第二十八相 欲した人、嫉みの目
昼休みが終わり本礼が鳴る前、屋上で月乃と会話をしていた俺は教室に戻る生徒の波に従う様に廊下を歩いていた。蒸し暑い外の空気と教室の空調で冷えた空気が入り混じる空間に集団。いくらか丁度良い室温はなっているが、それでも人間が居るための若干の体感温度の上昇に若干首筋を汗が伝う。それは月乃も同じようで、長い髪をうなじから両手で持ち上げ、そのまま仰ぐように髪の束を揺らしていた。
「暑そうだな」
「そりゃあ熱いよ、髪長いと蒸れるからねー」
「切らないのか?」
「女の命だよ? 手入れするのは大変だし勝手も悪いけど、長いのは長いのでいい所もあるからね」
「ほう、例えば?」
「男子って長いの好きじゃない? いろんな髪型見られるし」
「俺は長かろうが短かろうがどちらでもいい。本人の趣味嗜好、後は校則に反していなければな」
「ぎんじろ君風紀役員だもんね」
「ここは特段校則が厳しい訳でもない、俺はあくまで機械的に判断を下しそれが及ばない場所を主観的に取り締まっているだけだ」
「多分そう言うのが皆から怖がられてる原因だと思うよ」
「怖がられて上等、雪乃もその意図があった上での抜擢だから目論見は見事適ったという訳だ」
そう吐き捨てる俺の背を見ながら歩く月乃は、それ以上何かを言う訳でもなく沈黙していた。俺への憐みの感情を少なからず抱いている事は予想できているが、それを言及してはいけないと言う無言の意思は伝わったのだろう。
俺は俺に対する風評がどうなっていようと知った事ではない。誰かの行動を制約によって制限させ取り締まるならば、絶対に反感を買い好まれる事は無い。それは雪乃とも生徒会参加後に話をしていた。アイツは俺を理解しているからこそ、それへの懸念ではなく如何に要所要所での加減の仕方や校則に関する知恵を俺に教えてきた。だからこそ、この校内で俺への不満反感を抱く人間が居るのと同じように、俺に無関心な人間や肯定的な人間も存在している。一人でやっていれば間違いなく酷い有様だったのだろうと思うと、アイツの存在はやはり大きい。それは紅にも言える。俺の細かな意図を汲みなるべく毒を中和してくれるアイツのスキルは重宝すべきものだ。初めこそ警戒され嫌悪の対象だったのだろうが、行動で示した俺の在り方を理解してくれた彼女の善意を無碍にしないためにも、俺は確立させた自分の在り方を崩すわけにはいかない。それが仲間である役員であろうとも。
とは言え、別にわざと角の立つ行動をするわけでもない。俺は俺らしくいるだけだ。
「あっ、銀士郎さーーん!!」
廊下の先、前方から人の波を掻き分けて凄まじい勢いで走ってくる人影が視界に入った。胡桃色の髪と頭のリボンを揺らしながら現れたのは、個人的に接触する回数が雪乃に次いで多い瑠璃だった。片手に何かを掴んだそのままに、俺の胸元に飛び込んできた瑠璃を俺は受け止めた。
「銀士郎さん銀士郎さん!! やりました!!」
「落ち着け、どうした」
身を乗り出し飛び跳ねながら至近距離で満面の笑みを浮かべる瑠璃の肩を掴み、何とか静止させる。胡桃瑠璃の性格を知っているから大きく驚く事は無いが、しかし普段俺との距離が近いのを自覚すると大人しく少しだが離れる瑠璃にしては珍しい。興奮気味に息巻く姿に周囲の人間も訝し気な目を向けてくるのを、俺は嘆息を気づかれないように漏らすと、瑠璃の目線に合うよう少しだけ身を屈める。すると、瑠璃は手の中に握られていた紙を開き見せてきた。
「これ!これです! 今日やった小テストです!」
「あぁ、それで?」
「今まで再テストに毎回なってたんですけれど、今回銀士郎さんに教えてもらった範囲が出てきたのを覚えていたので八割の点数が取れたんです!」
