8 ……ひだまりの中で。
……ひだまりの中で。
静にはそれが二人の永遠のさよならのような気がして、なんだかすごく不安になった。
もう二度と、翼と会えないのではないかと、静は思っていたのだ。
でも、静が東京に帰る夏休みの終わりのころに、翼は静の前に、夏の陽炎の中に(あるいは霧の出る湖の向こう側に)、消えてしまうことなく、ちゃんと静の前にその姿をあらわしてくれた。
「こんにちは」
それはキスをしたせいだろう。
翼はなんだか、すごく恥ずかしそうな顔をして、そう言った。
静もすごく恥ずかしかったのだけど、でも、もう二度と翼に会えなくなるのではないかという不安のほうが大きかったから、どちらかというと、ほっとして、それからすごく嬉しくなった。
「こんにちは」
静はなるべくいつものように、翼にそう返事を返した。
そんな普段通りの静の様子を見て、翼もなんだか、すごく安心したようだった。
翼はいつものように、にっこりと明るい太陽のような笑顔を静に見せてくれた。
「静くんに、知っておいてほしい場所があるの」
翼が言った。
「僕に知っておいてほしい場所?」
静は首をかしげる。
「うん。だから一緒に来て」
そう言って、翼は静の手をとって、緑色の森の中にある静の家の前から、急ぎ足で移動を始めた。
「あ、お兄ちゃん。どこ行くの?」
そんな二人の姿を見て(静の家の前で一人で遊んでいた)妹の秋がそういった。(そんな秋に静は「ちょっと出かけてくる」と後ろを振り返ってそういった)
「あ、ちょっと待ってよ」
そう言いながら、静は翼に引っ張られるようにして、早足で歩き出す。
「ほら、静くん。早く早く」
翼はすごく嬉しそうな顔で笑った。
頭にかぶっている黄色いたんぽぽの飾りのついた麦わら帽子が、翼にすごくよく、似合っていた。
翼はすごく綺麗だった。
眩しい太陽の光の中で、翼にその手を引かれながら、そんなことを静は思った。
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