第4話「青春する」
「いやほんとマジであなた方一体誰なんですか……私何かしました?」
屋上に着くなり私は彼らに詰め寄って尋ねた。
黒ヤンキーが眼鏡を押し上げて「たしかにな」と頷く。
「自己紹介をしねぇと。俺は久瀬だ」
「どうでもい……あれ。あなた昨日入学式で挨拶してた...?」
「そうだ」
「えー...すごく優等生っぽくてめちゃくちゃ好感もてたのに...世も末かよ.....」
「なら俺と付き合うか?かわいこちゃん」
「かわいこちゃんとか言い出した。むりです……」
「俺は黒峰だ。」
「はい.....あの、そろそろ腕離して」
「俺達がどうしてテメーを探し回ってたか知りてーか」
「むしろ最初からそれしか聞いてな......アッ生意気な口きいてごめんなさい知りたいです」
「暇だったんだよ」
「誰かバット。」
おっと、うっかり武器を所望してしまった。危ない危ない。
私は気を取り直して彼らに向き直った。
「見られてしまったものは仕方ない。『お察しの通り元ヤンでしたが高校生活は真っ当に生きて普通の彼氏が欲しい』春野深月です」
「肩書きが長ェ」
「俺はどうだ」
「いやです。わたし脱ヤン歴は浅いけど髪もゆるふわに染めたしスカートも指定の丈にしたし、ご覧の通り必死なんですよ。お願いだからそっとしといて」
お財布から千円札を抜き、お辞儀をしながら差し出した。
「コレで勘弁してください」
「いやお前骨髄までヤンキーが染み付いてんじゃねぇか」
「あと千円って...割って五百円だろ、ナメてんのか」
「ナメてません。けどもしこれを機に私をカツアゲの対象になんか定めた暁にはしかるべき手段で制裁を下します」
「ハイリスク・ローリターン過ぎる。誰がやるか」
「面白ェ。受けて立つ」
「次会う時までには意見合致させといてくださいね。もう会わないけど。では」
ガシッ!ガシッ!
「.....ダブルで腕掴むの流行ってるんですか?そんなんじゃときめきませんよ私は」
「そっとしておいてやってもいい」
茶髪ヤンキー、もとい、黒峰先輩は言った。
「かわりに時々俺達の暇つぶしに付き合え」
「.....喧嘩はもうしません」
「そんなんじゃねェよ。ただの.....あー...?」
暇つぶし、以上の言葉が出てこないらしい。黙ってしまった黒峰先輩のかわりに、久瀬先輩が続きを口にした。
「ただの――青春だな」
青春。
私はフムと考えて、仕方なく頷いた。そもそも私はそれを探しにここへ来たのだ。
本性を触れ回られるよりよっぽどいいし、彼らの言う青春がもし私の琴線に触れるようなものだったら、その時こそ縁を切ればいい。手段は問わず。
「いいでしょう」
かくして私と彼らの出会いは果たされた。青い春を謳歌したい私の、本当になんてことない日常はこうして始まったわけである。
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