10 森で暮らす子供たち

 森で暮らす子供たち 


 静と翼がそんな話をしていると、どこからか一羽の梟が神社の境内にどこからかやってきた。

「……梟。本物の梟だ」

 東京で暮らしている静は森の中で暮らしている本物の梟を見て、……その大きな目をさらに大きく見開いた。

 静は本物の梟を見るのは、今日が初めてのことだった。静は感動した。信州の森の中にきて、本当によかったと思った。

「この子はこの神社の、……ううん。この森の守り神なんだよ」その梟を見ながら翼が言った。

「森の守り神?」静が言う。

「うん。守り神。お父さんとお母さんに聞いたの。森の中の古い神社に一羽の梟が住み着いているって。そしたらね、お父さんとお母さんが私に教えてくれたの。その梟はきっと、森の守り神なんだよって。この神社に住み着いて、人間に変わって、森と神社を守ってくれているんだって、そう教えてくれたんだよ」

 静はその梟を見る。

 梟は大きな緑色の木の枝に止まって、そこからじっと静と翼のことを見つめていた。

 敵意のようなものは感じない。勝手に神社の中に入ったことに怒っている様子もない。ただ、その一匹の梟はそこから静と翼のことを、まるで『見守るようにして』じっと、二人の姿を観察しているだけだった。

 やがて梟は木の枝から飛び立って、森の奥深くに飛んで行ってしまった。(梟はまるで、古い朽ちた神社の中に迷い込んだ静と翼のことを確認するためだけに、この場所までわざわざ飛んできたかのようだった)

 静は感動で胸がいっぱいだった。

 梟がいなくなったあとも、静はしばらくの間、ずっと、その梟が飛び去っていった深い森の木々の様子を見つめていた。

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