第1話
「っと、感傷に浸ってる場合じゃねぇな、そろそろ撤退すっか。」
洞窟のダンジョンで帰還する場合の心構えとして、一番やっちゃあいけない事は途中で良いものを、例えば宝箱とか、良い装備が落ちているからといって、拾いに向かっていったりすることだ。
ちょっと良さそうなものがある、一攫千金に値する様な宝箱、そのどれもは、ソロで活動する冒険者にとって、帰還中には手を出してはいけない事だと、俺はそう思っている。
まぁ俺の呪いの関係上、宝箱なんてのは、良いものが手に入ることはあまりないし、注意を逸らす事は、そのまま事故に繋がる事だ。
過信してはいけない、優秀じゃない、自分は弱く、惨めで、屑である。
それを心構えにして、臆病に、警戒しておく事。
気付いたら敵に囲まれている事なんて一度だけで十分だ、ここにはモンスターも少ないからと思っていたら洞窟のそこかしこから吸血蝙蝠——プレヴァント共が襲ってきたことがある。
あいつら大きい個体で人と同じぐらいの大きさなんだぜ?普通に死ねるって。
普通の蝙蝠ならともかく神秘を取り込み一種の異世界と化しているダンジョンでは普通ではないため脅威だ。
進化していると言っていい、コウモリで例えるとしたら牙はより鋭く、耳はより良く、脅威に警戒し、皮は柔らかくそれでいてより頑強に。
また、今でこそ俺みたいなレベルアップ後に生まれた奴にとってはよく分からないけれど、昔はゴブリンとかリープトルップみたいなモンスターの中でもレベルアップ前の世界にはいなかったらしいとネットで見かけたから進化というとちょっと違うかもしれないけど。
まぁ、俺にとってそこらの細かい理屈よりも一括してダンジョン、モンスター、危険、という認識だし、大抵の奴はそうだろうと思う。
そうして警戒しながら歩く事、地図を見ながら進んでいたが、途中で道が行き止まりに成りかけている事に気付く、来るときに通った道が後数分時間が経つと、通れなく慣れそうに、塞がれ様とされていた。
「ああ、まーたダンジョンが動きやがった。」
そう、不可思議だが、ダンジョンは生きている。
そもそも、ダンジョンとは、そういうものらしいのだ、溜まった力の吹き出し口の様な物。
難しい話だが、確か霊脈とか、大地の力の結晶だとか、魔素とか、世界の食べ残しだとか、良く分からん力の集まりが意志をもって生まれるものがダンジョンだとか。
そういう神秘が集まっているものだから、世の怪物が現れやすい、怪物も、ダンジョンの中で生まれたものだから、ダンジョンそのものが怪物達を逃がそうとはしないし、怪物も居心地がいいのかなんなのか、ダンジョンから離れない。
生きているから、動く。
そして大抵のダンジョンは異世界みたいに空間がこことは別の場所に繋がっている事が多い。
ダンジョンを管理している施設に行って入場料払って、扉を開けたら一面草原、なんてのも普通にあり得る。
ダンジョンって何なんだろう?
・・・単純な話で、深く考えると神様とかもっと怖い奴等も関わってくるから、俺にとってダンジョンは偶に動く、そういう認識、動いた事を報告すると、管理人さんから報奨金が貰えたりするから、俺的にはラッキー、動くのはダンジョンでも月一ぐらいの頻度だしね。
管理人に動いた後の地図をセットにして渡すと金に色を付けてくれるが、今回はまた前みたいにうっかり閉じ込められたくないし、帰りだ。
後出来るか分からんが掘って進む、みたいなダンジョンを怒らせる様な真似はしたくない。
残念だが、少し急いで帰る必要がある・・・・・・・・・っと。
「お、光が見えて来たな。」
道中付けていたお手製の『暗視が出来る様になるさゴーグル(弱)』を外し、手で視界に差し込む光を遮りながら徐々に目を慣らしながら出口へと近づく。
このダンジョンは洞窟系の地下捜索ダンジョンなので基本、出口、というか入り口でもあるんだが、まぁ、出入り口だけは広いから、光が差し込むのを分かる程となると、ダンジョンもここまでは動かないので、安全圏となる。
管理人付きのダンジョンは、神様からの魔物避けの結界の維持をしているらしいから、その力も、ダンジョン深部に行くほど弱くなるが、浅部だと、余り、というか小さいダンジョンだとほぼいない。
ここは小さいダンジョンだから、魔物も余りいないので、尚安全、という訳だ。
「っつあぁぁぁぁぁぁ!!終わったァァァ!!」
思いっきり背伸びして体を動かす、荷物を横に下し、ダンジョンで凝った精神と体を解す。
「おいおい、いくら何でもだらけ過ぎだろ。」
「あ、おやっさん!早いっすねぇ~いつもは呼んでから、たっぷり10分はかかるのに。」
「いやいや、そんなには普段はかかって、な、ふぁぁぁぁぁい、よ?」
「おう、今しがた起きてきたばっかっつーばかりの欠伸と涎がついてんぞ…」
絶対このおっさん、今しがた起きて、何となく仕事しようとしてここきただけだろ・・・てか、勤務時間中に寝てんのが可笑しいんだがな・・・・・・・・・
「まぁいっけどよ、ホレ、いつもん」
「おうおう」
言いながら、おやっさんがまた欠伸をしながら俺に手を向ける。
