第2話 出会い 天国において学友は神であった
「やあ。」
声がする。自分はまだ、天国への階段のほんの一合目だったはずなのだが。いったい誰が声を掛けたのか。
そしていきなり場所も変わったようだ。ここは広場のようだ。門のような物もある。あとは、自分に体もある。肉体を感じられるのはもう何年ぶりだろうか。
「驚いた?Mくん。」
「あ、あ、あ、ああ、おどろいた」
声を出せること、それ自体が本当に久しぶりだ。
彼はそんな風に突然の出来事に戸惑っていたが、やがて落ち着きを見せると今度は声の主に質問をした。
「これはいったい、どういうことですか?」
何を問いたいのか判らない。だが要するに説明がして欲しかったのだろう。
「良いお知らせが二つと悪いお知らせが一つある。」
声の主は告げる。
「悪いお知らせからで。」
彼は生前と変わらず悪いお知らせから聞く。
「じゃあ、そっちから言うけど、君の天国行きは取りやめになった。」
「良いお知らせは?」
「君が異世界へ転生すること、そしてこの僕が付いて行ってあげるってこと。まあ、僕一人では心細いから付いてきて欲しいってのもあるけど。」
声の主は少年とも少女ともつかない声で笑いながら答えた。
「どうして、おれを?」
「君は現代において並外れた才能と幸運に恵まれながらそれを活かすだけの時間、生きられなかった。それを惜しいと思ったのだよ。」
その時、彼の心の中で何か違和感が頭をもたげた。この声の感じ、どこかで聞いたことがある…
「お前さ、Nだろ?」
彼は生前のようなオーラを発しつつ、相手を問い詰める。
「え、いや、知りませんね、そんな人〜。」
声の主は動揺する。
「どうしてNが人だと分かったんだ。」
「・・・」
しばしの沈黙。
「違います。」
「姿を見せろ。」
「ハイハイ、仕方ないなー。面倒だからゆっくり説明するつもりだったんだからね?ほんとよ?」
そして現れたのは少女であった。いや、女性と断定するのは難しい。見方を変えれば男性と言う人もいるだろう。
髪はオレンジ色、目は金色に輝いていた。その肌は褐色だった。
「人違いだったな。」
彼は首を振る。
「いや、合ってるよ。僕は、人間だった頃、君の学友のNだった。これが、本来の姿形ってわけさ。一応、ね。」
「なるほど、要するに趣味ってわけか。」
異性のふりをしていたのが人間の頃か今なのかはともかく。そしてさっきの否定はなんだったんだろうか。
彼は相変わらず変態だなあと言う目で少女らしきものを見ている。少女の方は、さっきのがツッコミを入れてもらうためのネタの仕込みだったのに台無しだな、と考えているが、それは到底彼には理解できないだろう。いつものことだが。
「とりあえず、さっきも言った通り、君の天国行きは中止。異世界へ Let’s 転生、第二の人生 Start、Yeah!」
腕を上げ、突然ハイテンションになる少女。基本こんな感じで周りに理解できないテンポで浮いていたのは、100年経っても改善されていないようだ。
「よし、まあ、必要なのは、異世界での名前だね。名前ってのは魂と結びついてるからなあ。」
「ゆっくり説明するんじゃなかったのか?」
「あー、そうだよね。結構長くなるけど、大丈夫?」
「ちゃんと説明してくれるんならな。万が一伝え忘れてることがあったら、許さないけど。」
彼は少女の性格をよく分かっている。学年の皆が知っていたことだ。
そこから先は真面目な説明になった。こう言う授業みたいなことは、普通にうまい。
「で、最後に名前を決めて終わりだよ。」
少女は言う。自慢げに。
「変えなきゃダメか?」
彼には名前を変えるという行為にどこかしら偽名、芸名のような抵抗感があった。
「ダメだね。そうしないとうまくいかないのさ。」
「そうだな、じゃあそっちの世界風の名前にするか。じゃあ、フェリックス。運が良さそうだろう。」
「まあまあだね。」と少女は言いつつもはにかむ。やっぱりこれがやりたかったのだろうか。
「僕は、アンリでよろしく。」
「アンリか。その辺にこだわりがあるんだな。」
「まあね。じゃああの門をくぐれば異世界さ。僕の手に掴まって。」
そうして二人は門の前に立ち、足を踏み入れた。
白い光が二人を包む。
「あ!」
「なんだよ!」
「そういえば、僕も君も向こうじゃ神様扱いだけど、問題ないよね!」
「あーる〜
あーる〜
じゃあ〜いー。」
そんな彼のツッコミも虚しく、なんか落ちていく、それが思い出せるギリギリの場面であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます