツポーズした。
黒峰先輩の予想は間違っていなかったらしい。
「そ、そのジェリーちゃんって子は今日来ないんですか?」
私の本来の目的は、彼女とお友達になることだ。
目を輝かせてそう尋ねた私を見て、花畑さんはキョトンとしたあと盛大に噴出した。
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