世界がレベルアップしたようです
東線おーぶん
プロローグ
世の中に神様がいるなら、俺をこんな運命にした神様を恨んでやる————
————駄目だ、実際にいる。
昔ならいざ知らず、いまとなっちゃあ、そんな事言ったら神様に恨まれる。
というか、泣きながら「私、確かに運命とか司ってますけど!貴方達が憎いとか!したくてしてるわけじゃありませんし!運命の所為にする人って大抵自業自得ですし!元々不幸な定めの人とかなるべく幸せにしてあげますからそう思うなら信仰して下さいよおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」って言ってた記憶がある。
神様といえば、やはりというか神聖な、というか見た目美人の厳かな雰囲気の神がテレビで泣き崩れて泣いてたのを見ると、簡単に神様を恨むもんでもないと思うようになった。
そのテレビも終いには「私だって確かに運命の神としての側面もありますけど、それこそ●●●●●さんとかーー」と他宗教の話までし始めた時には触らぬ神に祟りなしとテレビを消したのを我ながら英断だったと自画自賛する。
だってその後、やっぱりというべきかなんというべきか、テレビ越しでも呪い——まではいかないものの憂鬱になるようなオーラというかまさしく怪電波が飛ばされたりそれを知って焦った巫女さんが緊急でお清めの儀式を初めてテレビ関係者に涙目になりながら「テレビを止めないでくださーいぃ!!今止められると祓えないんですぅーーーーー!!」と舞いを捧げるという————。
・・・ちょっと気分悪くなるぐらいならそのまま見ておけば良かったな。
・・・まぁ、それはともかくだ。
神秘が蔓延る様になったこのレベルアップした世界でダンジョンに入っている俺は、神様に当たり散らしたくもなるんだ。
ある日、世界に予兆が現れた。
だが世界にその予兆は感じ取る事は出来なかった。
世界は今や未知なる土地は存在しないと言えるだろう、冒険はないだろう、ただ生きる事のみに専念しなければならない時代ではなくなり、世界に余裕がもたらされ、人は、遂に神の領域に足を踏み出しつつあった。
だがそれは、人間の分かる範囲での話だった。
世界は知り尽くされた?人は未だ、人の身では知らぬことの方が多かった。
未開の地はない?人は地平の事しか知らない、海の底さえ知らない人間はまるで小川を見て大海を知ったと嘯く阿呆のようだ。
だからだろう、人は予兆を感じ取る事は出来なかった。
ある日何処かで人の体の全ての病魔を払う薬草が咲いたとして、それをどうして人が知り得るだろう?
ある日海の底、人間が足を踏み入れた事のない程の深海で、魚が火を吐いた事を。
ある日何処かで小さな虫が、小さく言霊を操った事を。
ある日何処かであの世がこの世に近づいた事を。
ある日神様がいた証が世界に根付き、蔓延った事を。
ある日唐突に神が欠伸をする程の間、時が止まった事を。
ある日超常の神秘が世界に現れても良い、とされたその瞬間を。
人間は、神ではないのだから、全てを知り得ない、故に、人は、生と死、不定と決定からは逃れる事は出来ない。
故、この世界に不可思議が蔓延しきったその頃に—————。
人が神秘というソレに、理解不能のことがらに、生まれながらにそういうもので終わるものに、気付いたのは、どうしようもなく、愚鈍な程にもう自分達の身に———————神秘が降りかかってからだったのだが。
世界は『前』とは隔絶した。
物語で紡がれるような出来事が目の前で行われる様になり、世界は目に見える程に変容した。
ソレを破壊と呼ぶか、混乱と呼ぶか、変化と呼ぶか、回帰と呼ぶか、希望と呼ぶか、奇跡と呼ぶか、ともかく、『前』と『後』だ。
この決定的な人の世に行われた変容を、ある神がこう語った——。
「これは所用、アレですよー!私達がもう戻ってきても良いよって証なんですよー!いやぁ、何処のどなたーでは、ないかもですしー、え?現象?それって、要するに私達神様ですしー。」
「え?何も分からないじゃないかって?いやいや!違いますよ!元々そうなんだってなっただけですって!!え?何故?いや、そういうものだ、としか・・・え、当てにならないってどういうことd・・・ちょっ!?心を読むなって、神に向かってそりゃあなたむr、あああああ!待って!!帰らないで!信仰!!顕れたばかりで信仰欲しいのぉぉぉぉ!!」
「・・・ちゃんと撮れてます?おーけー。よし、わん、つー、コホン、ええ、そうですね、貴方達にしてみれば、この世にあってはならないものが紛れ込んだ、という認識が近いようですが、コレは言うなれば、当り前に起こるべくして起こった出来事な訳です。」
「水を亀井戸から掬って飲めば無くなる様に、歩けば進む様に、貴方達がいる世界はただ当り前の事をしただけ、ええ、だから、この一連の出来事、『前』と『後』が変容した事に敢えて名称をつけるとすれば、世界基準値の変更ですね、元となるものが大幅に違ったものに変わったのですから。」
「基準値とは何か?アハハ、まぁ感覚みたいなものですよ、あなた方の言う神秘を世界が扱える様になれるか、なれない世界か。」
「今風だとこれが一番分かりやすいんじゃないですか?
