Code:XXⅢ エフェメラル・イノセントデイズ

 場所は変わり、ウロボロス演習施設地下。秘匿された情報の中でも更に極秘情報とされるその場所に、赤メッシュが目立つ鴇色髪と白髪を持つ男女、蓬と艾が音も無く一室で椅子に腰かけていた。

 窓も時計も無いそこで、チッ――――ジッ――――と何かが弾けるような音が鳴る。それは、アンドロイドである蓬と艾が限定電子通信を機器を通さずに会話や電子通信を交わす時、何かしらの機能を励起させた時などに発される、電子回路活性音。それ以外の音が全くと言っていい程響かない部屋の外にある廊下から、微かに軍用ブーツが床を叩く音が聞こえ、瞳を閉じていた艾がその瞼を上げた。

「――――来たか」

 来た、と言う言葉が誰を指すのか、蓬はとうに知っていた。この場に集まる人間がどういった理由の元に現れるのか。素性は、個性は、背景は、そういった情報の全てが艾を介して全て共有されている。この場で教官として訪れた彼女にとってそれらを知るのは当然の権利であり、故にこれから始まる彼ら彼女らへの『選別訓練』で成すべき自身の役割を、ゆるりと反芻しながら眼を開いた。

「例の泡沫配属規定能力を満たした新人達ね。訓練所からそのままここへの配属試験を受ける資格を得られたという事は、相当に優秀なのね」

「正確にはその言葉は正しくない。敢えて言うならば……ただの雑兵として通常部隊に配属するには些か惜しい特異性を保持した新兵だ。それにあくまで今回は適性試験、特異性を保持していようと試験をパスしなければ記憶処理をして通常部隊へ配属させる」

「貴方の予測では何人がパスするのかしら? 艾」

「試験者十三人に対して、限りなく運が良ければ四人が限界だ」

「あら、それは――――」

 例年ゼロがデフォルトなここで奇跡の様だ、と言い終わるより早く扉が開く。蓬と艾が向けた視線の先には、扉からぞろぞろと入室してくる年若い少年少女達。年齢も性別も雑多なそれらが、列を成し姿勢を正すと止まる。

「――――最早ここに来た人間に基礎的な説明をするつもりはない。此度行うのはその認識と事実の乖離がどれほどなのか、そして穢れる事を受け入れられるかを試す。最悪今年の新規配属者は無い場合もあることを覚えておくように。情けや今後の展望だけでここに残れる事は無いが、見事パスを果たせばお前達とその家族には多くの支援と保証が約束される。ただし、二度と陽の下を歩く事はできなくなるが、それは承知しているだろう」

 整列し、艾へと真剣な顔を向ける新人達を前に、淡々と語る様を蓬は沈黙のまま眺める。低く温度の無い上官の声、内容は一切の温さも残さず、全てを見透かしているかの様な言葉に、新人達の顔はますます強張った。顔に出さないよう必死なのだろうが、微かな表情や視線の変化は嘘を吐く事が無い。しかし、一人一人表情を眺めていると幾人かが気にとまった。強張りが無いとは言わない。だが、その表情はそれでも消えぬ何かを持っていると感じさせる意思を反映したかのようなものだった。

「ノナリア、アルテミシア。各員に必要道具を渡せ」

「えぇ」

「わかりました」

 小さく艾が手を叩く。その音と共に、何時から居たのか女性が二人、新人達の背後から歩み現れた。目を伏せ長い長い銀髪を軽やかに揺らすノナリアと、黒髪に翡翠のグラデーションが入れられた一つ結いを持つアルテミシア。その二人が端から順に少年少女へと何かを渡していく。

「――――?」

 各々がそれを凝視する。手に持たされたものは決して理解の及ばない難解な物体という訳ではないのに、どうしてかそれを持たされた理由を明確に理解することができなかった。

 手渡されたのは、何の変哲もない拳銃と手のひらに収まる大きさの鍵。鋼鉄の死を現す銃と、恐らくどこかの扉を開けるための、今の時代にはやや古めかしい鍵がその手にはあった。しかし、新人として、更にはどのような情報漏洩も許さず実態も決して知られる事の無い極秘部隊の試験へと赴いた少年少女らに、この物品を渡した意図を図るのは到底難しかった。疑問の表情を浮かべる彼ら彼女らに、艾は淡々と説明を始める。

「今より特殊強襲殲滅部隊『泡沫うたかた』の入隊最終試験を始める。試験内容は至極簡単だ。これから移動する場所にある部屋に一人一室入り、中に示された任務をこなし、その成功の確認と引き換えに渡される鍵を使って先の部屋へと退出する。それだけだ。詳しい説明はアルテミシアに頼む」

