第13話



「・・・成程、まさかトラミエルの副ギルド長様がなぁ・・・・・・」


「その呼び方は余り気に入ってないのよ、堅苦しくて。団長がやりたくないって駄々こねたから仕方なく広報も担ってるだけで・・・無難に名字で呼んで頂戴」


「じゃあ、新崎さん。・・・えっと、自己紹介をさせて貰う、東 颯だ。こんなんでも冒険者の端っこ辺りに属してるソロでね、今日はダンジョンでの花見に参加させてもらいます。・・・改めて、よろしく」


「ええ、よろしく」



あれから春樹達と合流した俺は取り敢えず、話は道すがらするから早く花見の会場へ移動しようという春樹の力なく吐き出した言葉によりダンジョン【妖精の花園】へと向かっていた。


そうして事情を聴いてみるとどうやら俺がそんなに遅刻を咎められなかった理由は目の前のこの美人でクール系な何処かめんどくさげな雰囲気を醸し出す新崎さんも遅刻したからだったらしい。


・・・ラッキーだな、どうやら思わぬ人物の登場で夢原さんはどこかわたわたしてしきりに前髪や服をチェックしているし、市川さんはダンジョンの花見について質問したりして目をキラキラさせているし春樹は何処か恨めしそうな、それでいて疲れたような顔をしている。


このまま何事もなかったかのように遅刻の話は流れるかと思った時新崎さんがふと思い立ったように声をあげた。



「あ、勿論この事を飲み込んでもらう代わりにちょっとした優遇ぐらいはさせて貰うわよ?ダンジョンで一番見晴らしの良い特等席とまではいかないけれど中々の場所を当てさせて貰うよう私から頼んであげるわ」


「ええ!いいんですかっ?」


「ええ、勿論よ桜ちゃん。つまらない場所で微妙な花見になんてさせないわ・・・妖精たちの気まぐれさに目を瞑れば、この時期のあそこは絶景といっても過言じゃないんだから」


「ぜ、ぜっけい・・・いいふんいき・・・ろまんてぃっく・・・えへへ・・・・・・」


「そいつは期待できそうだなぁ・・・・・・」


「へぇ~妖精かぁ・・・俺は見た事ないけど、東は?」


「んー妖精かぁ・・・生産系の神秘に関わってる奴等が宿ってるって言って見してくれた道具ならあるけど・・・実体化するほどの奴には・・・」


「あ、そういう妖精ならやっぱり俺もそれに近いのは見た事あるけど、ダンジョンの妖精ってのは見た事ないなってさ。ホラ、神秘の量がどーとかで変わるんだろ?よく知らんがさ」


「あら、良く知ってるわね、そうよ。ダンジョンで生まれる妖精はそこのダンジョンで息づく一つの個をもってる訳ではなくて群体なのよ。つまり皆でひとつって事ね」


「へ?群体?」


「へぇ、それは俺も知らんかったな、俺が知ってんのは【原種】って呼ばれる概念の元に近くなるってだけだ」


「・・・そっちの方が知ってる人間は少ないのだけどね・・・まぁそうよ世界の基準値が上昇して以降、それ以前の世界に息づいていた概念は神秘を持ちこの世に顕れた。【原種】っていうのはそれ以前にもしっかりとした概念が残っていた神秘が宿りやすく、顕れやすかったその大本の事をいうのよ」



久し振りにこんな学者みたいな事を話したわね・・・とため息を零しながら言う新崎さんだが俺もしっかりと勉強をしたわけではなくただ冒険者なんていう直に神秘を触れる職業に就いてるのだ、気になって調べもする。


・・・力がない分、知識ぐらいは集めとかないと死ぬ。


っていうか前にダンジョンで一度死にかけたし、それ以降必死にいろんな分野の事を学ぼうとしている過程で知ったのがソレだ。


他にも、神々がこぞって自らの神話を隠した筈の語られぬ神話が記された【神失の大暗黒書ロスト・ブラック・ヒストリー】についてであったり【大神災害】において処罰された神々についてだったりと。


神々については自分の呪いをあわよくば解く手掛かりになるかと思って特によく調べていた、その際に気になった一文が【原種】であっただけだ。



「・・・で、結局どー違うんすか?」


「性格よ、どう違うかは・・・」



その言葉の続きは、おおやっとついたねぇ!という喜色ばんだ声色の市川さんの言葉に今まで話ながら歩いていたまるで洞窟のように木が天然のアーチを組んでいた巨大なフェアリーサークルを抜けた先で。



「・・・自分の目で確かめてみたらどうかしら?」



ダンジョン【妖精の花園】が姿を現した。



冒険者なら、きっとその方が楽しいわよ?との声に、俺が思わず何時ものダンジョンの様子とは違うその様相に圧巻され何も言えずにいると・・・



「いや、自分別に冒険者じゃないんすけど・・・」


「えぇっ?折角カッコいい先輩ムーブまでしたのに?そこつっこむの?」


「・・・・・・貴方、冒険者じゃないの?」



何処か茶化してしまった俺達の物言いに何故か本気で目をパチクリとする彼女は何故か次の瞬間には濃密な気迫を纏い、言葉を吐き出した。




「ッ!ち、がう・・・」


「ふむ・・・」


「なッ!アンタ、何してッ!!」



俺が急に吐き出された【言霊】に驚き庇う様に目の前を遮り崩れ落ちた春樹を支えて何故こんな事をしたのか糾弾の言葉を思わず吐くと。



「あ、副団長!!何処にいたんすか!もう皆準備出来て待ってるんですよ!!って・・・この人達は?」


「ああ・・・ちょっとした野暮用よ。この人達はお客よ、空いてるでしょ?案内よろしくね・・・」


「ちょっ副団「おい!話はまだ終わってねぇぞ!」ってなになに!?お客様なんでしょ!?もめごとぉ!?何故!?」


「ああ・・・ごめんなさいね・・・後で必ず向かうしそこで説明もするから、それじゃ、ね・・・・・・」



ゾクリとする程の無表情でくるりともう用は済んだとでも言いたげに去っていく彼女の姿に二の句が継げないでいると、俺たちの案内を任されたと思われる優男風の恐らくは彼女と同じギルドメンバーと思わしき彼がこう語りかけてきた。



「おまえ、あの人怒らせるって何やったんだよ・・・あんな副団長初めてみた・・・ってかアソコって今・・・いや、いいや。取り敢えず案内すっからついて・・・「おーい東くーん!春樹くーん!こっちすっごいよー!」っまだ誰かいんですかい・・・はぁーあ・・・・・・」



盛大にため息をついた後、おーい!あんたらがウチの副団長が言ってたお客人達ですかーい!と。


いつの間にか俺達から離れていた市川さんと夢咲さんに声をかけにいく彼を尻目にどっと噴き出た汗を拭い、得体の知れないあの瞬間何も写していなかった瞳をおもいだしながら。


徐々に回復してきた春樹に大丈夫か?と声をかけ、なんとか・・・と絞り出すように答えた春樹に肩を貸しながら、今回のダンジョンの花見がキナ臭い事になってきたなと、今更ながらに遅刻した事を大きく後悔しながら、ダンジョンの道のりを歩いた。

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