目を輝かせ、まるで覚えた芸を自慢気に披露する犬の様に瑠璃はそう言った。手の中の紙を受け取り見ると、どうやら社会科の小テストらしく語群から選択する方式の物だった。いくつかバツがあれど、多くの問題に赤い丸が書き込まれているのは中間テスト前の瑠璃を知っている身だと涙が出そうになる。気持ちだけは。
そこで俺は瑠璃がわざわざ昼休みの時間ぎりぎりまで俺を探しこれを見せてきた理由を察する。それは彼女が以前俺に溢した、純粋な欲求による報酬を求めていること。俺は紙を丁寧に畳み折ると、目の前の少女の髪を優しく撫ぜる。
「よく頑張ったな瑠璃。言った通りお前の努力は確実に実を結んでいる、今後も少しずつ進んでいこう」
「っ……!! はいっ! えへへ……」
ふにゃりと顔を綻ばせ、目を細め俺の手に頭を擦りつけてくる瑠璃。人目を気にする人間かと思ったが、どうやらそれを意に介さない位には本人には嬉しかったことの様だった。俺はそれに対して素直に彼女の努力を称賛する。今まで実を結ぶ事の無かった努力が形になった時の喜びを、俺は知っている。藻掻いても藻掻いても、浮き上がりも沈みもしない、進みも戻りもしないそんな状態は、零落するよりも苦痛を伴う。変化があれば停滞していない事がわかる。微細な変化でさえ、それは救いになる。しかし完全な静止は違う。その静止が前進の努力を根底にしているのなら、折れてしまっても何ら不思議な事は無い。かつての俺も、まだ今の様な学力や身体能力を確立する前にはそういった事があった。努力で前進せず、間違いの後退もせず、その場に佇む状態はとてつもない寂寥感を抱かせた。
だからだろう。瑠璃がこうして自分の成長や変化に喜んでいる姿に、柄にもなく喜んでいる自分が居るのは。
「あっ、そう言えば顧問の先生から夏の大会の助っ人を頼めないかって言われてたんでした」
「陸上か、予定的には被るものもないし構わない」
「よかった、今回もリレー選手を頼みたいみたいで」
「今年もか」
「それだけ信頼されているんだと思います、部長達も喜んでましたし」
「それはありがたい限りだ」
部活動での活動も学費免除の対象となる故に始めた複数部活の助っ人は、去年一年間の実績もあり声をかけられることが増えていた。顰蹙を買うには買うが、しかしこちらも死活問題。何よりこんなぽっと出の男に任される様な実力や成績でいる自分をまずは戒めるべきなのではないかとは思うが、正論で殴り掛かれば数の暴力で抑え込まれることもある。俺は大人しく、任されたことを全うし今に至る。陸上部の顧問や部長などは懇意にしてくれているため、その恩に報いたくもある。断る理由は無い。
ふと、背中を叩かれる。そう言えば後ろに月乃が居たのを忘れていた。
「瑠璃ぃ……?」
「つっ……月乃!?」
「へえぇ……ぎんじろ君とそう言う……」
「ちっちがっ、その、銀士郎さんに、えっと、その、あの」
背中越しに覗き随分と上ずった声で楽し気にそう言う月乃の存在に気が付いた瑠璃が、目に見えて動揺する。月乃の意地の悪さも大概だが、存在に一切気が付いていなかった瑠璃もらしくない。
「これはいい話のネタができたなー、早速後で夜姉に話してこよっと」
「あっ待って月乃!」
瑠璃が静止するよりも早く月乃は自分の教室へと駆けていった。人ごみをものともしない軽やかな去り方に惚れ惚れするが、瑠璃にとってはたまったものではないのだろう。虚空を掴み損ねた手が行く当ても無く前に突き出されたまま、眉尻を下げた顔がこちらを向く。
「ぎんじろうさぁん……」
「はぁ……後で月乃には説明しておく、あまり気にするな」
「気にするなと言われても……」
「別に何もやましいことはしていないんだ、堂々としていればいい」
「そう、ですけれど」
「そろそろ授業が始まる、お前も教室に戻れよ」
「へ? あっ本当です!」
「放課後にそちらの教室に行く、また後でな」
