12

「なに?」と静は言った。

「……私のこと、東京に帰っても、ずっと、ずっと忘れないでいてくれる?」今すぐにでも泣き出してしまいそうな、そんな悲しそうな顔をして翼は言った。

 どこか遠くで、ほーほー、と梟の鳴く声が聞こえた。

「もちろん。約束するよ」にっこりと笑って静は言う。

「本当に?」

「うん。本当に約束する。東京に帰っても僕は翼ちゃんのことを忘れたりしない。絶対に忘れたりしないよ」静は言った。

 すると翼は感動して、目をうるうるとさせて「うん。ありがとう。静くん」と静にいった。

「また、来年、この場所にくるよ。そのとき、もう一度、虫をとったり、魚釣りをしたり、動物を観察したり、森を探索したり、湖の近くで遊んだりしようよ」

「うん。絶対だよ」

 翼は言った。

「この場所にも、もう一度きてみたい。僕はなんだかこの場所がすごく好きになったみたいなんだ。ここにこうして立っているだけで、この場所に満ちている新鮮な空気を吸い込んでいるだけで、なんだかすごく落ち着くんだ。……ここはすごい場所だね」

 静は言った。

「ありがとう。静くんが私の、……ううん。私たちの秘密基地を気に入ってくれて、私、すごく嬉しい」ようやく笑って翼は言った。


 それから静と翼は、静が翼の暮らしている信州から東京に帰る夏休みの終わりまでの数日の間、この朽ちた神社のところで、一緒に遊んで楽しい時間を過ごした。

 二人は相談をして、この神聖な雰囲気を持つ、朽ちた神社のことを『梟神社』と名付け、(本当の名前は鳥居のところがぼろぼろで、わからなくなってしまっていた)この周囲の神聖な気の満ちている深い森のことを『梟の森』と名付けた。


 静が「さよなら。また来年遊ぼうね」と翼に手を降って、両親の運転する、隣でぐっすりと眠ってる妹の秋のいるワゴン車で信州の森の中をあとにしたのは、その次の日のことだった。

 翼は「さよなら、静くん。また来年。この場所で待ってるね」と泣きながら静に手を振ってくれた。

 ……でも、その約束の来年。

 静は信州にくることはなかった。

 静の両親がその翌年に離婚をしたために、信州の親戚の家は、静の親戚の家ではなくなってしまったからだった。


 静はそれ以来翼と再会をすることはなかった。

 そして、十五年の月日が流れた。

 その年、朝倉静は二十五歳になり、東京の国立の大学院に通う、一人の大学院生になっていた。

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