第14話
「・・・ありがとう、もう大丈夫だ」
「・・・・・・言霊の影響でアイツの神秘がまだ体に残ってる。気を付けて歩け、ゆっくりと深呼吸をして落ち着け」
「・・・ああ、・・・・・・何、だったんだろうか?その、彼女はどうして・・・突然?」
「・・・さぁな。俺にも分からんが、後でくるとわざわざ言霊で言い残したんだ、今はあの先導役の彼に付いて行こう」
そう言って皆原さんと市川さんと合流する為に歩き出す。
今も肩で息をしていて若干ふらついているが軽い眩暈の様な症状だ。
言霊を当てられたのがアイツだけ、か?もしかして俺もうけていたのだろうか?
今まで言霊なんて術を掛けられたことが無かった為分からないが・・・
いや、それよりもあの質問は何だ?
まるで春樹が冒険者になっていなければならなかった様な口ぶりだった。
その後の顔は当てが外れたような顔をしていたようにも思える。
・・・・・・・・・未来でも分かるのか?
いや、未来が分かるのなんてそれこそ神並みの神秘がないとまともに使用も出来ない筈。
推測?推理?勘?超能力?・・・予言?
何かで知った?いや識った?いいや、いずれにしろそうである、と何かに則った知識や法則の上で動いたとして結果は変わらない。
つまりは過程に意味はない、今この場で重要なものは予知や予言という神並みの力を持った力の正体を探る事ではなく、その力を持っていたとして俺たちに関わる事・・・つまりそれは。
「・・・君!東君!!」
「うおっ!?吃驚した・・・何?」
「何?じゃないよ!折角こんな景色の良い所に来てるのにずーっと下を向いて考え事してるし・・・春樹君は具合悪そうにしてるし・・・」
「・・・」
「・・・何かあったの?大丈夫?」
突然声を掛けられそのまま疑問を市川さんへと向けると、何とも彼女らしい返答が返ってきた。
どうやら楽しめていないのではないかと思ったのだろう、その顔は不安げだ。
春樹は俺たちの前を歩いている先導役の彼を警戒している。
皆原さんは自分たちがいない間に何かあったのではないかと見抜いたのか心配した様子で俺と春樹に声をかけていた。
俺はチラリ、と目線を春樹と同じ方向へ向けた後に。
「ああ・・・大したことはないんだ・・・ホラ、神秘の濃い場所に冒険者じゃない人が来ると酔うことが偶にあるだろ?春樹が具合悪いのはそれさ、俺は・・・すまんな、ちょっと寝不足で上の空だった」
「あ、それ知ってる!春樹君大丈夫?飴もってるよ私!いる?」
「・・・ああ!そうだな、少し酔ってたみたいだな、もう慣れると思う。貰うよ、ありがとう・・・お、イチゴ味か」
「にゅっへへー、あ!東君寝不足って遅刻の原因ってもしかしてお花見が楽しみで寝れなかったんでしょー!テスト明けでうれしいのは分かっちゃうけどちゃーんと寝ないとダメなんですからね!」
「・・・ああ」
そういうと市川さんは春樹に見てると気分がよくなる自分的絶景スポットなるものを見つけに何故か先導役を振り切って先に進んでいく。
それを見てちょ、あんた道知ってるんっすか!?と慌てて追いかける先導役の人と苦笑しながら逸れない様に付いて行く春樹。
そして並ぶようにして後を付いて行く俺と皆原さんだが彼女がボソリと俺の耳元で
「・・・後でちゃんと詳しい話を聞かせてもらうわよ?」
そういう彼女の声に、思わず俺も苦笑しながら了承してこの色とりどりの木々や花々が咲き乱れる妖精の花園で行われる花見がどうか良いもので終わる事を願って・・・
・・・となるとそもそもこの花見自体が仕組まれたものである可能性が出てくるか。
そう結論付けて今まで続けていた思考を打ち切り折角の絶景を堪能することにした。
「・・・何故?また啓示された事象と異なる現実が起こっているの?」
真っ白な着物に身を包み、身を清められまるでともすれば白無垢ともとれる程の恰好に、しかし聖水で身を一切の誇張なく包み込むようにした状態で瞑想を行い己の信奉する神へと思い馳せると浮かぶのは泡の中に映る別の世界の異なる現実。
或いは過去であったり未来でもあるそれらはあり得たかもしれない可能性そのものである。
今のこのレベルアップ後の世界には神々が紡ぎ合わせた大結界が張られている影響で現実改変能力や未来や過去への干渉といったり度が過ぎる次元や軸といった危険な概念への神秘の対策がされている。
未来を知る、という事も当然ながら干渉に当たる為本来であればそれは朝のニュースや自称占い師程度の呪いレベルの格にならざるを得ないか、もしくは神罰が下される――筈であった。
彼女の信ずる神はそんな枠を乗り越える事の出来る程の権能を有した怪物的存在で、だがその力をもってしても過去の神々や英雄、聖人の創り上げた間違いなく過去最高奉の大結界を誤魔化すにしても無理があったのか、彼女程の英雄が信仰と儀式を行いそれでもってあり得た可能性を泡の如く浮かんでくるものから掬い上げる程度が限界であった。
彼女――新崎霊歌は泡を慎重に亀井戸に移し、弾けて消えるその中から自らが望むものを覗く。
そして今度こそ確信を持って彼女は言い切った。
「――未来に干渉したものがいる」
原則、泡に映りこんだソレが変わることはない。
だが泡は移ろうものでもある、形だってほんの些細な事で変わってしまうが――それでも歪に奔った黒い線のような何かが泡を時折破裂させたり形を変えたりしている光景を何度も目にし、神に訴え、調査の任を負い。
調べ上げた所、件の線が最も執着するものがあのパーティーだった。
ついこの前まで見えていた光景は彼ら彼女らの仲睦まじい冒険譚や何でもない日常だったりで、そしてどの世界でもあの四人は一緒で、そしてどの世界でも線が纏わりついていた。
この現実の世界も例に漏れず四人は冒険者で大学生でパーティーで、ギルドを結成して・・・そこまで考えていて、霊歌は頭を振り払う様に亀井戸から視線を切り、全身に纏っていた聖水の操作を解除した。
そして濡れるのも厭わず彼女はその場に倒れこむと、自らのこの世界の認識と先ほどまで見ていた光景との認識がずれて、夢を見るかのようにぼうっとしていた自分の頬を張ると、深いため息を吐いた。
最近は漸く未来に干渉する何者かの調査でずっとこうしてズレによる代償とでも呼べる悩みに襲われている所為で、心が休まらなかった。
常にifを考えてしまう為か上の空になる事が多かったからギルドのメンバーには迷惑をかけているし、あまりこういう力を使うことも神はあまり進めなかったのもあったのだが・・・彼らの運命が、月日を追う毎に線が歪みを増す毎に疎遠に、悪質に歪められてしまっているのを感じざるを得ず、そして今回は実際に会ってみて、特に冒険者になっていない彼すらいてしまう現実になってしまっている。
そして一方で歪められているというのは東颯だろうな、と彼女は思う。
それは思わず口をついてでてしまう。
泡のように、小さな小さな言の葉が紡がれる。
「彼は神を奪われたのね――」
別の世界を知る彼女は、そう呟くと身を翻し、言霊の約束を果たしに花見の会場へと向かう。
「あれ?そういえば・・・
悪戯好きな妖精の女王が、自らの住処に良くないもの持ち込まれたと直感で悟り不機嫌になり東が襤褸雑巾の様に投げ捨てられるまで――そのほんの少し前の出来事だった。
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