「はい。改めて、私の名はアルテミシア。我々泡沫における電子・情報戦と連絡係を担当する者の一人です。早速今回の試験内容の説明をします」

 そう言い、アルテミシアは右手を軽く振る。それに呼応する様に、新人の少年少女達の眼にはホログラムの様に文字や図が浮かび上がってきた。表示媒体の一切を用いていないその表示方法に混乱する彼ら彼女らに、横でそれを見ていたノナリアは微笑みながら語りかけた。

「ここに来る前に光彩認証を受けなかったかしら? その時に貴方達の網膜には泡沫内でのみ使用される専用回線表示及び送・受信チップが埋め込まれていたのよ。私達の情報は如何なる場合にも外部から確認できるものを残すことを許さない。眼球を移植され奪われた場合も生態信号の違いで使用不可になるから、万が一の漏洩も無いようになってるわ。まあ、この試験で落ちたり後々除隊になった時は記憶処理と共にそのチップは除去されるから安心していいわ」

「はい、彼女の言う通りですので安心してください。今から表示する情報含めて今後表示するものは全て脳の記憶領域を利用して保存されるため、全てを覚えようとせず可能な限りに留めてください。無論、それにかまけて覚えることを放棄すれば死に直結する事もあるのを努々お忘れなきよう」

 にこやかにそういうノナリアとアルテミシアに、新人達は一層緊張による強張った表情の色を強める。勿論そんなことに一々反応し構う様な事は誰もせず、アルテミシアは説明を続ける。

「さて話が逸れてしまいましたが、説明を続けましょう。とは言ってもやることは非常にシンプル。先ほど艾さんが仰った通り、行うことは各人一部屋ずつ入室し、全員共通するとある行動を行ってもらい、その実行が確認されて渡される鍵を使い奥へと退出すれば第一段階をクリア。出来なければいくつかの処理を行った上で通常部隊へ再配属されます。その後進んだ部屋にて、艾さんによる室内での行動内容などを査定され、基準を満たしたとみなされれば正式合格。泡沫へと配属されます。以上が試験内容ですが、質問はありますか?」

 矢継ぎ早に述べられる言葉と網膜に映し出される映像に溺れる感覚。不快感がある声でも、視覚にダメージを与える様な映像構成でもない。一聴すれば透き通る様な可憐な声と、いっそわかりやすすぎるスライド。それでも少年少女達はただただ必死に最低限の情報を記憶するだけが限度だった。

 声に温度が無い。生が無い。透き通る様な水が如き声に、冷たいという感覚すらない。機械音声の様に歪さを感じる訳ではないのに、それに言語化し難い不可解な歪みを覚える。まだ年端もいかぬ少年少女の新人達のそれらを一緒くたにした表情を、アルテミシアは依然変わりない笑顔で、ノナリアは我関せずな微笑みで、艾は何の感慨も無い無表情で、蓬は何時ものかと薄い呆れた顔で。四者四様に新人達を見る。そして、しばらく続いた沈黙を艾が破った。

「説明は理解したとする。では今から試験場へ移動するが、一応今居る試験補佐をしている者を簡単に名前だけ伝える。白い髪がノナリア、コードネームは叛乱者リベリオン。黒い髪がアルテミシア、コードネームは備忘録リマインダー。両者とも俺の専属補佐官でありお前達が属する可能性のある泡沫における情報戦や連絡管理などを担っている。そしてそこの鴇色の髪が蓬、コードネームは殲滅者アナイアレーター。正式なウロボロス職員ではないが、ウロボロスからの依頼を主に請け負うフリーの傭兵部隊の隊長だ。名前と顔を一致させられるよう記憶しておくのが望ましいな。では試験場へ行く」

 若干放心していた新人達を他所に淡々と説明を終えた艾は、横をするりと過ぎたと思うとエアロックのドアを開け、ノナリアとアルテミシアを一瞥すると廊下の先へと消えていった。それを合図に、ノナリアとアルテミシアは新人達を身振りで誘導し、艾が向かった試験場へ案内を始めた。

 それを終始沈黙のまま見ていた蓬は、誰もが部屋から居なくなったのを認めると、背凭れにしていた壁から身を起こし小さく息を吐いた。その表情は、彼女にしては似つかわしくない憐憫の感情が微かに微睡んでいた。

「絶望して、悲嘆して、行き場のない怒りと理不尽さへの無駄な抵抗……毎回の事ながら、やっぱり人はどうしようもなく愚鈍ね」

 小さく呟いた言葉は誰に聞かれるでもなく空間に溶け、他に倣い蓬は試験場へを向かった。








 ウロボロス演習場地下秘匿施設。地中深くに作られ限られた職員にしか知られていないそこで、私達は拳銃と鍵を手に集められていた。右を見ても左を見ても、殆どが訓練所から一緒に訓練をしていた仲間だけ。幾人か見慣れない顔があるのは、きっと外部からスカウトされた人だろう。各々が、渡された銃の動作を細かく確認したり、試験前の束の間の談話に和んでいた。