「はい!」
元気と言うか、切り替えの早さはやはり美徳だろう。内容も別に悪事でもないので、本人もあまり見られたくない弱さを
――――憧れの先輩がいる。高校に入って見学しに来た陸上部で、男女合同の練習をしている時にその人はいた。陸上の推薦で入ってきたとはいえその場には自分よりも実力のある先輩達が多く居る。緊張で強張っていた俺を気にしてくれたのか、その人はフランクに俺に声をかけてくれた。
茶色のボブヘアに特徴的なヘアバンドに似たリボン、ルビーの様な綺麗な眼でこちらを見てきたあの人に、多分俺は一目惚れした。
俺は入部を即決し、翌日から早速練習に参加した。あの人が――――胡桃先輩に少しでも意識してもらえるように、必死に練習し、時折話しかけたりしていた。生徒会の仕事もあるのかいない時もあったが、特待生である先輩は異次元の様に速かったのが記憶に焼き付いている。男女どちらの先輩にも胡桃先輩の事を聞いたりし、少しでもあの人の事を知ろうとした。
「あぁ、胡桃か。あの子は可愛いし真面目だし、何より速いよな。気になるのもわからんでもない」
そう言っていたのは、三年生の男子部長、宍戸先輩だった。爽やかな顔立ちと陽の光をものともしない黒髪は、陸上女子部員の一年生に人気だったのが記憶にあった。男子の俺でも格好良いと思える先輩が胡桃先輩に可愛いと評したことに、一瞬動揺する。
「あぁ、その顔は胡桃の事気になってるんだろう? なんとなくわかる」
「そんな……露骨でしたか? 顔」
「この部活でそういう感情を胡桃に向けた奴は何人か見たからな」
やはり胡桃先輩はモテるようだ。当然だろう、顔立ちが良く背が低い小動物の様で、快活で人当たりが良い。おまけに生徒会と言う責任ある役職に就いているんだ。この学園の生徒会役員は美人揃いと聞いていたが、確かに頷ける。
「その、胡桃先輩は今お付き合いされている人とかは……?」
「そう言う話は聞かないな、あの子はストイックだしな」
「……そうですか」
「あぁでも――――」
「宍戸せんぱーい」
「っと、すまんが一旦席を外す」
「はい」
今宍戸先輩は何を言いかけたのだろうか。でも、と言う言葉に何故か頗る感情がざわつく。何かがくすぶるような感覚が。
それからしばらくして、陸上部は男女共に顧問の木島先生によって集合がかけられた。
「今日はまず、夏のインターハイに関するミーティングを行う。先日の予選はご苦労様だった」
インターハイ。もうすぐ行われるそれに、俺も参加する。短距離走とリレー、胡桃先輩にアピールをするには絶好の機会だ。万全の準備をしないとならないのは、その為でもあるし部活のためでもある。気を引き締めないとならない。
なのに、今の俺は顧問の隣に立つ胡桃先輩と、その更に隣に立つ嫌に距離の近い男に嫌が応にも視線が向いていた。
「ここで一つ連絡事項だ。予選会でリレーのアンカーをしていた日野が先日足の怪我を負ったのはみんな知っているな。医師の診断による全治の期間ではインターハイに間に合わない。もとより日野はタイムも伸び悩んでいたのもあって私もオーダーを考えていた」
長身でガタイが良い銀髪の男は、俺含む一年生の視線を一切関せず静かに立っていた。胡桃先輩はそいつに時折顔を向け、何かを耳打ちしている。その顔が、普段俺に見せてくれる顔とは、何か違う気がした。
「そこで今回も、情けない顧問だと思われるかもしれないが我妻に助っ人で来てもらうことになった。今回は宍戸と、生徒会役員仲間の胡桃の推薦だ。二年生と三年生は顔見知りだろうが、一年生は初対面だろう。我妻、自己紹介をしてくれ」
「わかりました」
