第7話「ネタバレは史上最強の悪」

 昼休みになると、全然頼んでないのに、ヤンキー先輩×2が私のクラスまで迎えに来る。


「おい春野、お前今日ちゃんとアレ持ってきてんだろうな」

「――は、はい、久瀬先輩」


 クラスの子達の心配そうな視線に晒されながら、私はやっとの思いでそう答えた。続いて、私の鞄を(勝手に)机のわきから取り上げた黒峰先輩がズカズカと教室の出口に向かって歩いていく。


「トロトロしてんじゃねェ。さっさと行くぞ!」

「あの、か、鞄返してください……」

「うっせーな、屋上ついたら返してやるよ」


 二人の先輩の後に続いて屋上へたどり着く。

 私は丁重に扉を閉め、念のため周囲に人影がないことを確認してから二人の先輩方に向き直った。


「ねえちょっとマジいい加減にしてくださいよアンタ等!」

「お、本性でたか。おはよう春野」


 久瀬先輩がさわやかに笑う。しかし私はキレていた。


「私まだクラスで友達作れてないって昨日言いましたよね?」

「言ってたな」

「だからお昼休みはクラスの女子とかとキャッキャしながらお弁当食べたいって!!言ったじゃん!!何で来たの!?」

「俺達だってお前と一緒に素敵なランチタイム過ごしてェんだよ」


 言いながら黒峰先輩は私の鞄を漁り、中から『爆勇伝ばくゆうでん~熱き男達が拳で紡ぐ物語ストーリー~第三巻』を取り出した。絶対これが目的だ。

 私は拳が出そうになるのをこらえながら一度深呼吸して続けた。


「あのね。先輩らが教室来るたび私〝不良に絡まれてどうすることもできずただ従うばかりの哀れな弱者〟を演じなきゃいけないんですよ?これって相当屈辱的なの分かります?」

「演じなきゃいいだろそんなもん」


 黒峰先輩が呆れたように言う。演じなければヤンキーに逆戻りだということが彼らはまだ分っていないらしい。


「クラスに戻った時だって『春野さん…パシられたり財布盗られたりしてるの…?もしかして』『かわいそう、先生に言ったほうがいいよ』とか言われるし」


 久瀬先輩がグワっと目をむいた。


「お前さてはそれ一つも否定してねぇな!?この前後輩女子達に声かけたら殺人鬼と遭遇した並の勢いで逃げられたぞ」


「ああ、久瀬先輩については終始バブみ求めてくるとかドSに見せかけたとんでもないドM野郎とか、古今東西セクハラ選手権JAPANユースとか、かなりあることないこと適当言ってますから私。たぶんそのせいです」


「そのせいですじゃねぇよ何でそんなことすんだアホが!!本当に女子が寄り付かなくなったらどうしてくれる!」


「だってこれ以上久瀬先輩の毒牙にかかる女の子がいたらかわいそうでしょ!?」


「お前ら煩ェよ!!!!喧嘩すんならよそでやれや!!!」


「(うわガチ切れしてきた…)ってかクロ先輩は何で人の漫画私より先に読み込んでんですか?普通一番は私でしょ」


「馬鹿か、アツシへの共感が一番深い俺が最初に読むに決まってんだろ。ってか話かけんなよ今いいところなんだから」


「勝手すぎてぶっとばしたい」


「あ?お前ら今更そのマンガ読んでんのかよ。それ最後アツシ死ぬぞ。幼馴染守って」



 私達にボコボコにされた久瀬先輩は、後日ネタバレのお詫びに私とクロ先輩に31アイスクリームをたらふく奢ることになるのだった。

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