 そんな私――――円珠えんじゅは渡された拳銃をぼんやりと眺めながら、先程自分達に説明をしていた男の事を思い出していた。

 はっきり言って、ああいう人間は苦手――――というより嫌いだ。何の感情もない機械みたいな顔と視線でこちらを見て、綻びの一切ない気持ち悪さと全てを悟った様な平淡な声色。上官にあたる存在とは言え、人間があそこまで異物感を隠しも誤魔化しもせず居られる事に私は嫌悪の感情を浮かべるしかなかった。

 きっとこの試験も、ろくでもない。一緒に訓練所で血反吐を吐いてでも努力して、ここでも肩を並べる幼馴染達が居なければ、こんな部隊の試験を辞退していた。

 どれほど待遇が良くても、どれほど実力が認められようと、社会において全ての情報が抹消されて存在しない事になるなんて、この軍事会社は冷酷だ。

「怖いよ、顔」

 不意に、頭上から声がした。下へ向けていた顔を持ち上げると、件の幼馴染達が心配そうにこちらを見ていた。

「試験内容が不安なのか? 安心しろって! 俺達なら絶対合格する!!」

「楽観的なのはいいけど、今はその声の煩さは鬱陶しい環凪かんな

「そ……そうだよなー君。えんちゃんは自分なりの落ち着き方があるんだし……」

「そうは言うけどさぁ月満つきみ、円珠は何時も考えすぎで慎重すぎなんだよ。もうちっと那沙なずなくらいどっしり構えろよ」

「那沙は深く考えないだけよ。いっつも適当だから」

「そう? 結構僕は考えてるつもりだけど」

「今までの実績よ」

 わいのわいのと喧しい幼馴染達。大口を開けて能天気に笑う環凪、おどおどと環凪の服の裾を握る月満。そして初めに私の様子に気が付いた、いつも笑ってる那沙。昔から、ずっと一緒に生き延びるために戦って、どういう伝手か那沙のお陰でウロボロスの訓練所に身を寄せ合って、やっと自分の力で経済的にも生きていけるチャンスを得て今になる。

 不安も不満も尽きないけれど、皆が居たら、きっと。大丈夫。

 気付かれないように、本当に微かに、口を笑みの形にする。そうだ、皆が居るから、大丈夫だ。きっと試験もクリアできるし、あの上官ともビジネスライクであれば何とかなる。だから、あまり考えすぎるのは止めよう。環凪の言うようになるのは癪だけれど。

「……大丈夫。少し考え事してただけだから。もうすぐ試験始まるし、三人も支度して」

「だ、大丈夫……!」

「俺は勿論」

「ん、僕も」

 そう言葉を交わすと、不意に視界の中に何かが映る。未だ慣れない角膜の情報表示に少し驚きながら内容を見ると、各自割り当てられた部屋へ順次入室して試験を始めるようにという連絡だった。

「じゃあ、また後で」

「おう!」

「じゃ、じゃあね」

「うん」

 挨拶を交わし、私は自分に渡された鍵に彫られた部屋の番号が書かれた扉の前に立つ。息を一つ、吸って、吐く。そうして落ち着いた心を確認して、扉を開けた。

「…………ぇ」

 開けた。入った。閉めた。そして視線の先にあったのは、椅子に座り後ろ手に手を縛られ、目隠しをされていた女の子の姿だった。

 混乱する。何故、どうして。この試験にあの女の子は要るのか。無辜の少女を、この組織は捕縛し拘束して、この拳銃で何を――――。

「……行動指示が」

 視界にこれから行う行動指示が表示される。その内容に、私は言葉を失った。

「この子を……殺す?」

 その指示はいたってシンプル。目の前で拘束される人間を、持たされた拳銃で殺す。ただそれだけ。なのに私は、まだ何か指示が追加されるような動きをしているのに、それ以上を読みすぐさま行動に移すことができなかった。したくなかった。何故と問われれば簡単だ。何の罪もない子供を殺したくて、この組織に、この部隊の試験を受けに来たんじゃない。

「ふ――――ふざけないで!! 何故!? なんでこの子を殺さないといけないの! ウロボロスは、ただの子供でも無残に殺す趣味があるの!?」

 叫ぶ。聞いているかどうかが問題ではない。今己の内に湧いた煮え滾る怒りを叫ばずにはいられなかった。こんな理不尽を許してなるものかと。

 これを、あの幼馴染達にもやらせているのか。ならば即刻この部屋を引き返し、あの子達共々辞退する。血管が切れそうなほど煮える感情のまま踵を返し――――。

「――――――――」

「…………」

 立っている。あの男が、白と赤の男が、艾と言った上官が、自分の背後に立っている。音も気配も、全く気付かなかった。人の気配がまるでしない、そんな存在が後ろに立っていた。

「何もせずに、この部屋を出るか?」

 そう問われ、動揺した意識を何とか元に戻す。そして、ありったけの感情を込めた怒りの形相で私は答えた。

「……こんな屑の集団、居る意味がない。高尚な事を宣って、正論に見せかけたハリボテで信じ込ませて、やらせることは無辜の子供を殺す。そんなこと、私は求めてない。私はそんなことをしたくて来たんじゃない!!」

「そうか、では何をしにここへ来た」

「それ、は……このコミュニティの人達を外敵から守るため――――」

「嘘を吐いて終わらせたいならいいが、もう少し動揺を隠す様にしろ。わかりやすい」

「っ……! じゃあ、教えて。人でなし。あの子を殺す意味は? 私が引き金を引く理由は? 納得できるよう教えて見せてよ!」

 叫ぶ。こんな感触の無い会話、何時までも続けたくない。何も知らない相手に、空気を押す様な手応えの無さで話をするなんて苦行でしかない。相手が少しでも理由を言うのに躊躇えば、すぐにでも飛び出そうと構える。

 でも、この男は間髪入れずに答えた。答えてきた。

「善性と悪性、今ここに居る者はそれぞれ何処に属する?」

「……は?」

「お前の思うままでいい、答えてみてくれ」

「……そんなの、決まってる。貴方は悪で、この子は善。私は今、その善を守るために――――」

「公平に見て、か?」

「は?」

「それは完全なる客観的な視点から導き出された結果か? あらゆる要素、あらゆる遠因、あらゆる意図。それらが複雑に絡み合っているのを、主観――――あるいはお前の倫理観、善悪定義と呼ばれるものを排して導き出した答えか?」

「……物事に絶対の客観なんてない。客観なんて突き詰めれば大多数の主観認識における判断でしかない。だから、無辜の人の殺害を理不尽に教唆する貴方は悪」

「では、この少女が末期の決壊水曝露者だとしたら?」

 目の前の男の一言に、私は怯んでしまった。

 決壊水曝露の末期。専門でない私の持つ知識でも知っているし、実際にここまでに至る日々の中で何度も見てきた。その末路は、体内で無限に決壊水を生産して垂れ流し、様々な機能の異常発達を強制され人でなくさせる、害有性ベクターになり果てる。意識は消え、ただ原始的な欲求を満たすために彷徨う汚染源。その最終段階、まだ辛うじて人の姿を保つ末期の曝露者がこの少女だと男は言った。

 揺らぐ。私の中で無辜と定義していた前提が崩れる。

「……それ、は」

「ただの少女であれば、何の過ちも犯していない人間なら、俺は殺そうとは思わない。無辜の人間、このコミュニティの人間を守ることはウロボロスが掲げる一つの理念であり、陰に生きる俺達であってもそれが揺らぐ事は無い」

「……じゃあ、何で今、この子を」

「例え無辜の人々の一人であったとしても、僅かな曝露を許すだけでその存在は大罪人に等しくなる。存在が破滅、あるいは死へ繋がる存在を、この世界の人々は許さない。数秒前に人であったとしても、曝露を許せば降りかかるのはベクターになり果てるか、数多の人間からその身を嬲り焼き捨てられるか。そして曝露した人間は、それを恐れて逃げ隠れる。それはおかしなことではない」

「なら――――」

「だが、秩序の番人である俺達はそれを決して許してはならない。逃せばコミュニティ内部から崩壊する曝露ベクターとなった人間が、指数関数的に増えていく。ではどうする? 俺達はそんな、少し前まで庇護するべきだった曝露者を、老いも若いも性別も経歴も関係なく、どうする?」

 目の前の男が問いかける。

 単純な正義では測れない。自分の中の認識と、社会的な認識のずれ。それを今まで当事者として、それがまかり通る世界に居た人間として、見ていたはずなのに。その処遇を判断する訳でも実際に手を下すわけでもないという身分に居ただけで、虐げられる者達が多く居た世界に居ただけで、根本的な危険性が霞んでぼやけていた。

 じゃあ素直に殺すのか。それは嫌だ。

「……私は、そんな事実を後出しに言われてもすぐに呑み込めない。だって、それでも今ここで縛られている女の子は何の罪もないのに!!」

「罪、か。ならばお前の言うその罪はきっと理不尽で酷く強制的なものだ。なりたいと思っていなくとも、曝露すれば最早そこに良しも悪しも無い。事ここにおいては、お前がすべき思考の選択は、一を許し全を殺すか、全を守り一を屠るか。その二択だ」

「…………」

「そして、間違えるな。人間が理不尽に人を殺める時、許しがたい何かを他人へもたらすとき、望まぬ何かを与える時に、抱くべき感情。それは憐憫だ。殺し屋の様に心と体を切り離し、何の感慨も無く殺すのならばこの部隊に在籍する意味はない。通常部隊に配属されれば嫌でもそうする。だがお前がこの少女に憐憫の情を抱き、向け、それでも他を守るために引き金を引き悲嘆するならば、彼女の体内にある鍵を引き抜いて先へ進むべきだ。罪状を背負う者として、たとえ明日には泡沫となるかもしれない場所であっても」

