星の声

Summer岸坂

星の声

不思議な夢を見た。


何者かが話しけけてくる。おそらく私に。


「もうあまり時間はありませんよ。

 返却の時は近づいています。」


一体何を返すのか心当たりがなかった。

時間がない?

返すものの持ち合わせがないのか?

それとも返すと何かができなくなるものなのか?

つまり、それが手元にあるうちに何かしろということか。

無くなったら困るものはいろいろ思い当たるが借りているものに全く心当たりがない。


そうこう考えるうちに目が覚めた。


「夢か。」


その日も普段通りの一日が始まった。

しかし家を出て10分程度歩いたあたりで

一瞬、頭部に激痛が走り、一瞬にして暗闇と静寂に包まれた。

正確には全ての感覚が失われた。

死んだのか。当然、なぜ死んだのかはわからなかった。

返却するのは身体のことだったのか。

まあ今の身体のほとんどは数年前は他の動植物の一部だったわけだし。

たしかに身体は灰になり大地に返される。

そしていずれ他の生物に貸し出される。

しかし骨の一部はおそらく返却されることなく保存されるだろう。

貸主はそれでいいのか?


意識が薄れてきた。

記憶が次々と失われていくと同時に

その記憶が要因となっている自分の思考パターンも消えていく。

自分の精神というか魂がバラバラになって去っていくようだ。

そうか、返却されるのは身体でなく精神、つまり私自身だったようだ。


そして私は星の一部に戻った。

気にすることはない。

生まれる前に戻っただけだ。

それに全ての生物は一心同体だったのだ。

そして私は再び生まれる時を待ち続けた。


そして覚醒した。

平たく言えば目が覚めた。


「夢か。」


確かに私たちの身体を構成している原子、

いや、核分裂や核融合を考慮すれば電子、陽子、中性子は

私たちが生まれる遥か前から存在し、

これからも、形を変え、持ち主を変え、存在し続けるのだろう。

消えてなくなることはないだろう、この宇宙が続く限り…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星の声 Summer岸坂 @harayama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