我妻。その名字に聞き覚えがある。生徒会役員の就任演説で、いけ好かない言葉を偉そうに述べていた男。我妻銀士郎だ。友人との噂話では女子目当てに生徒会に入り込んだ奴だとも、役職権限をいいことに好き勝手しているとも聞いていた。その男が、何故か、宍戸先輩と胡桃先輩から推薦を貰い助っ人に来ている事に、俺は理解が追い付かなかった。
「一年生の皆さんははじめまして。生徒会役員風紀取締をしている二年生の我妻銀士郎と言います。今回は日野さんが怪我をしたと聞き、木島先生と宍戸さん、胡桃さんからの言葉で助っ人に入る事になりました。兼部はしていますが主には空手部の主将をしているのであまり顔を知らないと言う人もいるかもしれませんが、暫くはこちらで一緒に活動させていただきます。先輩方や二年生の方含め、よろしくお願いします」
無駄に畏まった言葉の羅列が無性に癇に障る。挨拶が終わった後の先輩方はあの男と親しげに会話をしていて、同級生達も物珍しさからか会話をしに行っていた。俺にはその気力は無かった。
なにより、見たくもない物を見させられたから。
「銀士郎さん、あんな風に真面目で丁寧にお話しできたんですね」
「俺を何だと思っているんだ、礼儀を重んじる場面では全うするし、敬意を払うべき人には相応の態度で臨む。当たり前だろう」
「そういう銀士郎さんの姿、いつもと違くて私はとってもいいと思います!」
「そうか」
「そっけないですね……さ、練習しましょうか」
「あぁ、そっちもリレー選手だったか?」
「そうですよー、男女どっちも優勝したいですね!」
「そうだな、俺はできる限りを尽くそう」
「はい!頑張りましょう!」
嫌だ。あんな風に笑う先輩の顔はとても素敵だと思うのに、それが隣の男に向けられているのが嫌だ。俺の嫌いな、ルールさえ守ってれば後は意味のないくらいの態度と言葉で風紀を取り締まる理詰めでしかものを考えない奴が、何故胡桃先輩とああも仲良く会話しているのか。そんななんの面白みも無い、人相も悪い不良みたいな奴と。我妻銀士郎と言う男の全てを知っている訳ではないが、一部生徒の間に流れている噂が本当ならば、もしかしたら胡桃先輩は騙されているのかもしれない。噂は何もない場所から発生しない。近似した事実があってこそ出るものだ。あんな仏頂面の裏では、何時先輩を手籠めにしようかなどと考えているに違いない。それは嫌だ。あんな男に負けたくない。
ぐるぐると思考は巡り、練習にもいまいち身が入らない。気分を切り替えようと水飲み場まで歩いて行くと、運が悪いことにあの男が居た。
「…………」
「……? あぁ、一年生か。何か用か?」
腹が立つ。こちらに何も関心が無いようなその声色にも腹が立つ。
「胡桃先輩と、どういう関係だ」
「瑠璃とか?」
下の名前で呼ぶ馴れ馴れしさ。噂を鵜呑みにするつもりは本来持ちわせていないが、しかしそれを呑みたくなる気持ちになってしまう。宍戸先輩から聞いた話では、しっかりと交流を持つようになったのは四月かららしい。そんな短期間で名前呼びなんて、ロクな距離感じゃない。少なくとも俺はそう思った。
「瑠璃とは生徒会の仲間で大切な友人だ。それがどうしかしたのか?」
「……変な感情で胡桃先輩に近付いても、アンタなんかは相手にされない。理詰めで人を取り締まって好きにしてるアンタには」
「……それを言いに来たのか?」
「偶々アンタを見かけたからだ、先生や先輩から少し気にかけられてていても俺はアンタを信用しない。だいたい女性しかいない生徒会に男一人で入ってる奴なんて信用できる訳がない」
「成程な、一理ある」
そう言って頷く奴の顔は、それでも一切変化がない。まるで俺に一切何も関心が無いような眼と声色。
「安心していい、俺に余計な感情はない。そしてお前が俺を気に食わないと思っているなら力でねじ伏せればいい。実力で俺を下せ。大言を宣うよりそれがずっと懸命だ」
「…………っ」