 そう言って、私が一度瞬きをすると上官であるあの男、艾は少女の傍らに立っていた。

 全身に重苦しい鉛が括りつけられたような感覚がする。手に持った銃が、ものともしない重さのはずのそれが、あまりにも重い。

(重い、苦しい、痛い)

 全く意識することなく、持っていた拳銃を持ち上げ、その銃口を少女に向ける。今まで救うべき存在だと思っていた少女が、私が守りたい物を脅かす根源であると。そう認識した瞬間、私は銃口を向けていた。

 それでも、苦しくて痛くて、震える。自分と変わらない年齢の少女を、望まずしてなり果てた曝露者を、多を守るために、ひいては私やこの会社のエゴのために、殺さなければならない。

 世界は残酷だ。罪のない人間でも、明日には大罪人にもなるかもしれない危険性。放っておけば、それ以上に悲痛な反応を返され、嬲り殺される現実。脳が少女を撃つなと叫んでも、私は私の守りたい大きな存在、もしかしたら小さな小さな範囲のエゴを守りたくて、銃口を向ける。やがて手の震えは止んだ。それが感覚の麻痺でも、心と体の乖離でもなく、悲嘆と憐憫が覚悟に変わったのだと気付くのに、そう時間は要らなかった。

「今ここで選べる選択肢は三つになる」

 上官が言う。

「一つ、少女を撃ち殺し、後の悲劇を排しこの先もその業を背負う」

 言う。

「二つ、銃を捨て、踵を返し、この現実を忘れ去って光の下を歩く」

 私の隊長になる男が言う。

「三つ」

 とても残酷で、冷酷で、無機物の様で、血も涙もない様なのに、なのに、微かに見える言葉の隙間から、合理性を隠れ蓑にした微かな優しさを持つ人が言う。気に食わない。現実を冷徹に告げるのに、その冷徹さは厳しさであっても冷淡さではない。それが気に食わない。信用ならない。人となりもわからない大人の男が、厳しさと甘さをそれぞれ向けてくることは、懐柔をしようとしているのだろうから。

 それでも、今この場所この時間、この男は確かな声で、揺らがない視線を向けてきて、歪みのない言葉で応えてきた。子供だから適当にあしらう訳でもなく、淡々と、真っ直ぐに。

「俺を撃ち殺し、少女を抱え小さな一を救うために多を相手取る」

 引き金に指を添える。そして、力を籠める。

「お前が選び、そして背負うこれからの道を、弾丸で撃ち抜け」

 そして、引いた。









 不思議と、体の震えは消えていた。ぼんやりとした重さも消えていた。劇的に変わったものは無いけれど、私がこれからここで何をするべきなのか、何を見据えるべきなのかが分かった気がした。絶対にここに配属されるかまだ分からないのに、何故か絶対と思えるのが不思議だ。そう思いながら、少女の体に埋め込まれていた鍵を渡されたナイフでできる限り綺麗に取り出した。生暖かい血液は、ほのかに緑が混じっているような色だった。

「――――……一つ、聞いても?」

「応えよう」

「何故、私の部屋に貴方が来たんですか? その行動、試験の体をした恣意的な結果ありきな事を示しているんじゃないですか?」

 そう。他ならない上官が、試験の結果を左右する人間が、試験者に直接コンタクトを取るのは決してフェアではない。むしろ、不正と言われても仕方のない行動だ。だから私は聞く。

「確かに現状そう認識して不都合はない」

 その言葉に、辞退の二文字を口に含んだところで目の前の男は続けた。

「だが、お前は、そしてお前の幼馴染の手を引きここへやってきた者は、泡沫に来るべくしてこのウロボロスのコミュニティに来た。運命や偶然を信じる考えは持ち合わせてはいないが、そのことに関して言えば、お前達は視えざる糸を辿ってきたのだろう。だから、俺はお前達の居場所になり、そして俺達に益をもたらす存在であるお前達を求める。無論、この試験に入隊上限はない。適性ありとわかれば幾人でも迎え入れる。だからお前の懸念する恣意的な結果ありきの試験ではないと言っておこう。あくまで、泡沫へ迎え入れるのはこの試験を真なる意味でクリアした者のみ。今回は特にお前は、この問いを熟考すべきだと考えた俺の独断だ」

