第8話修行 天才とて常に上手くいくとは限らない

「…!…!起きて!起きてよ..!起きてください!」

次の日になって、フェリックスは誰かが自分を起こす声を聞いた。

まだ眠たかったが、その程度で二度寝するほど心が弱いわけではないので、目を開ける。

そこにいたのはソル、ソレイユスル=アン=グランルージュであった。

「ソル?どうしてここに?」

「どうしてって、私は貴神様の巫女にございます。心も、体も、魔力も、全て繋がっております故、昨日起こったことは把握しております。一昨日の自分のことは…それほど記憶にありませんが。」

「そ、そそそそ、そうか。ならばもうお互い改まった口調で話す必要もないな。気さくに話しかけてくれて構わない。… ところで、聞いた話だと互いに心が読めてしまうとか、互いの魔力を共有できるとか、そういう話だったと思うが、もしかして今までの俺の心は全部筒抜けだったのか?」

「どうでしょうね〜?少なくとも神に選ばれるようなお方でも男性というのは変わらないのだな、と実感しました。それと昨日はドゥミ…愚妹のことですが、あれに任せており、自分は所用で来れなかったのです。しかしそれでもあの場でのことはちゃんと把握している、とだけ言っておきますわ。」

ここでフェリックスはやっぱり筒抜けだったと確信したのであった。

「おいおい制御できれば…こっちから覗くだけになるはずだから、大丈夫。」

「え?」

「なんて思ってますでしょ?なんと残念、私の頭を覗くのは不可能です。魔法で防御してますので。アンリ様によれば神の精神制御は難しいそうなので、これからもずっとフェリックス様は私にあれやこれや曝け出しちゃうかもしれませんが。そうなったらその影響で魔法が飛び火、私の方からあれやこれやしちゃうかもしれませんよ?」

「な、何を言ってるんだ…そんなことするわけ… はっ!」

一瞬淫らなことを想像してしまったフェリックスは、まさに目の前で起こっているそれを止めるために、素数を数える羽目になったのであった。

「間違ってるよこんなの。君は僕の心を覗ける。僕は君を思った通りに動かせる。君を好き勝手にできる人形みたいにしてしまう気なんてなかった。きちんと神として大成してからにしたかった。」

事態が収まった後、フェリックスは半ば独り言のようにソルに話しかけた。

「そうでしょう。ですから大成するまでそばにいて差し上げます。私と、

この魔力発散ハリセンが!」

ソルは得意げに後ろからハリセンを見せてきた。どこから取り出したのかはともかく、一見ただのハリセンであるが、それは魔力を帯びていた。すっ、とソルはこめかみに手を当てた。防御魔法を一瞬だけ解除したのだと、フェリックスには分かった。

「このハリセンで叩くと魔力が分散され、魔法の発動が止まるわけか。」

頭に感情と知識が流れ込んできたのである。

「そうです。こんな風に!」

ダン!とハリセンらしからぬ効果音とともに頭をひっぱたかれるフェリックス。彼の目には星が見えたという。フェリックスもこれは流れてきた知識で分かったいたことだが、こうして神を叩くことで魔法を止めるのだ。心を垂れ流すのは止められない。ひたすら神に損な道具だ。

「ところで、アンリは?」

痛みに頭を抱えつつ話題を変える。もっとも直接言葉にする意味など本来ないのであるが。

「アンリ様は、神殿の設計や立地について協議するため妹とともに現地に向かっております。」

「へーえ、ちゃんと仕事してるんだな、あいつも。」

思いがけず勤勉だったアンリに感心する。

「アンリ様はやらなきゃいけないことは優先的に終わらせるタイプの方ですからね。ただ猶予があるとギリギリまでやらないでしょうけど。」

ああそうか、そんなんだったな、とフェリックスは感心する。

「さて、フェリックス様、時間は残り少ないですよ、今から一日みっちり魔法を覚えてもらいますので。じゃないととても私一人の力では鉄岩連峰は越えられませんから。」

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