第17話「平穏に暮らしたかったJKの話」

 桜の木の下で、私達は三人並んで体育座りをしていた。


「いやぁ……昨日の出し物は見事なもんだったな。せっかくなんで新谷と教室で観戦してた」

「久瀬先輩は最後まで助けに来てくれませんでしたね」

「こいつの助太刀なんかあてにしてんじゃねェよ」


 私達の傍には放り出されたほうきが三つ。


「お前らが停学にならずに済んだのは誰のおかげだと思ってる。俺が校内でコソコソやってた連中を軒並み捕まえといてやったからだろうが」

「そのお前が何で俺達と一緒に罰掃除くらってんだよ」


 久瀬先輩はニヤニヤ笑いながらスマホをいじっている。これはきっと何か良くない企みを成功させたときの顔だ。


「犯罪が起こることを事前に知っていたにもかかわらず学校側に何の報告もなく、挙句全員お縄にして警察に突き出すところまでやったもんだから学校側の立場がねェと教師共にイチャモンをつけられてな」

「それはイチャモンじゃなくて妥当な処置ですよね」

「ああ、当然だ」

「何言ってんだ。褒められてしかるべきだろ」

 言いながら自分でもさっぱりそう思っていないのは丸わかりだ。


 私は大欠伸をしかけて、慌ててそれを飲み込む。

 昨日不意打ちを食らった頬がヒリヒリ痛んだ。


「……痛ェのか」

「え?」

「昨日んとこ」

(意外と目ざといな)

 尋ねた黒峰先輩が何を考えているのか、私は何となく分かってしまった。


「...べっつにぃ。ってか先輩にやられたわけじゃないんだからそんな顔しないでくださいよ」

「俺がどんな顔してるってんだよ」

「彼女をぶん殴っちまった後に猛省するDV彼氏みたいなツラだ」

「それは最悪のツラだ」

「そ。最悪のツラです。だから止めてください」

「……」


 口をへの字に結んだ先輩は、大人しく眉間のシワを片手でこすった。

「――で、これからどうすんだ。春野」

 久瀬先輩が何の脈絡もなく問いかける。


「お利口さんになるのはもう止めたんだろ。今後はここらの不良のてっぺんでも目指すのか?付き合うぞ。黒峰が」

「何で俺だよ」

「いいです。そんな実りのなさそうなてっぺん目指すくらいならプリリン・ロック・マウンテン登るし」

「何だその山。」

「いやあんたの山でしょうが!!」

「春野。久瀬相手にムキになるだけ無駄だ。血管を労われ」

「そういや二週間くらい前に食ったカボチャプリンは最高だったな」

「あれ食ったのテメーかよ!!!歯ァ食いしばれ!!」


 殴りかかる黒峰先輩に、即座にホウキで応じる久瀬先輩。限りなくいつも通りの光景だ。乱闘から抜け出した私は疲れたため息を落とし、ほとんど花を散らした桜を見上げた。


 ――偽りだらけの私とは昨日さよならをした。これからは、身の丈に合った青春を探すのだ。


友達0 

戦闘能力S 

青春経験値0 

おかしな先輩2


 はじまりの村からも出られなそうなステータスの私だが、果たして夢にまで見た青春を掴み取ることは出来るのか。


「……がんばれ、ニュー春野!!」


 自分自身にエールを送る。怪訝な目で見られた。

 春の終わりの出来事だった。


平穏に暮らしたい元ヤンJK「春」完結

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