第15話「さよなら私の理想郷」
バシッと頬に鈍い衝撃を受け、自分の鼻からダラリと熱いものが垂れる。これはもう拭っても仕方がないと分かっているので放置して、振り返りざまに中段蹴りを御見舞する。そいつは背後の奴もろとも吹っ飛んでいった。
(勢い込んで出てきたはいいが.....数が多いな)
昨日の段階で久瀬にこの話はしたが、あいつのことだ。援護には来ないだろう。
「テッメェ黒峰!!!くらえやァッ!!!」
フルスイングされたバッドを思いっきり仰け反って避ける。前髪をかすめた。
次から次へと襲いかかって来る不良共に舌打ちを漏らす余裕もない。
教師達はもう手も足も出ないという有様で、俺は奴らの足元で怯え切っているそいつを睨んだ。
「テメェ!いつまで縮こまってんだ!!」
「...く、黒.....」
「男なら少しは自分でどうにかしろ!!」
ガン!と後頭部に衝撃が走り視界が揺らぐ。背後から何かで殴られたらしい。
「今だ!!!やれお前ら!!」
その声すらどこか遠くに感じる。俺は地面に膝を着いたまま、次なる衝撃に身構えた。
「スプリ―――ング・キィ―――ック!!」
西日を遮って何かが駆け抜けた。と思ったら、次の瞬間には一番近くにいた敵が目の前から消えた。スプリング・キックとやらを受けたせいだろう。っつーか何してんだこいつ。
「やあ青年!ボロボロのヘロッヘロでクソダサいですね。あ、ミスった!クソダサいね!正義の味方スプリンガーが助けに来」
「何してんだ春野」
「ギクギクー!は、はるのとは?はたしてどこのどなたかな!」
スカートの下に学校指定ジャージ。
馬の頭のマスクを被った不審者がそこに立っていた。.....いやお前素性隠したいならまず名札外してこいよ。
喉の奥で笑いが漏れる。
「おいお前。ヤンキーは卒業したんじゃなかったのか?」
「は?今の私は正義の味方ですのでヤンキーじゃありませんけど」
そう言いながら春野は裏拳で一人沈めた。
どんな正義の味方だ。そう内心でツッコミながら乾き始めた鼻血を拭う。
隣から水色のハンカチが差し出された。
「.......こんな綺麗なの使わせんな」
「あげます。私も鼻血付き使うのやだし」
「てめ」
「あげるから、そのかわり見ててください」
そいつは両手で馬の被り物を外した。
淡い栗色の髪が風に遊び、春野の目がしっかりと俺を捉える。学校中の野次馬や、目の前にいる敵などはもはや眼中にないと言った様子だった。
「見ててください。
私、今から私を取り返しますから」
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