第19話「決意の帰り道」

 今日はまだやることがあるという新谷先輩と別れ、私達は帰路を辿った。(先輩らの家が意外と近いというのは最近知ったことだ。)


「イメージアップもなにも俺達の悪評って全部身から出たサビだろ。そうそう上手くはいかねぇだろうな」

「(久瀬先輩って自分の行動が世間一般的によくないって知ってるんだ)」

「そこ知らずにやってたらサイコパスじゃねぇか」

「ねえ!当たり前のように心読むのやめて!?」

「最近数学の時間はメンタルカウンセリングの勉強をするようにしている。読心術と並行して」

「数学の時間は数学をしてほしい」

「教壇に立たないでやってるだけありがたく思え」

「……っていうかクロ先輩。静かですね?どうしたんですか」


 お前らが煩ェんだよ、と前置きしつつ、黒峰先輩は前を向いて答えた。


「俺は今回の件、悪くねェと思ってる」


 え。と珍しく久瀬先輩と声が揃った。


「お前らここらの地方紙読んだことあるか?」

「ないです」

「ねぇな」

「だろうな。俺もつい最近知ったとこだが…」


 そう言って黒峰先輩が話し出したのは、その地方紙の売り上げがここ最近でかなり伸びているらしいという情報だった。


「俺の兄貴はドルオタなんだが」

「いや待って、突然の衝撃告白」

「お前兄貴いたのか」

「おう。まあ聞け。――そいつが言うところによれば週に一度、とあるアイドルグループが記事の一面を任されているらしい。その企画が新聞社ならぬぶっ飛んだ内容で、おおいに若者受けしてる。今回の企画もおそらくそいつらがプロデュースしたもんだろう」

「ふうん……で、どうしてそれがノリ気の理由になるんです?まさかクロ先輩も隠れドルオ、!!」

「んなわけあるか!!俺が言いてェのはそうじゃなくて……春野、お前が…………」


 途端に口ごもり始めた黒峰先輩。

 は?何だ?何が言いたいんだ。


「……久瀬先輩、これ私も読心術覚えなきゃダメなんですか?黒峰先輩の気持ちがさっぱり分からない」

「ぐっ…このポンコツが!!」

「あげくののしられた!意味フなんですけど!!」

「春野……」


 久瀬先輩はやれやれという顔で私の肩に手を置いた。


「こいつはな。お前のアイドル姿が見たいんだよ。ミニスカポリスでフリフリ歌って踊るお前の姿が、な」

「いや一文字足りてあってねェじゃねえか!!!もうメンタリストやめろ!――春野!テメェもあからさまに引くな!」


 黒峰先輩は真っ赤な顔で続けた。


「俺は、お前が女友達欲しいっつってたから、そいつらと知り合いになればいいんじゃねェかと思っただけだ!!」


 ぽかんとする私達を一瞥して、黒峰先輩はずかずか先へ行ってしまう。

 久瀬先輩がにやにや笑いを復活させた。


「ははーん。さてはあの野郎、この前の騒動でお前を巻き込んじまったこと、けっこう気にしてんな。かわいいやつだ」

「聞こえてんぞ久瀬ェ!!」


 私はなんとも言えずむず痒い気持ちになった。

 もしかして私の思う以上に、黒峰という男は義理がたい人間なのかもしれない。

 新谷先輩しかり、世の中は結構優しさでできている。


「……そういうことなら、がんばりますか」


 黒峰先輩をからかいに走る久瀬先輩を遠目に、私もそっと決意を固めるのだった。

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