翼が静を連れて行ってくれた場所は、湖の畔りを抜けた森のずっと奥にある、朽ちた古い神社のような場所だった。

 そこには緑色の苔の生えた立派な石造りの鳥居があった。でも、その鳥居はところどころがかけていて、その下にある石畳の階段もぼろぼろに崩れて、そのさらに下にある土が見え隠れしていた。

「こっちだよ。静くん」

「うん。わかった」

 静は翼に手を引かれるままに、その鳥居をくぐり、神社の奥に移動した。

 鳥居と同じく緑色の苔に覆われた灯篭の間を通り抜けると、その奥にはもう誰もお参りになんてこないであろう、誰からも忘れ去られて、放置されてしまった、朽ち果てた神社の社がかろうじて建っていた。

 でも、その朽ちた神社からは、とても強い、神秘的な力のようなものが感じられた。

 聖域、とでもいうのだろうか?

 勝手に近づいてはいけない。

 この場所を、穢れで汚してしまってはいけない、といったような強い感情を静は感じ取っていた。

 静は『生まれつき、そう言った人の目には見えない力や、人の耳には聞こえない声を聞く力が、普通の人よりも、若干だけど、強い傾向』にあった。

 そのことも加味して、静はこの場所は、なぜ地元の人々に忘れ去られてしまったのかはわからないけれど、本当なら、絶対にそうなってはならない場所なのだと理解した。

「気持ちよくて、いいところでしょ?」

 緊張している静に向かって、翼はにっこりと笑ってそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る