——こうして、世界ははた迷惑であることに——レベルが、あがった。
「そういうものだから仕方ないっていったって——」
周りに人はいない、俺的人気のないダンジョン堂々のワースト5の中に入る薄暗いダンジョンの中、洞窟状のこの地帯の中、岩肌にピッタリと身を寄せ、誰かが取り逃がしているのではないかという様なダンジョン内鉱石をチマチマと小型のハンマーや刳り抜き棒、工具を装備し採掘しているソロの俺。
こんな大学生活を送るこの俺は。
「チクショー!恨むぞ世界!勝手にレベルアップなんかしやがって!」
カサカサ、カサ・・・・・・・・・
「うっ・・・」
そっと息を潜めながら移動して、洞窟の奥にいると思わしきモンスターを避けていく。
ダンジョンの中とは言え、俺は別にモンスターと積極的に戦ったりはしない。
勿論自営として最低限恰好がつくようにショートソードぐらいなら持っているが、専ら使った事はない。
逃げるにしても、アイテムで相手を巻いたりその場に釘付けにしたりする様な護符アミュレットを使う。
ショートソードを持ってる意味?そんなの壁を登ってる最中に壁に突き立てたり、鉱石を採掘する最中に壁に張り付いてる様なものがいないか、軽く当ててみたり、アイテムの開封するのに、壁に突き立てた命綱をモンスターが来たりした時に体に巻き付かない様に切り払ったり、まぁ、刃物がついた杖替わり?
もしかしたら、もっといい方法があるのかもしれんが、事情がある為、ソロで洞窟に潜っている俺には、同業との奴等とほぼ接点が無いため、ほぼ自己流である。
ショートソードの先端は、壁に突き立てたりするのに便利なように、まっすぐではなく歪んでいる、これも、荒い使い方をしてすぐに駄目になるが、ダンジョン屋の新人用のガラクタ置き場から数内の熟練度上げ用と書かれた安売り用だ。
モンスター退治にはとてもじゃないが使えないが、それ以外の方法、それ以外に使うなら大丈夫かと思ってこれを使う事にしている。それと、冒険者っていうからには、剣ぐらい持っていたかったんだ!!
鞘、というよりはバール等が入っている工具袋の中に突っ込んで、ダンジョン探索中にはすぐに抜く、なんて自体に陥る事はほぼないようにしている為、モンスターを倒して、解体、なんておおよそ真っ当な冒険者の様な恰好はしていない。
安全ヘルメットを被り、灰色の泥や土塗れの作業服、安全靴(ダンジョン用)は見れば、炭鉱夫の様だろう、まぁ、やっている事は間違ってはいないが。
暫く、そうして壁に耳を当てたり、鉱石をピッケルを使ったり、壁に手巻きドリルで掘っていたり、そうして鼻に付いた様な匂い、果実の様な匂いが薄くなっていく、洞窟に土の匂いが戻って来た、と感じる。
「魔物避けのお香が切れてきたか…いつもはもうちょい、続くのに、やっぱ、消費期限ギリギリで安くなってたからって、ケチるより、何時ものにしとけば良かったかなぁ、良いメーカーのだったのに…」
最後に手で掴んでいた鉱石をやや強引ではあるが、削る様にして取りきる。
多少品質は下がるが、後で家に戻り、研磨してから、ある程度処理すればそうかまうまい、とそうした瞬間。
手のひらから零れ落ちる感覚が全身に走った。
それは俺の呪いの加護が発動する感覚。
体にむず痒さが渡り、くしゃみをする瞬間の様な硬直、何度経験しても慣れないソレ。
「あーあ…」
今この瞬間、俺はこの鉱石と縁が無くなった。
雑に、その辺に放り投げる。
地面にぶつかろうと落下していく、その最中にどうせ砕けて消えていくのだろう。
見なくても分かることだ。
俺のこの呪いが発動する所為で、ダンジョンでのアイテムの何割かはこうして消えてしまう。
いつものことながら憎々しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます