第11話「花粉症注意報」

「ぶえっくしょい!!ぶイーックショイ!!!!!」

「げ、風邪ですか」


 鼻をブーンとかんだ黒峰先輩は首を振った。どうやら花粉症らしい。ああそれでか、と屋上のフェンス越しに下を見下ろしていた私は納得した。


「久瀬先輩が杉の木相手に延々とツッパリしてる理由が分かりました」

「――オイ、あいつを裁く法はねェのか」

「うーん…現代日本じゃ厳しいかもですね」

「分かった……なら今夜だ」

「何を決行しようとしてる気かは知りませんが殺人を裁く法はありますからね」


 その数分後嬉々とした顔で屋上へ戻ってきた久瀬先輩を張り倒す気力もないほど、黒峰先輩は花粉症に気力を持っていかれているようだった。



「そんなに酷いならこんなとこ来ないで教室にいればいいじゃないですか」

「……俺がくしゃみするたび隣の奴がビクつくんだよ」

「フ、哀れだな」

「久瀬は喋んな……メーターが殺意に振りきれ、ビ、ハァァッッッックショイ、あ、あばらイッた」

「流石にかわいそすぎる……どうにかならないんですか、久瀬先輩」

「俺は医者じゃねぇんだがな」


 言いながら鞄をあさり始めた久瀬先輩は、小瓶に入った青紫色の錠剤を取り出した。


「久瀬製薬の〝ナンデモナオール〟だ。飲むか?」

「いやそれ用法容量守っても2000%死にそうなヤバイ色してるんですけど」

「当然リスキーだ。三日三晩悪夢にうなされ幻覚に悩まされピョンピョン飛び跳ねるが、花粉症の症状は治まる」

「花粉症治っても二度と社会復帰できなそう。先輩、だめですよこんなの試しちゃ」

「………」

「あれ……クロ先輩?何じっと見つめてるんですかダメですって死にますよこれ!!」

「この、ブックシッゥアまかふファックション!!自らッビッィックショァ!!死ッシァアァ」

「なんて……?」

「このまま花粉症に殺されるくらいなら自ら死を選ぶと言っている」

「(すごいなこの人)そんな、先輩」


 久瀬先輩から薬を受け取った黒峰先輩は、今一度鼻をかんだ後、ためらいながらもそれを口に含み勢いよく噛み砕いた。そして―――


「………あ…?」

「とまった……?」


 信じられないことに、命の危機すら感じさせたクシャミの嵐が止んだのだ。黒峰先輩は大喜びしながら「この借りは必ず!!」と言って帰っていった。今日はハマっているゲームの発売日だから午後はサボるつもりなのだろう。


「……黒峰先輩、途中で捕まらないかな」

「大丈夫だ。あれただのラムネだから」

「………え!?」


 久瀬先輩がにやりと笑う。


「アホは思い込みで花粉症も治せるらしい。こいつは新しい発見だ」


 結論、久瀬先輩は今日も性格が悪かった。

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