異次元(とき)の旅(たび)

にぃつな

第1話

 ザーザーと雨が降っていた。空は曇っていて光は見えない。

 ベランダから外を見下ろすように読書していた。つい最近購入したもので『空は曇っている』という恋愛小説だ。

 この空のように人の心も薄暗く曇っている。太陽の光を当てようとELDの光を当てようとしても人の心は明るくならない。

 この小説はまだ途中だ。この先、主人公とヒロインがどのようにして結ばれるのか楽しみなところ。

「ソラ、外は雨ばかりだ。もう七日目だぞ。いい加減、晴れ舞台を見たいのに…」

 彼はシロ。一緒に旅をしている仲間だ。

 もっぱら同じ魔女(母/師匠)の出世だ。

「外の様子はどうでしたか?」

「あー…化け物だらけだ」

 大雑把に言った。

「化け物?」

「あーなんていうかなー、人の形相を持たない生き物だよ。俺を見るなり、襲ってきたから倒してしまった」

 ぐっしょりとぬれた上着を竿に通して、焚火の近くに干した。

 シャツ一枚となったシロの体付きはよく、筋肉もっさりでも骨と皮のガリガリでもなく、その中間というほどだ。

「なにを読んでいるんだ?」

 ソラがなにやらウフフ…と笑いながら読んでいる本に注目がいった。ベランダに出て椅子に腰かけるソラの頭上から本を覗き込む。

「…小説ーか」

「興味ないのですか?」

「興味というよりも活字はどうも、苦手でね」

「なら、読み聞かせしてあげようか?」

「子供じゃあるまいし。それに興味が引く内容じゃないから」

「失礼ね。この本を書いた人に失礼ですよ」

「……トンネル、現れたよ。そろそろ出かけるぞ」

 まだ乾いていない。干したばかりだ。

 着替えはこれしかない。ここに来る間に化け物に服を何枚か破られてしまったからだ。ソラに借りようにも声をかけづらい。

「風よ」

 フゥーと息を吹きかけた。するとたちまちずぶぬれだったはずの服が晴れの日に干したかのようなポカポカで水なんて吹き飛ばされていた。

 魔法だ。

 ソラは魔法が使える。もちろん俺も使える。でも、ソラの方がひとつ上手だ。

「サンキュー」

「いいのですよ。さて、いきますか」

 本をそっと閉じ、その部屋の机の上に置いた。

「いいのか?」

 最後まで読まず中途半端に読み終えた。その本をシオリを挟まず、持って行こうともせず元の場所に戻した。

「ええ、続きは気になりますが、私たちの旅(とき)は還れませんので」

 そうだなと返事をし、次の世界へ向けて旅立った。


 その世界にあったものを持って、世界を渡ることはできない。渡れるのは身に着けるものか、その持ち主から許可をもらったものでしか移動できない。

 次元トンネルはいつ現れるかわからない。

 ただ、わかるのはトンネルが開くまでひたすら待つしかないことだ。

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異次元(とき)の旅(たび) にぃつな @Mdrac_Crou

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