第23話 解決か?
「なっ、これって」
「ちょっと、あなた!」
「この子に一体、何をしたのよ?」
ヨハンの目が怪しく光った。
「知りたいですか?」
「え?」
「僕が一体、彼女に何をしたのか?」
ヨハンは「ニヤリ」と笑って、(抵抗はされたが)残りの少女達にも同じ事をした。
少女達は、その快感に悶えた。
「え? なっ、うそ」
「何これ?」
「身体中が気持ちいい」
アリスは(今日は執事が不在なので、助ける者がいなかった)快楽の地獄に悶えながらも、地面の上から何とか立ち上がり、テーブルの端を必死に掴みながら、今の体勢を保ちつづけた。
「はぁ、はぁ、はぁ、アナタ、アタシ達に、一体、何をしたの?」
ヨハンは彼女の前に歩み寄り、その耳元にそっと囁いた。
「オイルですよ。あなた達の額に特製のオイルを塗ったんです。普段使っているオイルの何万倍も濃縮した。そのオイルには……僕には効きませんが、その人の快楽を満たし、そして、その欲望を吐露させる効果がある」
「よ、欲望をとろぉ?」
アリスはその言葉に驚いたが……気づいた時にはもう、周りに自分の欲望を言い放っていた。
アタシは、ノリスの事が好きだ、と。
彼に今すぐ、抱かれたい、と。
抱かれた後は、彼の身体を思い切り味わいたい、と。
彼女は「それ」に恥じらう事無く、その欲望を叫びつづけた。周りの少女達も似たような感じに、自分の願望、欲望、性癖を叫びつづけた。
「アハハハ」
「うふふふ」
「もっと叩いて!」
ミレイは、それらの光景から視線を逸らした。
「あ、あの子達が、こんなに乱れるなんて。ヨハンはいつも」
「うん、見ているよ(今回のオイルは、特製品だが)。商売の関係でね」
「ふ、ふうん。そう」
ハウワーは、彼女達の姿(悶えている)に恐る恐る目をやった。
「これが、この子達の欲望なんだね?」
「そうさ。そして、一番見られたくない欲望でもある」
ヨハンは、周りの少女達を指差した。
少女達は彼の視線、特にハウワーの視線に青ざめた。「自分の一番見られたくないモノを見られた」と。テーブルの端にしがみついていたアリスは、「それ」を知らせたショックで、思わず泣き出してしまった。
ヨハンは、その嗚咽に溜め息をついた。「人間は、快楽には抗えない。快楽とは、人間がこの世に生きている証だ」と。そして、「その証を否む権利は、誰にもない。ハウワーさんは……彼女も最初は偏見を持っていたが、その真理をちゃんと受け入れてくれた」と。「性の欲望は、誰の中にもある」
少女達は、彼の言葉に俯いた。
「ハウワー」
「お願い」
「許して」
「アタシ達の事」
「うううっ」
ハウワーは少女達の前に駆け寄り、そして、その身体を温かく抱きしめた。
「う、うん。うん!」
彼らは、まるで子どものように「わんわん」と泣きつづけた。
ミレイは(アリスの気持ちには驚いたが)、その光景に胸を打たれた。
「良かった」
「か、どうかは、分からないよ」
ヨハンは、彼女の隣に立った。
「彼女達は、自分の欲望を知らせた。誰にも知られたくない、心の奥に仕舞っていた欲望を」
「う、うん」
「しばらくは、気まずくなるだろうね」
「そうだね。でも、大丈夫」
ミレイは、彼に微笑んだ
「それは、私が何とかするから」
「そっか」
ヨハンは穏やかな顔で、少女達が泣き止むのを待った。
少女達が泣き止んだのは、それから二十分後の事だった。彼女達は(照れ臭そうに)お互いの身体から離れると、自分の欲望にモジモジしたり、ヨハンの顔に目をやったりした。
ヨハンは、アリスの隣にそっと近づいた。
「さっきのアレは、凄かったね」
アリスはその声に苛立ったが、苛立っただけで、彼の目は睨まなかった。
「アタシは、変態じゃない」
「分かっている。君はただ、好きな人に甘えたいだけだ。さっきのアレを見ていると、うん」
「くっ、うっ、でも」
「ミレイの事だね?」
「うん。彼女はその、綺麗だから。アタシなんかよりもずっと」
「そうかな? 彼女は、確かに綺麗だけど。君だって」
「え?」
「十分に綺麗だと思う。君が思う以上にね。だから、自信を持って良いと思うよ?」
アリスは「え?」と驚きが、やがて「クスッ」と微笑んだ。
「ありがとう。アタシ、自分の恋を頑張ってみる。今までは、素直になれなかったけど。今度からは、絶対!」
「うん。君ならきっと、上手くいくよ。自分の恋を諦めなければ」
「アナタは、誰かに恋しているの?」
「僕は……うん、誰にも恋していない」
「ふうん。それじゃ、新しい人を見つける気は?」
「新しい人、か。うん、今の所はいないね」
「本当に? ミレイとは?」
「彼女は、ただの友達だよ。特別な関係じゃない」
「そっか」
「そうだよ」
「残念、アナタがミレイと付き合えば」
「自分は、ノリスって人と付き合えるって?」
アリスは、頭の後ろに両手を回した。
「あーあ。現実はどうして、こうも思い通りにならないんだろう?」
「それが現実だからさ。想う人には想われず、想わぬ人に想われて」
「現実は、理不尽ね」
「うん。だからこそ、生き甲斐がある」
ミレイは、二人の笑い声に驚いた。
「ど、どうしたの? ヨハン」
「何でもない。ねぇ?」
「うん! 世界の話に盛り上がっていただけだから」
「そ、そう。なら」
彼女は二人の言葉にホッとする一方、内心では「本当かなぁ?」と疑っていた。
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