 わからない。この男がわからない。無感情で機械の様で人間らしくないと感じたのに、今の言葉では人並みの感情でここに居ると言っているように聞こえる。

 それにこの男、どうにも那沙となにか関りがある様な言葉をさっきから言っている。

「もう一つ」

「質問が多いな、だが聞こう」

「那沙と貴方は、どういう関係?」

 幼馴染が怪しい男とどう関係を作り出したのか、一体何をしたのか。不透明なそれを問い質す。

「アイツは俺に助けを求め、俺はそれに応え機会と、場所と、生存に必要なものを与えた。その見返りを支払うと言い、そしてお前達はついてきた。それだけだ」

 釈然としない答え。でも、これ以上質問を続ければ恐らく答えを返してくれなくなるかもしれないと考え、私は言葉を呑みこんだ。

「では逆に問おう、円珠。お前が此処に来た理由を」

 さっき、私に問うた質問。動揺と不信からつい口に出た言い訳を難無く見破られ、再度問われると思っていなかった私は、一瞬間をおいて答える。

「……みんなを守るため」

「みんな、とは?」

「あの幼馴染達を、守るため」

「……酷くエゴイズムな入隊理由だ。大半の人間は秩序を守るため、人々を守るため、正義のためとまるで企業面接の様なありきたりで曖昧な理由を言う。だが」

 そう言って初めて、私の視線は艾と完全に合致した。その眼は、綺麗で恐ろしい紅だった。

「だが、それでいい。上出来な答えだ。ただの部隊ではないこの泡沫、真なる意味で生き残り成果を上げるのは、極大範囲の功利主義者ユーティリタリアニストか極小範囲の利己主義者エゴイストだけだ。お前は限りなく極小の利を求めてここへ来た。それは危うさもあるが、同時に俺がお前に最大の利をもたらせば絶対の追従をする事にもなる」

「……それは、そうだけど」

「ならば来い、円珠。手の届く場所だけを守りたいと願うなら、俺はお前のその望みが叶う場所を、要素を、時間を用意しよう。対価として、お前はお前が持つ特異性と戦闘技術を俺にもたらせ」

 傲慢で、不遜な言葉。そんな事を言う人間は大抵ロクでもない。今までそういうやつをたくさん見てきて、そう言う奴らをみんなで殺した。今もそれと状況は変わらないけれど――――今回だけは、賭けてみる価値は無くはない。

 だから私は、返事をする代わりに艾の横をすり抜けて、奥に続く扉を開け、部屋を出た。









「あ、来てくれたんだ」

 時は少し過ぎた頃。もしかしたらって思って暫く待っていたら、何時の間にか部屋の中にあの人が来ていた。白くて赤くて、僕を無間地獄から救い上げてくれた上に道標も作ってくれた人。人、って言っていいのかな。わかんないけど。でもその人――――艾が来てくれた。だから、座り込んでいた体を立ち上がらせる。少し揺れた、毛先に向かって青のグラデーションが見える自分のグレーの髪が、一瞬目の前の人の姿を遮った。頭を振ってそれを退かすと、若干眉を顰めたあの人の顔。。

「お前が何時まで経っても動かないと連絡が来たから来ただけだ。何をしていた、那沙」

「何って、待ってた」

「待っていたのは分かっている、何故待っていた?」

「だってずるいじゃん。円珠の所には行って僕の所には来ないなんて」

「狡いも何もない、必要だと考えたから行ったまでだ」

「そうなんだ、それならいいけど」

 手元で拳銃をくるりと回す。引き金はロックしてあるから暴発はしないけど。

 艾は不思議な存在。薄汚れた僕を、戦場の微かな生き残りを拾い上げて、大切な幼馴染も一緒に連れてきてくれて、住む場所も食べ物も働くための知識や技術も、全部くれた。見ず知らずの子供を。それが僕たちの特異な体質を求めたことが理由だったとしても、あの時僕達に優しさをくれたのは艾だけだった。この人だけだった。だからここまで来たし、皆にも来てもらった。普段は考え事とかしないから、凄い疲れたけど。

「ね、僕は合格できそう?」

「引き金を引き、どういった原理から行動したのかで合否は変わる。適性が無いとわかれば、それまでの過程でどれほどの縁が築かれていようとここに入れはしない」

「そっか、なら最初に言っちゃうね。理由」

 顔を一度、目の前に座っている少年に向ける。拳銃のセーフティを解除し、照準を合わせ、それから艾にまた向ける。艾の顔は相変わらず無表情だった。

「僕は貴方のために生きたいから、ここに来た。引き金を今引く事も、これからやっていくことも、貴方のためになりたいから。そのために、出来る事は全部やったし、僕自身の勝手な感情で歩いてきた」

 乾いた音がした。くぐもった呻き声が少しして、一つ命の気配が無くなった。顔を戻し、少年の体をナイフで裂き鍵を取り出す。銀色のそれは、鮮血がこびり付いててらてらと光っていた。

「貴方は言ってた。戦場は大抵の人間ならエゴイズムの塊にならないと生き残れないって。自分の居る部隊は殊更それを肥大化させないとって。または行き過ぎた功利主義。だから僕は、ものすごい英雄みたいに顔も知らない誰か多数のために動けないから、限られた存在のために、自分の欲を満たしたくて、引き金を引いた。そうすれば、きっと貴方は僕を求めてくれるから」

