第5話 私の事、あなたの弟子にしてください
「で、弟子に?」
「そう、弟子に。君は、女性の快楽に……いや、快楽そのモノに興味を抱いている。『女の子はどうして、エッチじゃダメなのか?』ってね。純粋な好奇心を抱いているんだ。純粋な好奇心は、その人に大きな成長をもたらしてくれる。まだ見ぬ世界を、新しい世界を示してくれるような」
ヨハンは彼女の周りを歩き、「クスッ」と笑いながら、その正面で足を止めた。
「ナムリィさん」の声が、とても温かかった。「手に職がある人は、強いよ?」
ナムリィは、彼の言葉に揺れ動いた。
手に職がある人は強い。今まで貴族の身分に甘んじていたわけではないが、自分の力で食べ物を得られるようになるのは、何とも得ない感動……もっと言えば、不思議な感覚があった。ここで断ってしまったら……たぶん、自分は色々なモノを失ってしまうだろう。
官能に対する好奇心はもちろん、先程感じたあの感覚も。すべてが無の世界に帰してしまうのだ。それがまるで夢だったかのように。今の彼女には、その感動がどうしても捨てられなかった。
ナムリィはセーレの顔を見、それからまた、ヨハンの顔に視線を戻した。
「ヨハンさん」
「ん?」
「快楽屋の事は、ぜんぜん分からないけれど。こんな私で良かったら」
彼女は、目の前の少年に頭を下げた。
「私の事、あなたの弟子にして下さい」
ヨハンは「クスッ」と笑って、彼女の返事に「はい」とうなずいた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
二人は互いの顔を見合い、そして、「クス」と笑い合った。
セーレはその光景に微笑んだが、内心では若干複雑な思いだった。自分の想い人が、自分以外の異性と仲良くしているのは、見ている分にはあまり面白くなかった。モヤモヤした感情が、彼女の中でスッと広がって行く。
セーレは「それ」を気取られないように笑うと、ヨハンの前に立って、「良かったね」と言いながら、ナムリィの寝ていたベッドの後片付けをしはじめた。
ヨハンは、お茶のカップを片付けた。
「今日の夜だけど、常連のお客さんがいてね。来店する予定だから」と言ってから、彼女にまた微笑む。「見学してみる?」
「え?」
ナムリィは、胸の高鳴りを感じた。
「良いの?」
「もちろん。彼女は、とても良い人だからね。新米の君にも優しくしてくれるよ」
若干の不安は感じたものの、最終的には「分かった」とうなずいた。
「あなたの技術を勉強する」
ナムリィは緊張気味に笑うと、自分の服を正して、その常連客が来店するのを待った。
常連客は言われた通り、その人の夜にやってきた。
自分と同い年くらいの美少女。ヨハンの声を聞く限りでは、彼女の名前は「カノン」、その姓は「レーン」と言うらしい。
カノンは上品に笑うと、彼女の姿を品定めするように、足下から頭までスッと見渡した。
「はじめまして。ワタシは、レーン家のカノンと申します」
レーン家の名前に聞き覚えはなかったが、一応同じ貴族と言う事で、貴族風に「はじめまして。私は、バン家のナムリィと申します」と返した。
二人は、互いの顔を見合った。
「綺麗な顔」と言ったのはカノン、それに驚いたのは「え、ええ?」と応えるナムリィだった。
「私が? ですか?」
「ええ。女のワタシでも、思わずクラッと来ちゃうくらいに」
カノンは、彼女の身体を舐めるように見つめた。
ナムリィはその視線にゾクッとしたが、嫌な感じはなく、寧ろ快感のようなモノを感じてしまった。彼女の視線には、人を悦ばせるだけの何かがある。
「そ、そうですか」の声も、妙に色っぽくなってしまった。「自分では、ぜんぜん分からないですけど」
「フフフ」
カノンは、ヨハンの顔に視線を移した。
「彼女も観るの?」
「うん。彼女は、僕の弟子だからね」
弟子の部分に驚いたが、カノンの顔は至って冷静だった。
「そう。貴方も、弟子を取るようになったのね」
彼女は何やら考えたが、サービスの事を思い出すと、嬉しそうな顔で自分の服をゆっくりと脱ぎはじめた。
ナムリィは、彼女の裸に息を飲んだ。官能と美が見事に融合した裸体。その奥に光るのは、女性が求める情欲と、それを認める確かな意思だった。
カノンはセーレに自分の服を渡すと、慣れた様子でベッドの上に寝そべって、ヨハンの奉仕が始まるのをじっと待ちはじめた。
ヨハンは自分の右手にオイルを垂らして、彼女の身体をゆっくりと撫ではじめた。最初は、彼女の唇から。次に彼女の首筋を撫で、鎖骨をなぞり、胸の周りをスッと撫ではじめた。
カノンは、その快楽に悶えた。
セーレは少し離れた所で(彼らの見つからないように)、自分の身体を慰めはじめた。
ナムリィは、その光景に目を見開いた。自分がやられた時とは、まるで違う。「快楽に奉仕する快楽」は、どんな快楽よりも淫らだった。店の中に響き渡る声。その声には、彼女の身体を甘くする音が含まれていた。
ナムリィは胸の鼓動に戸惑いながらも、目の前の光景からは決して目を離さず、条件反射に自分の身体を慰めつづけた。
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