「自分でも非論理的な感情任せの言葉で年上に言葉を吐いている自覚があるなら、それを練習にぶつければいい。さっきの練習は腑抜けすぎてて呆れたからな」
そう言って我妻は俺の横を通り過ぎていった。自分の自分に対する行動への呵責すら見抜かれ、あまつさえ諭されたことに顔が熱くなる。まるでわがままを言う子供をなだめる大人の様な光景に、自分でも感情の矛先をどこに向ければいいのかわからなくなっていた。
わかっている。初対面の先輩にいきなり失礼なもの言いを、理不尽な怒りを、確証の無い噂をぶつけた失礼さを。駄目だと頭ではわかっていた。それでも、俺にこの感情を抑える手段は無かった。結果としては、無様な姿を晒してしまった。水道の蛇口を捻り、冷水を被る。水の冷たさは、煮えたぎった頭と熱を帯びた顔を、心地よく冷やしてくれた。
「……すまんな、悪い奴じゃあないとは思っていたんだが」
陸上部の練習に参加してからしばらくした休憩時間。突然現れた後輩による意図の掴み切れていない感情を交わして戻ると、陸上部の部長でもある宍戸さんが立っていた。申し訳なさそうに頬を掻く姿は、やはり一抹の責任感みたいなものを抱いているのだろうか。
「いえ、宍戸さんの謝る事でもないですよ。そもそもああいうヘイトを買う様に行動しているのは俺自身ですし、それが見事発揮されたと考えるのが妥当です」
「まさか本人にあそこまで苛烈なもの言いをするとはな……部内恋愛を禁止にしている訳ではないが、変ないざこざにならない事を祈る」
「色恋沙汰はロクな事になりませんからね。まぁ彼女の居る先輩には関係の話ですかね」
「馬鹿言え、告白の断り方ひとつでも彼女から文句言われることもあるんだ。いつどこでも変わらないさ」
「大変そうですね」
「お互いにな」
そう言って小さく笑い合う。あの後輩が瑠璃に対して何かしら思う所があり、その傍に急に表れた悪いうわさも聞こえる俺に敵意を向けるのは、まぁ予想できない事ではない。宍戸さんの気遣いはありがたいが、それは自分が敢えて蒔いた種でもある。それに文句を言う筋合いは俺にはない。
「それより部活が終わった後、少し飯でも食わないか? 彼女もお前を気にかけてたし、胡桃も誘って」
「いいですが、あまり遅くはなれませんよ?」
「帰りがけのコンビニで少し駄弁るくらいだ。暫くお前とは会ってなかったしな」
「そうですか、なら大丈夫です」
「OK、それじゃあ練習に戻るか。この後はバトン練を十五本と全体流し、後は個人練だ」
「わかりました、行きましょう」
日差しは強いが、こうしていい先輩に恵まれたのは僥倖だろう。同性の先輩ならばこうして仲良く会話ができるのだが、それでも距離を作っていることが彼にはバレているのだろう。だからこうして気を遣って交流してくれている事に感謝している。人付き合いを避けてきた弊害のコミュニケーション力の低さを、どうにかカバーしてもらえている。瑠璃も然り、こうして積極的に来てくれる人間はやはり接しやすいのかもしれない。
そう考えながらグラウンドに戻る。ある程度人が集まってきていたが、瑠璃の姿が無かった。何処だろうかと視線を巡らせると、水飲み場の方から戻ってくる姿が見えた。すれ違いだったのだろうと思い、元気に手を振りながら駆けてくる瑠璃に、俺は小さく笑い手を振り返した。
「元気だなぁ」
「雪乃は運動とかしないの?」
「私は程々かなぁ、銀士郎君ほどでもないし、瑠璃と比べたらもう天地の差。七望の方が運動した方が良いと思うけれどね」
「私は別にいい、苦手だし」
「だろうね、結乃は?」
「嗜む程度、と言うか今日はまだ三人しかいないんだからアイツの事見てないで仕事して」
「怖いなぁ、ねぇ七望」
「私は仕事終わらせた」
「……裏切者ぉ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます