第3話 今回は、特別に無料だよ
快楽屋の雰囲気に驚くナムリィだったが、その中で働く少女、セーレを見つけると、呆けた顔で「え?」と驚き、彼女の前に歩み寄って、彼女に「あ、あの?」と話し掛けた。
「あなた、もしかして?」
の続きは言わなかったが、セーレには「それ」が簡単すぎるくらいに分かった。
「はい、ここで働いていますけど?」
セーレは穏やかな顔で、彼女に「クスッ」と微笑んだ。
「ここは、女性の快楽に奉仕する店です」
「女性の快楽に奉仕する店?」
雷に打たれたような衝撃だった。
今までは、男性に奉仕する店しか見て来なかったのに。
ナムリィは呆けた顔でセーレを見、そしてまた、ヨハンの顔に視線を戻した。
「店主は、あなた?」
「そうだよ」が、ヨハンの答えだった。「僕がここの店主だ」
ヨハンは彼女の姿を見て、何やら考えると、穏やかな顔でセーレの方に視線を移した。
「セーレさん」
「はい?」
「悪いけど、お風呂を沸かしてくれないかな? 彼女はたぶん」
ヨハンは「うん」とうなずき、ナムリィの顔にまた視線を戻した。
「何処かの家から出て来た人だと思うから」
「え?」と、驚くナムリィ。セーレも「それ」と同じ反応を見せたが、自分の経験と照らし合わせて「なるほど。確かに、彼女は浮浪者じゃない」とうなずいた。「浮浪者なら、もっときつい目をしている筈だから」
セーレはヨハンの指示に従い、店の奥に行って、そこにある風呂を沸かしはじめた。
ナムリィは、二人の厚意に戸惑った。
「そ、そんな! 大丈夫です! あたしは」
「遠慮しなくて良い。さっきの女の子も、元々は浮浪者だから」
人助けは慣れている。そう訴える少年の目は、ナムリィの心を温め、そして、不思議な感覚にさせた。彼の目にはそう、嫌らしさが感じられない。
女性の快楽に奉仕する(彼の言葉を信じるならば)仕事をしている筈なのに、男の下劣さがまったく感じられないのだ。
まるで赤ん坊がそのまま大人になったように。「クスッ」と笑った顔にも……少女の本能を刺激されたのか、その顔に思わずぼうっとしってしまった。
ナムリィは、彼の笑顔に頭を下げた。
「あ、ありがとうございます」
に対する答えは、「いや」だった。
「お風呂から上がったら、裸のままで来て?」
「は?」
思考が止まった。
「裸のままで、来る?」
「そう。ここのサービスは、裸じゃないと受けられないから」
ナムリィは、自分の身体を抱きしめるように……なんて事はやっていられない。今すぐ、ここから逃げ出さなければ(男性の、しかも自分と同じくらいの男子に裸なんか見せられない)! 鋭い眼で少年を睨みつける。
「すいません! あたし、これから用があるので」
彼女は急いで店の中から逃げ出そうとしたが、出口の手前でヨハンに呼び止められてしまった。「何処に用があるの?」と言う風に。それを聞いた彼女は、扉のノブに触れかけた手を引っ込め、彼の方にサッと振り返った。
ヨハンは、彼女の横まで歩み寄った。
「大丈夫、何も恥ずかしい事はないから。さっきの女の子、セーレさんって言うんだけどね。彼女も、うちのサービスを受けたし。彼女以外にも」
「え?」
「常連客はたくさんいる。だから、何も恥ずかしい事はないんだ」
ナムリィは、彼の言葉に揺れ動いた。
常連客もたくさんいる? と言う事は……この店は、それだけ認められているのだ。この店が提供するサービスに。
サービスが良くなければ、こんな商売は続けられない。女性の目は、男性のそれよりもずっと厳しいのだ。
自分の美を彩る商売はもちろん、それを認めてくれる商売も。女性は男性と比べて、「性」に対するガードが堅い。それにも関わらず、そのガードを打ち破っていると言う事は……。
ナムリィは不安半分、期待半分で彼の言葉にうなずくと、セーレの用意した風呂に入って(服は、セーレが洗濯しくれると言う)、身体の汚れを落とし、その身に何もつけないで(髪の色は、色艶の良い茶色。髪型はやや長めのセミロングで、癖がまったくない。身長は標準と同じくらい。体型の方は痩せ型、胸のサイズは大きすぎず、小さすぎず、丁度良い感じ)、ヨハンのいる所に戻り(彼女の事を考慮して、店のカーテンを閉めている)、彼の指示に従って、ベッドの上にゆっくりと寝そべった。
「あ、あの?」
「なに?」
「サービスって事は、お金を」
の続きを聞く前に、「大丈夫」と微笑むヨハン。
「今回は、特別に無料だよ」
ヨハンは、彼女の頬に触れた。
ナムリィは、その感覚に悶えた。少し触れられただけなのに、身体の芯が熱くなった。「これは、凄い」と、本能的に感じ取る。
まるで雲の絨毯を歩いているように。ヨハンが彼女の唇を撫でた(と言うより、なぞる?)時も、その背中に電撃のようなモノが走った。
電撃は、彼女の身体を痺れさせた。唇の端から始まって、首筋、胸、腹、下腹部、足の先と言う風に。その痺れが無くなると、言い様のない感覚、快感に近い何かが襲って来た。
ナムリィはその感覚に驚きつつ、頭の方は「それ」に酔い痴れはじめた。
「しゅご」
「フフフ。まだまだ、これからが本番だよ」
ヨハンは自分の右手にオイルを垂らし、穏やかな顔で彼女の身体をゆっくりと揉みはじめた。
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