「……先へ進め。他の人間達が待っている」

「あ、円珠たちも終わったのかな? なら行ってくるね。また後で」

 手を振る。小さくだけど、僕は艾に手を振って。艾は呆れたような表情で、それでも優しく振り返してくれた。嬉しいからまたやろう。

 きっと円珠も、環凪も、月満も。皆合格すると思う。出来レースとかじゃなくて、適性は十分にあると思ってるから。それにあの艾の雰囲気なら、きっと円珠はパスできるくらいの事を示した。性格的にも倫理観的にも一番通過が厳しいと思ってた円珠が出来たのなら、他の2人も大丈夫。そう思って、特に何も問わず出てきた。

「楽しみだな、やっと恩返しができる。もっと深くあの人と関われて、側に居られる」

 いつもは然程仕事をしない僕の表情筋が緩んでいるのを認めて、それを元に戻るよう確かめて、扉の先に続いていた廊下を僕は歩いて行った。








「さて、残ったのはお前達か」

 艾が最後の試験者の退出を確認し、最奥の部屋の扉を開け入ってきた。其処に居たのは、先程艾が会話をしていた円珠や那沙、そしてその幼馴染二人や他にも幾人かが既に部屋の中で待機していた。先に部屋で待機していた蓬が、ゆったりとした足取りで艾の傍に寄り、全ての部屋の映像記録を共有しながら状況を報告する。

「あの部屋を抜けてきたのは十三人中七人。他は私が既に記憶処理を済ませて通常部隊の方へ再配属の申請を終えたわ。ノナリアとアルテミシアはそれぞれ適正部隊への配置手続きのために各部隊へ赴いている。そしていまアップロードしているのが此処に居る七人のそれぞれの室内映像。確認して」

「わかった」

 艾が蓬とのプライベートチャンネルへの同期を始める。ノイズの奔る音だけが部屋に響き、待っている七人はそれを固唾を飲んで見守る。全ての裁量を決める存在が一体どんな結果を下すのか、当然気になるものだ。だが、幾人かは合格はするだろうという楽観的な考えを巡らせていた。わざわざ書面での成績などから選抜され、一つの試験を終えた最終段階でまさか落とされる事は無いだろうと。あんな理不尽な殺害を行わされたのならば余計に。

 暫くして、艾からノイズ音が消えた。そして伏せていた目を開けると、七人へ視線を一度巡らせ、やがて口を開いた。

「ご苦労だった。では結果を伝える」

 沈黙の間。誰かが生唾を呑む音が聞こえる。

「合格者は那沙、円珠、環凪。問答対話対象が月満。以上だ。残りは記憶処理の上、通常部隊への再配属となる」

 その言葉に全員がざわつく。蓬は案の定だと呆れた溜息を溢し、周囲へ目を向ける。視界には、失格とされた三人の新人が艾へ詰め寄っていた。

「何故ですか!? 俺はしっかりあの子供を殺したし、余計な葛藤なんて持たなかった。殺すときにはしっかり殺すし、絶対に能力で劣っている訳がない!!」

「教えてください! どうして私は失格なんですか!?」

 やはり今年もか、と。蓬は辟易とした心でその光景を眺める。一体どういう自身の持ちようで合格だと信じられたのか聞きたいところだが、特にメリットにはならないだろう。ただの手間だと、そう断じそれ以上の思考を止めた。

 相対する艾は、激昂するその様子を温度の無い目で眺め、やがて口を開いた。

「淡々と殺しだけを行い、葛藤も苦悶も無く任務を遂行する。確かに褒められたことだ。それが暗殺者ヒットマンであるなら、あるいはただの兵士ならの話だが。だが俺達が担うのは善悪を逸脱した超然的な秩序の守護だ。そこで個人の信条は揺らがないという下手な自信を持つ人間を求めてはいない」

「……だから、何なんですか」

「ここで最も求められる精神は、自身の価値観と成すべき事への乖離に煩悶し、苦悩し、呵責に苛まれ、それでも任務を遂行する者。悪であっても任を課されなければ殺さず、善であっても任を課されれば殺す。泡沫は任務を逸脱する事は無く、また失敗する事も許されない。初めから己の価値観を一つに絞るのはある意味褒められることかもしれないが、この部隊への配属の是非を問うのであれば、よく言えば柔軟性、悪く言えば脆弱性の無い人間は要らない。何故なら、己が信条や価値観に反する任を負った時、それらはただの障害になり果てる。完全な影の存在である俺達に、そんな確定された不安定要素を持つ人間を迎え入れることはできない。では何故、その言葉の通りなら指示通り速やかに殺したことがその条件と合致しないのか、という話だ」