すると少し手が緑色に光るがそれもすぐに終わる。
「おう、終わったぞ、じゃ、またのご利用をお待ちしておりまーす。
「うーす」
適当な営業文句。
一応あんなんでもダンジョン管理人なそうで、最後の手を向けるあの作業も、呪術的な法術みたいなもんを使っているらしく、ダンジョンの外にダンジョンで引っ付いてくるようなもんがないか確認するためで、何でも、この作業をやらないで出ると、最悪結界にダメージが行って、おやっさん曰く「超めんどくさい」事になるらしい。
結界の維持やらなんやらにしても、才能がないと出来ないらしく、ダンジョンに潜る奴は結構いるのでボロイ商売らしいのだとか。
「今日も疲れたなー、家帰って何食おうかなー、って、あーどうしよ、銭湯が先かなー」
学校の更衣室のシャワーあいてっかなーなんて呟きながら大学の近くのボロアパートに帰宅する。
『
小宮アパート105号室、そこに俺は住んでいる。
大学に通いながらこのアパートに一人暮らし、両親は【大神災害】の影響後の神秘の事故で死んだ、らしい、物心ついた時、俺は今の東家に引き取られていて、小さい頃の事は、余り覚えていない。
【大神災害】とは、神の中でも穏健派と呼ばれる世界を人の子に委ねそのまま見守る派と任せてはおけない、自分達が管理し導くという派で争った戦争の事だ。
如何にもな人間に優しい綺麗事を宣ってはいるが戦争に巻き込まれた側としてはそんな事は関係ない。
俺の両親についちゃ全く覚えていないが俺は俺にくっついている呪いも神によって付けられたモノ、挙句に生まれ育ちも神が関わっている。
なんていうかため息がでる。
だからと言って神様をどうこうとは思わない、良い神もいれば悪い神もいるし、巻き込まれたという事は巻き込むつもりはなかったとも言い換えられるからだ。
ただ明確に俺を呪った神だけは生涯恨んでも許されると思う。
というかこの呪い解きたいんだけど、神様からの呪いって解呪基本出来ないんだよなぁ・・・それこそ同じ位の神様に解呪して貰わないと。
ボロアパートで暮らしていると、実家が懐かしく思うが、やっぱり引き取られた、という負い目が俺に会った所為か何処か馴染めなかった。
妹は俺を慕ってくれたが、実の子、というので接し方に困ったのをよく覚えている。
両親は俺を愛してはくれたが俺はどこか一歩引いてしまっていた。
それでいい機会だからと、大学に入るにあたって、自立した生活を!と、これ以上迷惑をかけられないからと言い家を半ば飛び出る様に出て来てしまった・・・これ以上金銭的迷惑もかけられないので、大学の学費も自分で稼ごうと、こうして普通にバイトするよりも金の良いダンジョンに潜っている。
【世界基準値上昇】による混乱は、全世界で巻き起こった、唐突に起こりうるようになった超常的な現象、目の前にあった大地が一瞬で掻き消えた、または突然現れた、人が消えた、現れた、インターネットが一時期使えなくなったり訳の分からない現象が起きたり、神と名乗る存在が現れたり、伝説と呼ばれる存在が現れたり、討伐されてたり、オカルトの存在や、魔法。
神々が争いを始めた、人も争いを始めた、一人の聖人が神々と協定を結んだ。
争い、調停され、取り敢えず穏やかに今の世界でも暮らせるよう神様も協力してくれるみたいだし、取り敢えず人が頑張れる世界になった。
勿論の事、それだけの事ではない、争いの爪痕が残る所もある、未だに争いを引きづっている所もある。
だけれど、俺はあまり多くを知らない、知っている事といえば、日本でも、色々な技術や資源が出て来た、損をするところが現れ、得をする所が現れたという当たり前の事だったり、精々が昔の歴史書や御伽噺みたいな古い神話ぐらいだ。
まぁ、神話に限って言えば神様がこぞって神話を語られない様に隠してしまったりしたから、さらっと残っていたぐらいの話や家にあった古い本ぐらいからだ。
・・・いろんな人が日々の生活を変える事態になった、町中にできたダンジョン、山にできたダンジョン、八百万の神様達。
信仰やら神力やら霊的な結界やら、なにやら難し気な力を皇家の血筋を使い、国全体に防護壁なるものをはったり、神様に住まう場所をねだられ、国として承諾した結果、神が気に入った人間を使徒に変えるという暴挙を犯したり、真っ先に自己の防衛を行い、自分の事で手一杯の体でいた日本が、空いてるなら手伝えとばかりにこき使われている事。
法律、という神様にとって、ここまではおっけーでここまではだめーというルールを教えた結果、今どこも忙しいだろうから私達が子供達まもったげるよー、と。各々で各都道府県の担当の神を決めたり、町担当とか、あそこの村からあそこの村担当、とか、非常に適当な神々の統治により、人々はこの現代を暮らしている。
今は漸く安定する様になったが、世界はどう動くかわからないものだ。
少なくとも俺が生きているうちはこのまま平和でいて欲しいもんだ。
バックの中身を整理し、持ち物の点検をしながら、そう思った。
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