第二部 新しい世界

第1話 初めての感想は?

 オイルの快感が堪らない。唇の時もそうだったが、オイルが首筋に触れた瞬間、凄まじい快感がセーレを襲った。それに思わず喘いでしまう程の。

 快感は彼女の胸や腹、そして、下腹部を駆け巡り、最後は足の先からゆっくりと、何かの余韻を残すように抜けて行った。

 

 セーレは、その快感に涙を流した。


「あ、ああ」


 気持ちいい……の言葉は、もはや言葉になっていなかった。


 ヨハンはそれに「クスッ」と笑い、オイルの付いた指をまた動かしはじめた。彼女の身体を撫でる。首筋の所はゆっくりと、胸の所は三回ほど撫で回し、下腹部の所は「それ」が汗ばむまで撫でつづけた。


 少女の吐息が漏れる。

 吐息は店の空気と混じって、その天井にふわりと浮かんで行った。

 

 セーレは、オイルの快感に酔い痴れた。天にも昇るような気持ちで。虚ろになった目にも、その快感がありありと浮かんでいた。


 自分は今、この世の天国を味わっている。

 あらゆる苦しみから解き放たれて。


 彼女の身体には、最高の快楽しか残っていなかった。オイルが身体を侵す快感はもちろん、その快感がどんどん膨れ上がって行く感覚も。すべてが、砂糖菓子の世界に染まっていた。

 職人の手から落ちた砂糖が、その身体にゆっくりと溶け込んで行くように。彼女が味わった快感も、その感覚とまったく同じだった。決して乱暴ではないが、乱暴よりも強い感覚。

 

 セーレはその感覚に悶えつつ、ベッドの端を必死に掴みつづけた。


「くっ、うううっ」


 ヨハンは彼女の太股に指を移し、その太股を慎重かつ大胆に撫ではじめた。決して、嫌らしい手つきではなく。彼の指には、相手を思いやる優しさが詰まっていた。彼女の太股から離れて、今度は足首の方に指を移す。少女の肌を傷つけないようにゆっくりと。その途中でオイルが切れたら、自分の指にまたオイルを垂らした。

 

 ヨハンは穏やかな顔で、少女の足を揉みはじめた。足の裏側は少し強めに、その反対側はちょっと弱めに揉みほぐす。彼女の反応を聴きながら、その力に(若干の)強弱を入れた。足の指を揉む時も同様。足の指を揉む時は、その指に応じて揉み方を変えた。親指を揉む時は少し強めに、人差し指は「それ」よりも弱めだが、中指は「それ」と大体同じく、薬指は若干強くして、小指は親指と同じくらいに揉みほぐした。


「う、うううん」


 セーレは、その感覚に身悶えた。はしたないのは十分判っているのに、口から漏れたヨダレがまったく止まらない。

 それどころか、どんどん溢れてくる。まるで快感そのものに呼応するように。下腹部の液体も、河川のように流れつづけていた。

 

 セーレは(咄嗟に)、ヨハンの腕を掴んだ。


「だ、ダメ! これ以上は、飛んじゃう!」


 ヨハンは、その言葉に微笑んだ。


「大丈夫だよ。店の中には、僕達しかいないし」


「そうよ」と、カノンもうなずいた。「ワタシも、裸だし。別に恥ずかしがる事はないわ」


 カノンは「ニコッ」と笑って、セーレの前に歩み寄ると、優しげな顔で彼女の頬を撫でた。


 セーレは、その手を握り締めた。


「カ、カノン様」


「なに?」


「飛ぶのが怖いので、握っていても良いですか?」


 相手の返事は、「もちろん」だった。


「良いわよ。ダメなわけがないじゃない? あなたが無事に帰って来られるまで、ちゃんと握っていてあげるわ」


 セーレは、その返事に「ニコッ」とした。


「有り難うございます」


 ヨハンは彼女の下腹部に指を戻し、そして、その意識を絶頂へと誘った。


 ……彼女の意識が戻ったのは、それから十分後の事だった。


 何となく残る、気だるい感覚。

 

 セーレはその感覚に戸惑いながらも、ベッドの上からゆっくりと降りて、近くの毛布に手を伸ばし、それで自分の裸体を隠した。

 

 ヨハンは、店の椅子に彼女を座らせた。


「初めての感想は?」


 セーレは、その質問に赤くなった。


「う、うん、最初は緊張したけど」


 二人に裸を見られちゃったし、と、彼女は呟いた。


「で、でも、すごく気持ちよかった! ヨハン君のオイルを塗られて。やっぱり、お願いして良かったよ。『オイルの事、もっと良く知りたい』って。これからも働く店だから」


 ヨハンは「それ」に微笑むと、穏やかな顔でカノンの方に視線を移した。


「それじゃ、次はカノンさんの番だね」


「クスッ」と、笑うカノン。「ええ」


 カノンは、ベッドの上に寝そべった。


「ベッドの上が湿っている。でも、嫌な感じはしないわ。女性が乱れた証として。ワタシとしは、寧ろ興奮する。その子の感覚がひしひしと伝わってくるようで、考えただけでもゾクゾクするわ」


 クスッと笑った彼女の顔は、何処までも妖艶だった。


「ロジク君」


「なに?」


「今日のサービスは、ちょっと強めに」


「良いの?」


「ええ。今日は、彼女の目もあるし。ワタシも、そう言う気分だから」


 ヨハンは、彼女の顔をしばらく見下ろした。


「分かった。なら、少し強めにするよ?」


「ええ」


 カノンは「ニコッ」と笑って、ヨハンの指に悶えはじめた。


 セーレはその様子をじっと観ていたが、カノンがヨハンのオイルに喜びはじめると、自分の下腹部に手を伸ばして、その敏感な部分をゆっくりと弄りはじめた。

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