 艾は静かに、人差し指を天井に向けて立てる。

「例えばある人間にとって、殺す程の事をしていないと考えるターゲットが居たとしよう。その時、任務をそれでも遂行してくれればいいが、懸念として秘密裏に殺さない方法を探し、それを実行する可能性がある。誰かからの視点で見ればそれは美談なのかもしれないが、俺達が課されるものは必ず成されなければならない。であるなら、確固たる信条なんてものは泡沫と言う集団においては任務の完全履行が不可能にさせる要因になる。それが理由だ」

 そういった艾に、三人の失格者である新人は睨みつけるように、そして歯を軋むほど食いしばっていた。

「だったら――――だったら! そんな懸念が要らない位の力を見せてやるよ!!」

 そう叫び、少年は駆け出すと、渡されていた拳銃とナイフを構え艾に牙を剥く。その場にいた新人全員が動揺を露にする中、艾は――――。

「そこまでよ」

 艾は、動かなかった。そして蓬は、離れた場所に居たその姿を瞬く間に移動させ、少年の手を塞ぎ地に抑えつけていた。拳銃は瞬く間にセーフティをかけられ弾倉が抜き取られる。ナイフは、全力で握っている手をまるで赤子を相手にする様に簡単に解き、彼方へ放り投げた。

「丁度良いわ。失格になってしまったのだから、ここで記憶処理をしましょう」

「クソッ! 離せ!!」

「すぐ終わるから大人しくしなさい」

 蓬がそう言い、右手を少年の頭に添える。そして淡い青色が閃光の様に目に映ったかと思うと、それが止んだころには少年は意識を失いぐったりと床に横たわっていた。

「さて」

「ひっ……!」

「っ……」

「怖がらなくていいわ。少し記憶領域にある今から少し前までの記憶を消すだけ。痛みも無く、補完記憶もあるから混乱もしない。今はゆっくり、寝るようにして居なさい」

 怯え震える少女の額に蓬の手が触れる。そして先程同様の光が発生し、少女二人の瞼はゆっくりと閉じていった。

「さ、こちらは終わり」

「ああ、では最後に。月満」

「ふぁ、ふぁい!」

「リラックスし、自分の思うように答えてくれればいい。余計な気の使いや恣意的な虚偽は失格と見做す」

「え、あ、う……」

「問おう、月満。お前があの部屋であの少年を殺したのは。泣き、喚き、震えで照準が合わずにいたにもかかわらず、最後には何の変哲もない少年を殺したのは、何故だ?」

 問う。おどおどと忙しなく泳ぐ視線に合うよう、長身は屈められ、真っ直ぐに視線を合わせる。円珠は眉根を顰め、環凪は手元の銃のセーフティを外し、那沙は小さく微笑む。不可思議な空間で、答えに窮していた月満は、しかし口を開いた。

「わ、私が、皆と居たいと思ったから……じ、自分勝手なのはわかってました。でも、でも、ここで怖くてしたくない事をしないまま終わらせちゃったら、皆ともう二度と会えなくなるって、そう思って。だから――――心の中で何度も謝りながら、殺し……ました」

「…………」

 艾は暫し、月満の眼を見続ける。嫌な汗を掻きながら必死に、自分の考えを述べる少女を、外見年齢20代半ばの男が見つめる。そして。

「――――合格だ」

「……………………えっ」

 優しく、大きな掌で少女の頭を撫でた。ふわりと、微かに触れる様な近さで。

「お前はエゴを貫いた。他の誰でもない、お前自身のために。それが善か悪かを問う者は居ない。少なくとも単純な善悪ではな。そしてお前は見事この幼馴染達と同じ道に招かれた」

 屈んだ姿勢を直し、立ち上がる艾。踵を返し、外へ先程の失格者二名の体を他の職員に渡した蓬と共にさらに奥へと続く扉の前に立ち、振り返った。

「ようこそ、ウロボロス特殊強襲殲滅部隊『泡沫』へ。悩み苦しむ新たな人間達。お前達を歓迎する」

「奥で正式なミーティングを開始するから、全員奥の部屋へ。この部屋に入った時点で、貴方達の全ての情報はデリートされる。自分の未来を暗闇に落とす覚悟を以て、入室する様に」

 艾が、そして蓬がドアを開け、部屋の奥に消えていく。それを見ていた四人の内、那沙はくすくすと笑いながら前へと進む。

「行こうよ、みんな。きっと、何処にも道標が見えない僕達を、あの人は絶対導いてくれる。だから、行こう」

 無邪気に、心底楽し気に笑うその姿に、三人は小さく笑う。

「……那沙だけだと不安だし、私も合格がもらえたのなら行かない理由はそんなにない。あの人は嫌いだけど」

「え、へへ。褒められた……嬉しい。行く」

「俺も行く。やっとちゃんとした場所で全力が出せるんだ。皆で行けば大丈夫だ!!」

 一人、また一人と前へ進む。進んでいく那沙の背を追って、新たな泡沫のメンバーは最後に閉まる扉の奥へ姿を消した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る